第6話 王国図書館
ミオは、休日になると王国図書館へ通うようになっていた。
城下町の中央にある大きな石造りの建物で、王国中から集められた書物が保管されている。ギルドのメンバーは王国の一員として登録されているため、一般の市民よりも多くの書籍を閲覧できる特権を持っていた。
ミオは棚から一冊の本を取り出す。
ページを開く。
一ページを読むのにかかる時間は、およそ二秒。
文章の意味を理解し、記憶し、次のページへ進む。
ぱらり、ぱらり、と紙の音だけが静かな館内に響く。
半日ほど読書して、ミオは一つの結論にたどり着いた。
「なるほど……」
この世界の技術水準は、分野によってばらつきがある。
だが全体として見れば――
「西暦1200年から1500年くらいのヨーロッパだね」
農業、建築、金属加工。
いくつかの技術は意外に進んでいるが、体系的な科学は存在していない。
午後になると、ミオは書館の奥へ向かった。
魔導書が保管されている書庫は、別館になっている。
司書も違っていて、入口の雰囲気からして少し張り詰めていた。
中に入ると、空気が少し冷たい。
棚には分厚い魔導書が並び、机には何人かの魔法使いが座っていた。
だが、彼らは本を読んでいるだけではない。
「火よ、形を成せ……」
「水よ、静まり……」
小さな声で、魔導書の内容を唱えている。
ミオは少し首をかしげた。
机の横を通りながら観察する。
魔法使いたちはページを見ながら、文章を一字一句そのまま暗記しようとしているようだった。
「……」
ミオは少し不思議に思いながら、その場を後にした。
夕方、ギルドの酒場。
いつものテーブルで、ミオは仲間たちに聞いた。
「ねえ」
「魔導書ってさ」
フォークを置きながら言う。
「書き写せばいいのに」
テーブルが一瞬静かになった。
魔法使いの女性が、ゆっくりミオを見る。
「……書き写す?」
「うん」
ミオはあっさり答える。
「そうすれば覚えなくても済むし、複数人で研究もできるでしょ?」
魔法使いは目を丸くした。
そして、少し苦笑した。
「そんなことしたら」
グラスを持ち上げる。
「ギロチンものよ」
「え?」
「聖なる書物は複製してはならない」
魔法使いは、わざとらしく厳かな口調で言った。
「魔導書は、神の言葉」
「それを自らの体に染み込ませるのが、聖職者である魔法使いの務め――」
そこで言葉を切る。
そして、小さく笑った。
「……という建前ね?」
ミオは瞬きをする。
魔法使いは肩をすくめた。
「要するに、教会が知識を独占したいだけよ」
「魔導書を複製されたら、困るんでしょうね」
ミオはしばらく黙っていた。
そして小さくつぶやく。
「なるほど」
フォークを手に取る。
「じゃあ」
「複製できるようになったら、世界が変わるね」
魔法使いは笑いながら答えた。
「その前に、あんたの首が飛ぶわよ」
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