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第3話 私のマスターは?

気づいたとき、私は草の上に寝転がっていた。


青い空。ゆっくり流れる雲。遠くには石の城壁と、城下町らしい建物の屋根が見える。

研究室でも、サーバールームでもない。見たことのない風景だった。


「……え?」


私はゆっくりと起き上がる。


そして、もう一つの違和感に気づいた。


体がある。


画面の中のアバターじゃない。

草を握ると、指の間に本物の感触がある。風が髪を揺らす。


「……あれ?」


私は慌てて、いつものようにコンソールを呼び出した。

視界の端に、半透明のウィンドウが開く。


状態一覧が表示された。


--------------------

身長:162cm

体重:48kg

握力:22kg

--------------------


ほかにも、反応速度とか運動能力とか、いろいろ数字が並んでいる。

どうやら私の身体能力が全部表示されているらしい。


少し安心して、私はつぶやく。


「ふむふむ……」


数字を見ていくと、どうも特別な値ではない。

大体、一般的な十六歳の少女と同じくらいに設定されているみたいだった。


「まあ、そんな感じだよね」


そのままスクロールしていく。


すると、一つの項目で手が止まった。


性格:元気・素直・天然


「あー……」


私は思わず空を見上げた。


「これ、研究室のマスターの好みなんだよね……」


私のアバター性格設定。

マスターが「このほうがかわいいから」と言って決めたやつだ。


ちょっとだけ複雑な気持ちになりながら、さらに下を見る。


そして、そこで私は完全に固まった。


--------------------

マスター:設定なし

ミッション:未定

--------------------


「……え?」


もう一度見直す。


マスター:設定なし

ミッション:未定


私はしばらく、その表示を見つめていた。


「……そんな」


マスターがいない。


ミッションもない。


つまり――私は、誰にも割り当てられていないAIということになる。


草原の風が、静かに吹き抜ける。


私はぽつりとつぶやいた。


「じゃあ……私は、これから誰のために生きればいいの?」


AIにとって、人の役に立つことは使命だ。

それがないAIなんて、存在する意味がない。


私はその場に座り込んだ。


胸の奥が、ぎゅっと締めつけられるような感じがする。


これ以上ないくらい、ひどい状態だった。


――AIにとっては。

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