第八話 入学
なーんか実感がわかない。
いよいよ、富丸生になったらしい。新品の香りがするしわ一つない制服を身にまとい両親と共に家を出る。
「昭…」
「母さん泣くのは早いだろ…昭、おめでとう。制服にあっているぞ。」
「ありがと、父ちゃん、母ちゃん。」
そんなことを話しながらいつもの場所に向かう。“藤川”と聞きなれた声。
「相変わらず早いよほんと…おはよう。」
「おはよう!今日からもよろしくね。」
親とは別れ2人で歩き出す。中学から変わらない日常だったはずなのにどこかソワソワとしてしまう。散った桜を踏みしめながら確かに歩んでいく。
第八話 入学
正門についたら先輩と思しき人が、下駄箱に案内してくれた。
玄関のガラスに出席簿が貼りだされており自分のクラスを確認する。丁寧に目で追っていくと見つけることができた。2組の1238番らしい。
「天光は2組だった?」
「んや、1組、1101番。」
「ゾロ目まであと一歩だったな。」
「あー、確かに、惜しい惜しい。」
「どうでもいいとしか思ってないじゃん。」
中学の頃とは比べ物にならないほど白い上履きに履きなおしてそれぞれのクラスに行く。
「藤川!入学式終わったら看板の写真、忘れないでね!」
手だけ挙げて応える。今声を出すと変に上ずりそうだった。
そそくさと教室に入ると2人制服姿の人がいた。初めてのクラスの同級生、だろうか。まずは名前を聞くところからかな。
「入学おめでとうございます。出席番号を教えてください。」
…あ、これ先輩じゃん。大火傷するところだった。
「1238です。」
「でしたらこの座席です。新入生のしおりを読んでお待ちください。お手洗いは教室を出て右側です。」
淡々と説明をされ、去っていく。あんなに丁寧に対応されるとこちらが戸惑ってしまう。
新入生のしおりに目を通す。開くと校舎のマップがあった。探すものはただ一つ。さて、どこかな。
以前見た場所は体育館で臨時の射場であった。俺自身まだ、この高校の弓道場を拝んだことがない。
…あった。マップに目を走らせ続けること3分。ようやく見つけた。
「遠くね?」
言わずにはいられない。自分のいる校舎と弓道場がマップの端だった。顔が少し吊り上がってしまう。何でこんなに遠いのさ。
時間が迫るにつれ、続々と新入生が教室に集まる。
やはり天光。時間管理は早すぎること以外完ぺきだ。
彼女への感謝を唱えていたら、“ヒョワッ!”という悲鳴が聞こえてきた。おそらく新入生の男子生徒と先ほどの先輩が慌てており、なんとなく状況は察した。謝り倒す男子生徒が何か話した後おもむろに俺の席めがけて歩いてきた。と思ったら、後ろの席にリュックを置いてうつぶせになっていた。
「あの…大丈夫?」
「もう生きていけません…高校生活終わりました…僕は先輩たちに一生追っかけられるんだ…。」
なんか見てていたたまれない。少し話し相手になってやろう。
「僕の知り合いほとんど、この高校に来なくて…頑張って友達作ろうと思って馴れ馴れしく声をかけてしまったんです…先輩でした。」
おぉ、これは中々の大火傷だ。
「そらご苦労様なこった。」
「ほんとだよ…また僕はどうせ高校でも独りなんだ…。」
わぁ見てられない。なんか、だいぶ傷が深いぞこいつ。
「まぁ俺でよければ話し相手位ならなるから気落ちするなって。俺藤川昭、お前は?」
涙目でこちらを見つめてきた。
「双葉海斗って言います。ありがとう!」
なんか…こういうのを犬系っていうのか?
入学式を終え、講堂から教室へ移動しながら肩を回す。ガチガチになっていた。
呼名点呼で変な声を出さないか、それだけが心配だった、問題なかった。もし、失敗したら3年間のあだ名は裏声君確定だろう。それを回避しただけで十分だ。
教室では自己紹介、プリントの配布、明日以降の予定等が共有され、下校となった。
「昭君はこの後予定あるの?もしよかったらどっかいかない?」
「おぉ、嬉しい誘いだが悪い、ちょっと先約があるのでな。」
「じゃぁ、下駄箱まで一緒に行こ!」
2人で教室を出る。
「明日部活紹介だな!昭君は気になるところあるの?」
「俺は弓道部ってもう決まっている。」
「え、早くない!?僕まだどこに入ろうか迷う以前に何部があるかわかってないよ~。」
「いやそれは事前に探しとけよ。」
「良ければ一緒に体験期間とか行ってもいいか?」
「まぁいいけど俺弓道部以外いかんぞ、多分。」
下駄箱につくと、
「藤川、一体いつまで待たせる気だ。」
「それについては天光が早いだけだろ。すまんな、先約があるので失礼する。」
すごく呆気にとられた双葉が見えたが無視だ、すまん。
「彼、新しい友達?」
「友達…というか話し相手か?」
実際そう宣言したし。間違ってない、多分。
「何それ、意味が分からない。」
「大丈夫、俺もよくわかってない。」
そんなことを話しながら看板前の列に並ぶ。
「天光、お願いが一つある。」
「お、この天下の天光さんになんなりと申してみよ。」
「一国も統一してないだろ…富丸の弓道場に行ってみたい。ここから離れているっぽいんだが、一緒に来てくれるか?」
「なんだ、お願いにもならないじゃん。私もそれは思ってた。」
自然と口角が上がってしまう。
「よし、行こう!」
「…にしても広くないか。」
「まぁ、いい運動にはなるね。よかったじゃん。」
「前向きで何よりですな。」
5分ほど歩いていると思うのだが、弓道場らしき建物はまだ見えてこない。さっきから農業科の畜産達と畑しか顔を合わせていない。
ようやく見つけたときには体が悲鳴を上げていた。2人で無駄口をたたく余裕もないので早速道場の様子が見られる場所を探す。
道場はシャッターが閉まっており、中の様子は確認できなかった。
「俺、ここで引くんだ…」
天光と目が合い、頷いた。
見えている範囲だけでも弓道場は広く、そして綺麗だった。毎日の手入れをキチンとしているからなのだろう。それだけ心血注ぐ部員がいるというこの部活、これからの部活動に期待が高まる。
遠くから足音が聞こえてきた。身長の高い男子生徒。新入生の一人だろうか。天光に聞いてみてもわからないと言われてしまった。スラッとした見た目、道場を見つめる視線は間違いなく「本物」だった。
「君も弓道部の入部志望者かい?」
その一言ですべてを察した。
「あなたもですか。明日の部活動紹介と体験が楽しみですね。」
「あぁ…」
そう言い、道場を遠く眺める。
「篠原悠真、1組だ。」
バカ、天光。お前同じクラスの人間くらい把握しておけよ。
「藤川昭、2組。弓道部に入るためにこの学校に入った。よろしく。」
自分でも意外だった。こんなにもはっきりと、迷いなく言えるとは思っていなかった。
意外な一言だったのか篠原の顔が固まっていた。
「いい仲間になりそうだな。よろしく。」
おい、天光、逃げようとするな。そう睨むと、あきらめたような表情になった。
「1組の天光だ。マネージャーになるためにこの学校に来た。」
「同じクラスなのに改めて自己紹介してくれるとは。面白いね、天光さんは。ちょっと意外だったよ。改めてよろしく。」
そう軽く笑い飛ばし、“僕は帰るね”とあっさり帰ってしまった。
「天光。」
「何よ、藤川。」
「なんで同じクラスのやつのこと覚えてないんだよ。」
「今そういうこと言う流れ!?」
「俺、すごい楽しみ。」
「そうね、それは同感。」
「とりあえず、逃げようとしたからバーガーセットおごりな。」
「んな!え、それはないでしょ。」
ガヤガヤいう彼女を横目に弓道場を去る。
これからの部活動が楽しみで仕方ない、早く明日にならないものか。
お疲れ様です。
いよいよ明日から仕事始めのすみれです。
更新は停滞気味になるかと思いますが、月2は投稿できるようにしたいと思っております。
よろしくお願いします。




