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的を射ずとも  作者: すみれ


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第六話 訪問

 …遠くない?しかも上り坂って…。時計の針は、駅で見たときとは反対側に回っていた。

 あ、あそこか。思ったより小さい?そんなことより、なんて声をかけよう。ごめんください?頼もう?うーん迷ったらこれ一択だろ。


第六話 訪問

「失礼します。」

「はい、こんにちは。どうぞ、中に入ってください。」

 中にいたおじさんにそう言われ中に入る。そしたらあとはシミュレーション通りに、

「あの、ここで弓道を見学させてもらってもいいですか?」

「金丸さんのお知り合い?」

「え…、はい。あ、藤川と申します。」

「金丸さんから話は聞いてます。さぁ、靴を脱いでこちらへ。」

 案内されるがまま道場に入ると3人すでに中にいた。畳の部分に座るように促されたので正座で座ってみる。弓道っぽい、非常にワクワクしてきた。

 座って説明があるのかと思ってソワソワしていたらおじさんはどこかへ行ってしまった。…一人か。とりあえず、「見学」をしてみるか。

 親からもらった弓道の本を片手に前の人を見てみる。弓を引く動作は覚えている。あの時の人と一緒の動きをしている。ただ、もらった本が詳しすぎる。専門用語だらけだし、どこを見ればいいのか分からない。どうしたもんかな。

「ごめんなさいね、お待たせして。」

 あ、置いてかれたわけではないのね。

「いえいえ、こちらこそ突然お邪魔して…それは弓ですか。」

「はい、金丸さんから高校で弓道を始めるとお伺いしています。」

 金丸先生、準備がよすぎないか。

「はい、富浦丸高校に入学する予定です。」

「それはそれは、いい場所を選びましたね。」

「ありがとうございます。」

「話がそれましたね。金丸さんから弓道をぜひ教えてあげてほしいと伝えられまして、今日は弓の話でもしようかと。」

「ぜひ!お願いします!」

 おじさんは名取さんと言うそうだ。

「まず、藤川さんには弓を知ってもらう必要があります。」

 そりゃ弓道だもの、弓が分からなければならないという話は妥当だろう。

「日本の弓を和弓と称することがあるのですが、和弓はそもそも非対称なんです。」

「非対称?」

「はい、矢を構える場所、番えるといいますが、この番える場所が弓の長さが上から2:1となる場所なのです。弓の真ん中にあるわけではないのです。」

 激しく頷いて見せる。が、言われなければ非対称なんて考えないでしょ、普通。

「でも、ここだけが非対称ではないのです。」

「重さとかですか?」

「なるほど、確かに上と下では重さとは少し違いますが、 弓の反発の強さが違います。が、非対称と呼ぶほどのものではありません。」

「ではどこなのでしょう。」

「それは、弦の通り道です。」

 弦はどう見てもまっすぐ伸びており、非対称も何もあったものではない。

「一体どこが非対称なんでしょうか。」

「それは、弓を持った時にのみわかります。左手で布の部分を持ってみてください。弓と弦が重なるように見てください。」

 言われた通り、弓と弦が重なるように見てみると…やはりわからん。何が非対称なのか。

「ごめんなさいわかりません。」

「私も意地悪が過ぎましたね。上と下の弦が止められているのは弓のどこかわかりますか?」

「ちょうど真ん中ですね。」

「はい、でも握った部分のあたりの弦をよく見てください。」

「…右側に寄っている?」

「はい、弓が力を直接受けないようにあえて右側に沿うように調整されています。」

 弓には弦がかかっていることは知っていた。それを引くと弓の反発力で飛ぶことも知っていた。でも弓自身が非対称な形になっていることは知らなかった。

「こういった道具一つへの理解で弓道の世界は様々なことを左右しかねません。正しい理解を持つことが大切です。」

 その後も弓の構造、飛ぶ仕組み、種類や部位の説明と淡々とされ気がついたら昼頃を過ぎていた。

「今日はこのあたりにしておきましょうか。」

「あの名取さん…明日以降も来てもよろしいでしょうか。」

「はい、もちろん。毎日午前中は必ずおります。」

「ありがとうございます!今日はとても勉強になりました。また明日もよろしくお願いします。」


 弓道場の最寄り駅までは心なしか短く感じた。名取さん、最初こそ身構えたがとてもいい人だった。ごめんね、おじさんとか思っちゃって。

 名取さんは金丸先生から話を聞いたとおっしゃっていた。元担任が今でも担任のようなことをしてくれていることに嬉しさと共に複雑な気持ちが生まれる。卒業後まで面倒見なければならない人とでも認識されているのだろうか。

 名取さんには帰り際に射法八節でどんなことをするかだけでも覚えておくと道場で退屈な時間はなくなると言われた。今日は家に帰ったらさっそく射法八節を学ぼうかな。

 手元のスマートフォンが震える。無視?でもここで出ないと…

「何だよ天光。」

「藤川、弓道の勉強するから図書館に来て!」

「また唐突だな。俺が旅行にでも言ってたらどうするんだよ。」

「藤川ならどうせ弓道場にでも行くだろうから大丈夫と思ってた。」

「GPSでもつけてるの?怖いよ、マジで。」

「とりあえず1時間後に図書館ね。」

 そういって電話を切られた。せっかくだし名取さんのお話を豆知識として披露してやろうかな。


「どうだった?弓道場。」

「金丸先生からなんか連絡行ってたみたいで色々なことを教えてくれるらしい。今日は弓のことを教わったよ。」

 なんだか悔しそうな顔をしている。わかるぞ、彼女の脳内が。どうせライバル表れた的なこと思ってるんだろ。

「私も聞きたかったそれ。何で誘ってくれないのさ。」

「いや私宛にしか言ってないじゃん、金丸先生。」

 全然見当違いなことで悔しがってた。本当に読めないこの女。

「藤川と私の仲でしょ!」

「そんな関係になった記憶はありません。」

「まぁいいや、それでどんなこと教わった?」

 話を聞きながら取ったメモノートを出して教わったことを天光に話していく。

「藤川、明日も行くでしょ?」

「9:00に柴山駅北口改札、間に合わなければ置いてく。」

「さっすが藤川!わかってるねぇ。」

「連れてかなかったらうるさいだろ…。」

 この人のうるささにも順応した俺は立派な人間だ、本当に。

「そういえば、明日行く前に“射法八節”を覚えておくといいって言われた。」

「あ、それは調べた!こんな風にまとめてみた。」

 流石です天光姉さん。

「弓の引き方の順序のことだね。足踏み、胴造り、弓構え、打起し…」

「待て、止まれ、シャラップ。一気に言うな覚えられん。」

 天光がニヤリとこちらを見つめなおした、

「この程度で音を上げる男に育てた覚えはないぞ。」

「育てられた覚えはない。」

“ま、とりあえず一通り説明はさせて”と言い、説明を始めた。

「さっきまでの4つと、引分け、会、離れ、残心の8動作を順に経て射を終えるらしいよ。流派でそれぞれ違う形になることもあるけど、名称はほとんど一緒みたい。」

「専門用語のオンパレードじゃん…。」

 でも事実、これを覚えなければ話にならない。ぼんやりとした不安が頭をよぎった。

「藤川、だから私がいるんでしょ。頑張ろ!」

「天光を今人生で一番尊敬している気がする…サンキュ。」

「今までどれだけ尊敬していないのよ…。」


皆さんに読んでいただける喜びでどんどん話が膨らんでいき2話分仕上がってしまったのでアップロードします。

今回も読んでいただきありがとうございます!

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