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的を射ずとも  作者: すみれ


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閑話 報告

 あの人たちに言わずに合格を祝うのは、順番が違う。「打ち上げ」に行く前に天光と2人で母校のインターフォンを押し、自分の名と元担任がいるかどうかを確認する。

 インターフォンからどうぞ~と気の抜けた声が流れてきたので学校に入った。この時間帯はまだ授業中のはずだ。元担任も三年の授業しかない。報告できる時間はあるはずだ。


閑話 報告

「よくきましたね。どうされましたか。」

 金丸先生の丁寧なお出迎えを受ける。

「俺、富丸合格でした。」

「私も、合格してきました!」

「そうですか…まずはおめでとう。」

 その言い方あまり縁起よくない言い方だな、金丸先生よ。

「まずはって何ですか先生。」

 頬を緩ませながら天光もツッコミを入れる。

「合格がゴールラインではないでしょう、特に藤川君は。」

「仰る通りです。」

「あなたが活躍するのを影ながら応援していますよ。」

「温かい言葉、ありがとうございます。俺、頑張ります。」

「天光さんは特に言うまでもないですね。」

「先生って私の扱い雑だったりしますか?」

「いえ、もう腹をくくっているでしょう?彼という人間の底知れない探求力を見たら。」

「私が悪かったです。言われるまでもありません。」

 なんとなーく俺が悪者にされているように感じる。この2人の会話は高度すぎて嫌になる。“あ、そうそう”と金丸先生が付け加える。

「河合先生にもぜひご報告を。それと、興味があれば市立柴山弓道場を覗いてみるといいでしょう。いい勉強になると思いますよ。」

「ありがとうございます。」

 そのときガラガラという大きい音がなり、後ろを見ると

「昨日の今日でもう帰ってきたの!?」

 と超オーバーリアクションの河合先生が入ってくる。らしいけど、ちょっとうるさい。

「OB1日目で帰ってきました。」

「…もしかして二次検査の話?」

 本当にこの人は先生なんだろうか。生徒を信じるということを覚えてほしい。

「合格したんですよ、私と藤川。」

「え…嘘…おめでとう…」

 力の抜けた表情をして発した後、

「おめでとう!天光さんは心配してなかったけど、藤川君!本当によくやりました!」

 本当にこの先生は…。

「ほんと、よくやらされました…。」

「藤川は人を悪者にしない!」

「弓道、やるのね。」

「はい。」

「そう…あの藤川君が…楽しんでね!」

「ちょっと、先生、私への言葉は?」

「まぁ、天光さんなら大丈夫でしょ、うん。」

「それはないってまなちゃん…」

 そんな風に河合先生を下の名前で呼ぶからだろ、自業自得だ。

 そんなとぼけあいをして、授業が終わる前には帰ろうということで帰ることになった。


 二人の姿を見送りながら、もう見ることはないと思うと寂しいものだ。弓道部を選ぶ生徒は減ってしまったからこそ、簡単には手放したくない存在だ。そんな2人を見て少し胸が痛くなる。

「金丸先生、二次試験ある子たちの出願準備と面談がありますよ、急がないと。」

「…ありがとうございます。行きましょうか。」

 “申し訳ない”と金丸はつぶやいた。


「んでーどうする?」

「ふふふ…」

 不敵な笑みを掲げる彼女を見ると鳥肌が立つ。

「お前まさか…」

「はい、予約もしてあるし、体一つ行くだけでOKです。」

 だんだん天光に順応している自分に恐怖さえ感じる。

「親に昼飯いらないって宣言して正解だったわ…。」

「流石ね、藤川。国語力高くなったんじゃない?」

「それとこれとは別だよ、アホか。」

 そんなことをわちゃわちゃ言いながら店に向かって歩く。

 街中はやけに制服姿の中学生が多い。合格発表後のお疲れ様会を俺たちと同じように開いているのだろう。

「そういえば、クラスのやつらから誘われたりしなかったの?」

「誘われたけど角が立たないようにお断りしたー先約があるって。」

「クラスのやつらなんて今後会うかわからんからそっち行った方がよくない?」

「だって…」

 天光が急に立ち止まる。何かまずいことでも言ったか…?

「藤川と掴んだ合格でしょ?2人で祝わなきゃもったいないよ。」

 目的地に向かっていた足が止まってしまう。

「…今日はおごってやるよ。」

 気がついたら自分らしくない言葉を放っていた。

「何?彼氏面?気持ち悪いって。」

 前言撤回、こいつやっぱ人として尊敬できないわ。

「ちげーよ、感謝代だよ。」

「それはこっちもだから譲らないよ、割り勘で。」


 「打ち上げ」なるものを終え、帰宅路。こんな一人の時間の方が少なかったかもしれない。久々のお独り様を堪能しよう。

 昨日も今日も変わらない1日のはずなのになんだか落ち着かない。時間が経てば経つほどだ。思えば、誰かのために熱くなることは数えきれないくらいあった。が、俺自身のために熱くなることはあっただろうか。

 それほどまでに弓道は魅力的だ。一日でも、一秒でも早く触れたいと感じるのは当然だろう。金丸先生に言われた柴山弓道場…ここが一つの答えになるのだったら訪問するしかないだろう。どう挨拶すればいいんだ?どうお願いすればいいんだ?

 そんなことをぐるぐると考えていたら家の玄関の前に立っていた。

「ただい…」

「おめでとう、昭!」

「よくやった、昭!」

 親2人が出迎えてくれた。…あれ?

「父ちゃん、仕事は?」

「息子の大事な日に仕事を休まない親なんかいないだろ。」

 いや、それは普通じゃないと思う。

「ありがと…俺、富丸受かったよ。」


「昭、弓道部には入る気持ちは変わりないんだよな?」

「もちろん、俺そのために受検したし。」

「じゃぁ、これ。母さんと父さんからの贈り物。」

「父ちゃんと母ちゃんから?…ってこれ、弓道の本?」

「必要なものがあったらすぐに相談しろよ。」

「ありがとう。」

 いつか何かお返ししなきゃな。

弓道編への橋渡し

作品を書く中で書きたい話がいくらでも出てくるものですね。

そしてそれを読んでいただけていることが小さな幸せです。

今回もありがとうございました。

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