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的を射ずとも  作者: すみれ


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第五話 受検

 普通だ…学校からの帰り道も一緒。

 帰ってきてからの家での過ごし方も一緒。

 夕飯もいつもと一緒。

 布団に入る時間も一緒。

 本当に明日、受検なのか?


第五話 受検

 いつも通りの生活の中に一つ、大きなイベントがあると普段は眠れなかったり、ソワソワしたりするものだ。全くない。いつも通り過ぎて信じられない。

 多少なりとも緊張したりするものではないか。

「昭、ご飯できたよ。」

「今行くー。」

 普段と違うことといえば、いつもご飯を食べるときは寝間着のはずなのに今日は学ランを着ていることくらいだ。

「今日だろ、受検。」

「うん。」

「昭、お前ならどこにでも行ける、どこでもやっていける。でもお前が本気で目指してきた場所があるなら、そこで夢を叶えてこい。」

「あぁ」

「頑張る必要はない。やり切ってこい。その結果ならどんな結果でも満足できるもんだぞ。」

「ありがと、父さん。」

 食事を食べ終え“ごちそうさま”と伝え、持ち物の確認を始める。

 受検表、アナログ時計、鉛筆も一本、二本、三本、四本、五本、消しゴムも2つ、よし。普段は確認すらしない持ち物たちすら確認したくなってきた。ハンカチにティッシュ、家のカギに学生証。あと、財布もOK。携帯電話はリスクの方が大きい気がするから持たなくていいかな。

 諸々の確認を終え、マフラーを巻き、手袋を装着、準備完了。

「いってきます。」

「昭、これもってき。」

 チョコとホッカイロを渡される。

「ありがと。やり切ってくる。」

「えぇ、いってらっしゃい。」


「いよいよだね。」

「あぁ…」

 受検会場に来てようやく自分の状況を理解する。

「ま、いつも通りやるだけで平気よ。」

「珍しく素直な励ましだな。」

「これのどこが珍しいのよ!いつも通り素敵な天光さんが藤川を励ましてあげているでしょ?」

「はいはい、そういうことにしておくよ。」

 不服そうな顔でこちらを見つめる天光の頬が急に緩む。

「弓道部、入ろうね。」

「もちろん、何を今更。」

 夏のあの出会いがなければ、俺は何をしていたのだろうか。想像する必要なんてないが、そんな世界線も多少は気になる。でも、俺が選んだ道はこの道だ。

「やり切ろうな。」


 座席に座る。座席についたらやることは模試と変わらない。

 まず、お手洗いがどこかを確認しに散歩する。休憩時間はわずかだ。とても貴重なので無駄にはできない。…あった。教室を出て左、突き当りを右だな。トイレの中は…思ったより綺麗だ。県立高校のトイレは古くて悪臭というイメージがどうしても離れないからな…ちょっと安心。

 教室に戻ったら時計の針を確認する。原則チャイムと同時に始まり、チャイムと同時に終了するが、時間経過の確認はしておきたい。時計を外して机上に置く。

 ここまで準備ができたらやることは一つ。瞑想だ。

 模試のたびに悩んできた。始まる前に自分は何をすればいいか。直前まで勉強でもいい、睡眠をとるでもいい、でも俺はあえてこの瞑想を選んだ。なんか弓道っぽくていいからだ。

 コツッコツッという聞きなれない音が二人分。間違いない、試験官だ。机上の状態を確認、鉛筆は三本、消しゴム二つ、時計もOK、受検表も定位置。

「こちらは県立高校の一般入学学力検査、富浦丸高校会場です。お間違いないか、再度受験票を確認してください。」

 問題なし。

「それでは今から記入用紙を配ります。指示があるまで、何も書かないでください。」

 自分の手元においてくださった人に一礼する。名前、受験番号、志望校の記入欄は確認できた。

「では、左側の記入例に倣ってマークシートに記入してください。何か質問がある場合は手を挙げて伝えてください。」

 一つ一つ確認しながら記入する。フ、ジ、カ、ワ、ア、キ、ラ、1、0、0、2、3、5…全て指で確認しながら書いていく。指先の感触がいつもと違う。指でなぞったところにシミのような跡が見える。…どうやら自分は普段と違うらしい。でもいつも通りのことはできている。問題ないはずだ。

「記入用紙を回収します。しばらくお待ちください。」

 一つ一つ確認しながら試験官が回収していく。書き漏れがあったらここで指摘されているようだった。

「本日の試験科目は社会、国語、理科になります。それでは、これより、1教科目の社会の問題冊子を配布します。配布されても手を触れないようにしてください。配布されたら注意事項をよく読んでください。」

 先ほどと同じように一人一人丁寧に置かれていく。試験官の指示に従い、注意事項を読む。試験時間は50分、問題は8ページ、解答は丁寧な字で書くこと…一つ一つ目で追っていく。

「試験時間は50分です。乱調落丁があったら試験開始後、申し伝えてください。」

 試験会場には時計はない。しかし、一定のリズムで音が聞こえる。始まるまでの何分かが途方もなく長く感じる。

「試験始め。」

 そう号令がかかり、一斉に表紙をめくる。鉛筆を走らせる音が教室に響く。カツカツという音、シュッという音…。響く全てを感じながら自分も音楽会に参加する。

 やり切るだけだ…。


「藤川!」

「お疲れ様、天光。どうだった。」

「私にそれ聞く?」

「まぁまぁ。」

 試験が終わった後、天光とのこの会話が力んだ体が緩んでいくのが分かる。

「んで、藤川は?」

「まぁ、トラブルなく終えたかな。」

「そか。よかったよ…別に心配はしていなかったけどね。」

「めっちゃ不安な顔してたくせに何だよ、全く。」

 駅まで特に会話をすることなく二人そろって歩いていた。自分が富丸に通うことになればこの道も毎日歩くことになるはずだ。そう考えると少しワクワクしてきた。

「あのさ、藤川。」

「何?天光。」

「…明日の試験終わったらさ…その…プチ打ち上げでもしない?」

「おー、あり。いこいこ。」

「そしたら明日の試験終わりは門前に集合ね。」

 断ってもどうせ約束取り付けるし。


「…あった。」

 実感は特にない。でもそこに自分の番号、100235はあった。合格だ。

「藤川!番号どうだった?」

「そういうのは自分から名乗るものです。まぁあったけど。」

「!…私もあったよ、よかった…。」

 その言葉を聞いてこちらもつい笑顔になる。ここまで手伝ってくれて感謝しかない。

「俺のために本当にありがとうな。」

「このくらいお安い御用さ。ここからが本番でしょ?」

 頼もしい仲間ができたもんだ。

「じゃぁ…」

 あぁ…またか。

「合格祝いの打ち上げだね!行くよ!」

「へいへい…」

ようやく描きたかった弓道に入ります。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

またよろしくお願いします。

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