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的を射ずとも  作者: すみれ


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第四話 焦燥

 青く澄み渡る空に誓ったあの決意。茜の空が広がるこの季節。美しい景色が広がるのに心は淀んでいる。正直に言えば、過去の私に弱音を吐きたい。いよいよ私は心が折れそうだ。

 こんな言葉を過去の俺に文学的な文章を送り付けたらどう反応するだろうか。四ヶ月でここまで学力を伸ばすことができたのだ。

 天光にも同じことを言ってみたら

「そんなことを考える暇があったら勉強しなってば。アホか。」

と返されてしまった。そりゃないって。


第四話 焦燥

 明らかにレベルは上がった実感がある。ステータス画面を開けば必ず以前より高いステータスのはずだ。もちろん、そんなものはないので分かりっこないが。

 以前の模試では偏差値でよくても50手前だった。10月の模試では初めて数学が60に到達し、全体でも55を超えたのだ。それもこれもあの天光の試練を乗り越えた結果であろう。感謝しかない。

 しかし、11月の結果がよろしくなかった。どの教科も60を超えず、全体でも55に少し届かなかった。俺自身、勉強の手を抜いた記憶はない。毎日積み重ねてきた。でも結果が届かない。わからない。理解したくない。ここが到達点なのか?

 どれだけ甘く見積もっても県立富丸に通う未来はやって来ないだろう。

「藤川君、浮かない顔しているね。」

「河合先生…そう見えますか。」

「あなたのところだけブラックホールになってるもん、ここまでわかりやすい人いないって。」

「それどこぞの学級代表にも昔言われました。」

「誰?」

「お気になさらず。」

 つい天光の話をしてしまいそうになった。

「先生は成績が伸びないときってどうしてましたか?」

「突然何を…まぁ、わかるよ。私どうしてたっけな…逃げてたかな?」

「逃げる…?」

「成績気にしていたら勉強手につかなくならない?」

 大きく頷いた。

「だからボウリングとかカラオケとか1日だけ行ってリフレッシュしてたかな?」

「ありがとうございます。参考にします。」

「いえいえ、また何かあったら話聞くよ。」

 嘘だ。参考にできない。怖すぎる、逃げる暇があったら向き合わないと、そんな暇があったら勉強しないと。

 廊下を歩きながら教室に向かうと金丸先生がこちらに向かって歩いてきた。

「藤川君、帰る前に職員室によれますか。」

「はい、もちろん。」

 絶対成績のことだ。あ~もう嫌だ。午後の授業で集中できる気がしない。でも全力で受けないと時間がない。できるかではなくやるかどうかの問題だ。


 言われた通り、放課後に応接間に来た。

「その席に座ってください。」

「ありがとうございます。」

「単刀直入に言いますね。焦っていますか?」

 焦る…?胸の奥がきゅっと縮んだが、そんな場面は思い出せなかった。

「特に焦ってはいないかと。」

「それはそれで心配ですが。例えば成績、私は非常に頑張って伸ばしたように見えていますが、藤川君はどう感じていますか?」

 そんなもん決まっている。

「全くです。富丸に届きやしない。まだまだです。」

「なるほど、それも仰る通りですね。」

事実を突きつけられて胸が痛くなる。もう逃げ出したい。

「確かに、成績を見れば圧倒的にまだ足りません。でも、藤川君はその程度でしょうか。」

 どういうこと?とぼけた顔だったのだろう、金丸先生が呆れた顔でこちらを見て

「合唱コンクール、とても優れた分析力でしたよね。課題の洗い出し、原因、対応策まで考えていましたよね。その力、どこにいったのでしょう?」

 そんなこともありましたね。とはいえ、模試や課題の出来を分析することはしてきた。してきたはずだ。

「君がそれをできていないのは目の前のことに追われているからです。一度冷静になりなさい。そうすれば多少は何とかなります。」

「ありがとうございます。少し冷静になってみます。」

「受検は脱落レースです。諦めて勉強をしなくなった人から落ちますから。」

 “学級代表によろしく伝えてください”そう言い残して応接間から出ていった。


 下駄箱に行くと天光が待っていた。

「金丸先生との話終わったの?」

「終わったよ。てか何でそれ知ってんの?」

「そんなもん、藤川がついて行っているのを見かけたからに決まってるじゃん。」

「なんだよ、気持ち悪いな。」

「気持ち悪いとは失礼な。たまたま見かけることくらい誰だってあるでしょ。」

 たまたまって何だとツッコミたくなるが、ここは抑える。

「んで、どんな話してたの?」

「んー、成績の話だよ。」

「お、そうか。」

 なんとなくぎこちない会話が続く。

「俺さ、天光に伝えなきゃなって。」

「急になんだよ気持ち悪い。」

「辛辣過ぎない?」

「いつもこんなもんでしょ。」

「それもそうか。じゃなくて、ありがとね、ここまでサポートしてくれて。」

「やっぱり気持ち悪いし、もうリタイアする人のような発言になっているけど…マジ?」

伝え方ミスったな、こりゃ。

「いや、もちろん富丸には合格する。ただ、天光がいなかったらこの四ヵ月のどこかで挫折していたと思う。挫折しなかったのは天光のおかげだなって。」

「まぁ、自分から名乗り出てサポートできないようじゃ話にならないからね。」

「そりゃそうだ。」

 軽口を言った後静寂が訪れる。

「あのさ、まだこれから頑張れそう?」

「何だよ急に怖いな。」

 もっとスパルタになるの?もしかして?

「怖がらないでよ、全く。あのさ、藤川が健全な努力ができていないように見えてさ。」

「健全ってなんだよ。」

「うーん、上手く言語化できないわね。とりあえず、いつもと違ったの。なんかソワソワしていて、地に足がついていないというか。冷静さを失っているというか。」

 なんだ、こいつにはお見通しだってのか。ふと金丸先生の“学級代表によろしく伝えてください”が頭をよぎった。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ評価をしたくなった。

「まぁなんだ。大丈夫だ。ありがとう。」

 家に帰ってベッドに横たわる。最近は家に帰ったら「とりあえず勉強」という状態だったので久々だった。

 分析…そうあの先生は言い残した。今の自分は分析ができていないわけではない…多分。でも足りないとしたら…成績?いや、十分。勉強の仕方?これも天光のおかげで問題ないはず。

 というかこれら全部目の前の課題じゃないか。頭をよぎる課題は全て目の前のこと、ってわけですか。そうですか。

 俺は今から何を考えればいいの…?

 そんなことを考えた瞬間取るべき行動はただ一つ。


「んで、私に急に電話をよこしたと。」

「滅相もございません…。」

「藤川、あのとき大丈夫だって言ってただろバカか。」

 やっぱりこいつに相談するのは間違いだったか?

「んで、帰りの時の話でしょ?」

「そう、金丸先生には…」

 金丸先生にされた話を一通り話してみると天光は少し呆れた声で

「こんだけヒントもらってわからないわけ?」

「バカいえ、これでも真剣に考えたんだよ。」

「まぁ藤川が金丸先生の言わんとすることを理解できない理由もわかる。」

こいつ私のこと見下したんか?

「私の勉強量が足りないって言いたいのか。」

「違う違う、背けたくなるよな、その事実って話。藤川、焦っているんだよ。」

「うん、そうだねとはならないよな。焦っていたらこんなのんきに電話してないわ。」

「成績が思うように伸びてないでしょ。」

 グサリと刺さる音が聞こえてきた。

「その通りだよ。すまんな、こんだけやってもらってるのに。」

「いや、想定通りだから何も謝る必要ないって。」

 ん?どういうこと?

「想定通りって、私の限界点が来るって話?」

「いや、目指している目標にまだ届いていないのに、時間だけがいたずらにすぎるじゃん。そうするとさ、結果ばかりに目が行っちゃう。自分が目指すべきゴールを忘れて。」

 角材で殴られたような衝撃を受けた。

「模試の結果なんて自分を強くする材料に過ぎないはずなんだよ。でもその数字を見て舞い上がっちゃう。私自身もそうだからわかるよ。」

「わかった。こっちから電話かけといて申し訳ないけど切るね。ありがとう。」

「ほんと自分勝手やな。でも分かったやろ、すべきこと。」

 無言のまま通話を切る。

 すぐに机に模試の結果と問題を出す。

「模試なんてただの材料。数字を気にしない。」

 またギアを入れることができた。その焦燥感が消えていくとともに。

新年になりました。

今年もどうぞよろしくお願いします。

弓道のパートに早く行きたいので1日1稿ペースになっています。(あと冬休み期間というのもありますが)

弓道パートに入ったら急に遅くなるかもしれません。ご承知おきください。

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