第三話 修行
俺は「仲間」という存在が苦手だ。弓道に惹かれているのもそれが少しはあるだろう。それでも昔は、サッカーやバスケのようなスポーツが好きな時代もあった。休み時間中駆け回っていたあの時代は懐かしい。しかし、自分だけで上達するには限界がある。ペアを組まなければならない。俺はこれが苦手だった。
サッカーもただドリブルをしていれば試合に勝つわけではない、パスやシュートをしなければならない。どんな時でも相手の動きを読む必要がある。これは一人ではどうにもならない。が、誰かとこれを練習しようとすると「ごめん」という言葉が常に出続ける。自分からお願いしておきながら自分のミスで練習を中断させるのだ。かなりの頻度で。
「なんだかんだ好きなのかな…仲間って言葉。」
だんだんと下がっていく太陽の方を見ながらボソッと呟いていた。
第三話 修行
「ただいまー」
「あら、おかえり昭。お弁当食べたかい?」
「うん、おいしかった。久々に弁当食べたよ。」
「そうかい、よかったわ。入れてほしいものあったら夕飯までに教えてね。」
「大丈夫、ありがとう。」
少し会話をした後に、部屋に上がる。スマホを充電器につなぐとメッセージの履歴があった。確認してみると天光からだった。
「7時に北公園集合、ランニングシューズを履いて走れる格好で…って走らせる気満々だ…返信しておくか。」
了解、と。感謝のメッセージも送って、と。
しかし、本当に疲れた。明日寝坊する気がする。ご飯を食べたらとっとと寝てしまおう。
夕飯を終え、シャワーを浴び、時刻は20時。この時間で眠く、ゲームすらする気が起きないという日が来るとは思ってもいなかった。しかし、本当に色々あった。
まさか天光と学校外であれだけ話すとは思ってもいなかった。彼女の言う言葉すべてを信じ切れるほど俺はいい人じゃない。ただ、少し、彼女の言うことに心が動かされた。とりあえず明日は朝7時に北公園に向かってみよう。
「お、早いね。おはよう、藤川。」
「おはよう。俺結構早かったと思うんだけど。」
「気合いが入っているだけよ。」
そう天光は俺に向かって笑顔で応える。
「とりあえず準備運動からしようか。私の動きを真似てね。」
「ほいほい。よろしくお願いします。」
「はいよ!」
準備運動を見よう見まねでやってみる。伸脚をしたときに想像以上に太ももが張った。嘘だろ、こんなに痛いのか。思ったより自分の体が硬いことにショックを受けながら淡々と進める。
「藤川はさ。勉強には運動が大事って聞いたことある?」
アキレス腱をやっているときにふと天光が尋ねてきた。
「ネットには書いてあったけどやろうとは思わなかったな。」
そりゃ運動が苦手ですから。
「藤川なら絶対避けるよね。」
こちらの考えは読まれていたようで天光は笑っていた。
「わかりやすい人っていいでしょ。」
「あなたほどの人もそうそういないわよ。」
一通り終えた後、水分補給をするように指示を受け、水筒のお茶を飲んでいると、
「1回目だし、今日は3周しようか。」
この人は今何と言った?
「1kmコースのこと?」
「それ以外どこを周るのさ。ほら、行くよ。」
半ば強引に連れられて走り出すことになった。
「おーい、生きてるかー。」
…
「とりあえず水飲んで息を整えて。」
声を絞り出そうとしても出ない。体が重い。死ぬかと思った。というかもう半分死んでいると思う。
「運動をすることで、集中力が上がるし、頭がよくさえるのよ。」
頭で理解しててもやろうとは思わないって。運動の努力は無謀である。自分が今まで選んだ道は正しかったのだ…。
「この後家帰って、図書館に集合ね。9時にまた会おうね。」
この重病者を置いていく気か、あの女。全く、ひどい扱いだ。ただ、こんなことも悪くないなと思っている自分がいた。
「お、さっきぶりだね。」
「天光…お前なぁ…。」
いろいろ言いたくなる気持ちを抑える。不満だらけではあるが俺のためにやってくれていることは間違いないから何も言えん。
「これ、計画表。藤川ならこれを見て理解できるかなと思ったけど、どう?」
ノルマと天元突破という二種類の項目が書いてある。ノルマは必ず終えるべきもの、天元突破は余力があれば、ということだろう。
「やるべきことが明確で助かる。ありがとう。早速やるわ。」
「私も勉強しているからなんかあればいつでも声かけていいよ。」
彼女は満足げな表情をしてそう告げた。
さっそく計画表に目を通すと、国語・数学・英語のどれかから始めるように指示が書いてあった。“暗記が中心の科目は後回しにするべし”か…そんな勉強の仕方もあるんだな。まずは3時間、やってみよう。
昨日よりは疲労感を感じないが、それでもしんどい。現在3時間目、疲労上々、集中力皆無、もうやる気ありません。
授業をきちんと受ける「偉い生徒」ではいたはず。たとい点数は低くとも、ちょっとくらいは知識があったり、理解していたり、過去の俺に感謝する場面が何度か出てくると思っていた。なぜだろう、一切ない。
「昼ごはん食べようや、藤川。」
「おう…天光…」
「思ったよりできていなかったのか。まぁそんなもんだろ。」
「なんでそんなにあっけからんと答えるかなぁ…こちとら深刻な問題になってるんだぞ。」
「でもなんとかできると思うよ。」
「んな軽く言うなって。」
「言ったでしょ、私がサポートするって。一緒に合格して弓道部、入るんでしょ。」
そもそも何で頑張っていたのか、勉強に向き合っていたのはなぜか。忘れていた。目の前の壁に集中しすぎて忘れていた。
「天光…」
「何よ急に改まって。」
「いつ君は弓道部に入るって宣言していた?」
「…は?いやそれはあなたが弓道部に入ったら私も入らなきゃサポートできないでしょうが!」
少し顔を赤らめながらいう彼女は少し面白かった。
これから6ヶ月の修行が…始まる!
投稿を始めて3日目ですが、もう年の瀬です。
どうか皆様良きお年を過ごされますようお祈り申し上げます。




