第二十一話 予選
「それでは、6立目の招集を始めます。立順番号11番…」
「いよいよ次の招集ですね。」
「いよいよも何もないわ。ただ順番が来るだけだろうが。」
「スミマセン。」
誰かと話していないと落ち着かない。とはいえ、選手の先輩方は各々自分の世界に入っている。ちょっと試してみたが、名取先輩の様子的に次はないだろう。いのちだいじに。
「ではみなさん、藤川君に替矢と弦を渡して招集場所に向かいましょう。」
一人一人の個性溢れる矢と弦巻をもらって、後についていく。
「先ほどの立の結果をお伝えします。第一射場13中。第二射場17中。以上です。」
加茂先輩がクルっと振り返り、
「まずは全員3中以上を狙いましょう。名取、あなたはわかってますね?」
「皆中以外出さないから安心しろ。」
第二十一話 予選
「それでは7立目を招集します。立順番号13番富浦丸高校、立順番号14番立山学園高校の選手はこちらに集まってください。」
大前から順番に並び、5人のゼッケン、名前が確認される。特に止められることもなく、椅子に座って次の番を待つ。
「藤川君、筆粉をお願いします。」
黒田先輩にそう言われ、慌てて筆粉が入った容器を渡す。パラパラと手にかけ、手を何度も握っては開きを繰り返し、なじませていた。表情を変えず“ありがとう”とだけ言われ、返された。
「早めからつけるんですね。」
「そうかな?あまり意識してなかったな。」
「そうなんですね。」
滑り止め用の粉なので、直前でつけるものかと思っていた。ほんと、色々なパターンがあるものなのね。俺は直前派だな。
「では、移動します。大前から順に来てください。」
係員の指示に従い、第二控えに向かう。先ほどまでは選手控え場所も近く、ガヤガヤと話し声もよく聞こえていたが、今はすり足の音しか聞こえない。静寂が深まるたびに手に力がこもっていくのがわかる。矢羽根が擦れる音がしたので、慌てて握りなおす。
第二控えにつくと、拍手の音が聞こえてきた。別に自分たちに向けられたわけでもないのに落ち着けない。射場の様子が気になってしまう。が、今は介添え。先輩方のサポートに徹しよう。そのあとはひたすらギリ粉と筆粉配布係となり、先輩方の手にかけまくった。
いよいよ、第一控え。一つ前の立の学校の落が一手引き終えると入場になる。
5立目が引き終えたところでピーピーという警告音、無線から入る的中数の確認の声が聞こえる。淡々と次の立の準備が進められる。確認が終わったのか矢取りが始まり、我らが顧問の佐渡先生が“起立”と声をかける。なんだかんだ初めてあった気がするレベルで見かけた記憶がない。終礼にはいたか?
予選は立射なので、気が付いたら1本目を射場の全員が引き終えていた。何も考えられなかった。呆気に取られていた。聞こえるはずの甲高い弦音がようやく聞こえて来た。
係員から“準備してください。”と声を掛けられる。
5人が円陣となった。加茂先輩が手招きをしたので慌てて入る。
“いつも通り、攻めていきましょう。目標3中、ダメなら次で立て直す。行きましょう。”
掛け声なんて出せるわけもない。でも、自分の耳には6人の声が聞こえて来た。
「第二射場の落の後、入場してください。」
立順番号が奇数の学校が第一射場……つまり先頭で入場する。普段は話しかけるのが億劫になるほどやかましい、ウザイ名取先輩の堂々とした佇まいに圧倒される。
ギュインという弦音が鳴った瞬間、左足を前に出す。力強く、自信にあふれるその一歩に合わせ、完璧なリズムで入場していく。どうしてか、それを見るだけで足がすくんでしまう自分がいた。
丁寧に、しかし、確実に擦る足が見とれてしまうほど美しかった。14立目の学校が全員入場し終えたところで、俺ら介添えはそそくさと介添え席に座る。残るは2人。両校の落である。ほぼ同時に引分けてきており、いよいよ会になる。どちらも3本目まで的中しており、次も的中すれば皆中である
風に揺られる木の音、観客席から聞こえる足音意外、何も存在していない静寂。その静寂を破ったのは第二射場の落。ギュインと力強い音が聞こえ、パンッ—―と音が鳴ったかと思うと、会場が一気に拍手に包まれる。皆中だ。その拍手の最中、第一射場の落も放つ――が、外れた。一気に静寂へと会場が戻る。いや、無慈悲過ぎない?あれを中てろって、酷だろ。
さっきも聞いた警告音が鳴る。ああ……始まる。そう考えるだけで矢じりがギシと鈍い金属音を立てて擦れる。
――起立!始め。
各射場、一斉に礼をして入場する。名取先輩が未だ見たことない速さで諸動作をこなす。気が付けば富丸は第二射場の立山が準備を終える前に弓構えに入っていた。
相変わらずの小柄さ、でも逞しいその背中……いつ見ても安堵してしまうその姿を捉えているうちに、名取先輩が会に入る。時が止まっていた。しかし、その中で安定して伸びきれているのだろう。何の心配もいらないはずだが、固唾をのんで見守っていた。ビィンといういつも通りの弦音。的中だ。
胸をなでおろしたい気持ちになるが、それを許してくれない。続く猪熊先輩が会に入る。微かにふるえているように見えるが、名取先輩に続き、的中する。続く黒田先輩が、会に入る直前何度持つのみを効かせようと試みる動きが見えたが、的の下を舐めるように入った。柳井先輩も続けて的中。
そして、落――加茂先輩の順番。先ほどまでは緊張感あふれる立だったはずなのに……重圧を感じない。これほどまでに居心地のよい空間はない。このまま続いてほしいとさえ思ってしまう。刹那、ギィンという弦音が鳴り、あるはずのない拍手が聞こえて来た。あ、横皆中か。スタートが良い……いい流れだ。ようやく安心できると思うと突然色々な景色が見えて来た。ビデオカメラを構えたり、ひたすらお祈りをする観客、看的で表示される5個の○。試合会場であることが緊張で吹き飛んでいた。
ふと一息をつくと、黒田先輩に目が行く。弓構えの状態で何度も弓を握りなおしており、嫌な予感がする。あんな握り直す人じゃない。何が起きている。介添えという立場は要求がない以上動きようがない。今すぐ立って近寄りたいくらいだ。ただ見守るしかない。なんと歯がゆい。
そうこうしているうちに黒田先輩が打ち起こすタイミングになり、打ち起こす。どんどん引く度に手の震えが止まらなくなっている。俺でも分かる。違う。何かイレギュラーが発生している。あの状態で願いが定まるわけがない。
いつもの鋭さはなく、ふわっと軽い矢がカンッという音と共に止まる……下の的枠に当たった。的中か枠か。わからない。
しかし、加茂先輩・名取先輩のコンビで勢いを取り戻した。2本外しただけ、まだ崩れていない。
最後の加茂先輩が引き切り、拍手に包まれながら射場を出る。
警告音が響く中、視線が、審査員に吸い寄せられる。。
「訂正します。第一射場、中、1中。」
「了解、矢取りを開始してください。」
「藤川君、この後自由にしてもらっていていいから12時にまたここに来てほしいです。我々だけで次の戦略を練るので。」
「わかりました!失礼します。」
結果は16中。名取先輩と加茂先輩、猪熊先輩が会中、柳井先輩が3中、そして……1中の黒田先輩。一刻も早くあの重苦しい空気を抜けたかったので、息が詰まる前に、外に出られた。
今週も書きました!男女合同で弓道の大会をやらせてみたかったんです。一般だと普通のことなのですが、どうしても高校生だと男女がわかれているので…空想なので許してください。
いよいよ試合が始まり、自分の経験をどこまで生かして皆さんに臨場感をお伝えできるかはわかりませんが、頑張ってみます。
今週もありがとうございました。




