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的を射ずとも  作者: すみれ


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第二話 遭遇

 …暑い、暑すぎる。そして、体が重い。もうすぐでオアシスにたどり着くのだから我慢だ、ここで倒れるわけにはいかない。

勉強をしようと思っても家でできた例がない。そう考えたら真っ先に思いつく行先は図書館だ。

 ネットで調べると学習禁止の図書館もあるらしい。しかし、ラッキーなことに公民センター併設の図書館が近所にあり、勉強ができるスペースがいくつかあった。ありがたい。

 図書館の入り口をくぐると、色々な人がいた。新聞を読むおじいちゃん、PCとにらめっこしているお姉さん、宿題をやりにきている小学生。何とも言えない安心感を覚えた。思い思いの時間を過ごすオアシスだった。俺も頑張ろう。


第二話 遭遇


 空いている座席を見つけ、近くに荷物を降ろす。ズドッという鈍い音が聞こえる。なるべく音を出さないようにしたのだが、多少は音が出てしまった。残念。

 ネットで調べたところ、全部の教科に毎日触れることが大切らしい。大量に詰め込んだリュックからワークを取り出す。まずは、宿題レベルのものから頑張ろう。

 …意気込んで始めたはいいものの体力が持たない。開館してから3時間。もう力尽きてしまった。とりあえず休憩するために公民館の方に移動しよう。

「藤川?」

「お、天光か。なんで図書館いんの?」

「こっちのセリフだよ。藤川こそ何で?」

「勉強しに来たんだよ。」

 相手の顔を見て話すには恥ずかしい話なので窓の外に目をやっていた。が、あまりにも返事がないので顔を見ると、固まった彼女の顔がそこにあった。

「意外だよね、わかるよその気持ち。」

 と力なく笑うと、

「意外だよ、そりゃ。試験期間ものんきに遊んでいる藤川しか見てなかったもん。」

 “でも、”と彼女は続けて、

「なんか仲間が増えて嬉しい。お互いの志望校に向けて頑張ろうね。」

 仲間、ね。悪くない。

「天光がそういうこと言うの何気に意外だよ。」

 いつも学級代表に推薦される優等生。周囲といい関係を作れる素敵な人ではあるが、誰かとずっと一緒に居たがるような人ではないと思ってた。

「うるさいな。私だってそういう憧れがあるんだからいいでしょ、別に。」

「憧れ?そんな憧れなくともいるだろ、天光なら。」

「関係を作ることができるだけで仲間とは少し違うのよ。」

 ダメだ、違いがわからない。

「友達いっぱいいるやつが何を言っているのさ。羨ましくてたまらんわ。」

「ま、それぞれに悩みがあるってことよ。」

 彼女は微笑むとふぅ、と息を吐き、言葉を続けた。

「ごはん一緒にいい?」

「お、いいぞ。」

 断る理由もないので一緒に食べることにした。


「俺ら、学校以外で話すことなんてあったっけ?」

「記憶の限りないよ。私、習い事がいっぱいだったし。」

 優等生らしい回答が返ってきて、“流石だな”と感心させられる。

「そんな色々やって何かやりたいことでもあんの?」

ふと聞いてみたら思い出したように食い気味に返してきた。

「それ、私が質問したかったんだけど。どんな風の吹き回しで図書館に勉強しに来るようになるのよ。不思議すぎるよ。」

 “俺の質問には答えてくれないのね”と思いながらもこの前のオープンハイの話を一通りしてみた。

「弓道をやってみたくて志望校変えるって、相変わらず変わっているね。」

 天光に笑われてはいるものの、なぜか嫌な気持ちはしない。

「小学校の時だっけ、精霊の木の役で自然感を出すために中休みと昼休みの間ずっと校庭の木を観察していたの。懐かしいな。」

「小2の時だな、そして観察は別に学校だけでやってたわけじゃねぇよ。」

 天光は先ほどよりも歯止めが利かない状態になっている。

「騎馬戦の時の作戦も、合唱コンの時の指揮者も、人の何倍も突き詰めるよね。藤川のそういうところ私尊敬するよ。あ、笑っているけど馬鹿にしているつもりはないよ、本当に。」

 嘘つけ、笑い続けてるじゃん。

「馬鹿にしててもいいけど笑いすぎ、傷つくってば。」

「ごめんごめん。ちょっと落ちつくね…ふぅ」

 天光は言葉をつづけた。

「でも本当にそのこだわりようは尊敬してる。弓道始めたら藤川はすごいやつになるんだろうな、多分。」

 天光の視線が窓の外に流れたので、それを追って俺も窓の外を見た。でも特に何か変わったものはなかった。夏らしく高く日が差し込む花壇と気怠そうに歩くサラリーマンたちしか見えない。

「私、県立富丸受ける。」

 天光から聞こえるはずのない発言が聞こえた。混乱し、相当腑抜けた顔をしていたからか、少し怪訝そうな顔でこちらを見てくる。

「藤川みたいなやつと一緒の方が成長できる気がするから、同じ場所に行きたい。それだけだよ。」

 頭が追い付かない。

「待て待て、天光ってそもそも柴山受けるんじゃないの?」

「成績的にはね…でもあの学校、少し監獄めいてて苦手なんだよね。」

 たしかに俺でさえいいうわさは聞かない。宿題が多く、日々やってくる課題との勝負とも聞いていた。

「自分に合う学校を探しているところだったのよね、やりたいこともあるし。」

「やりたいこと?」

 ふと聞き返してしまった。

「気になる?」

 含みを持った笑顔でこちらを見てくる。ここで引いたらなんか負けた気がするので思い切って、

「教えてくれ。何がやりたいことなんだ?」

 天光はおもむろに立ち上がり、

「誰かのサポーター、だよ。」

「全っ然具体的じゃないのな。」

「そこは感心するところでしょ。」

 俺としてはもう少し踏み込んだ解答が欲しかったので不満そうな顔をしていると、

「学級代表として担任、学級のみんな、学校のみんなが過ごしやすいようにする、まさにサポーターの理念に沿った行動でしょ。」

「それは確かにな。」

「でも…つまらない。一人一人と向き合うことなんてない、均等に向き合うことしかできない。ダブルスとかペアとか、そんな関係性が少し羨ましくてね。」

 それが彼女にとっての「仲間」ということは俺でも分かった。

「だから、サポートしたいなって思える相手がいないかなって探してたの。夢に向かって、やりたいことに向かって全力な人を。」

 俺自身、少し思い当たる節があるので窓の外に視線を逃がした。

「藤川、いや、藤川君。運動以外の分野で君が努力の鬼であることは知っているつもり。だから、あなたの夢をサポートさせてみてほしい。」

「さらっと運動音痴だって言ったね、その通りだけど。」

 俺自身、こんなことを言われたことがないため返答に困った。とりあえず軽口で返してしまった。

「断る道理なんてないけど、どんなサポートをしてくれるのさ。」

 純粋にサポーターではアバウトすぎる。俺に対して何をしてくれるのだろうか、天光という女は。

「まずは、合格しなきゃね。県立富丸に。明日には学習計画表を作って持ってくるから、国語と社会のワーク、教科書持ってきて。」

「ネットで調べたら5教科毎日触れる方がいいって書いてあったけど…」

「そんなことしてたら熱中症でダウンする。勉強どころじゃなくなるから。わかった?」

 自分なりの計画が崩され不服そうな顔をしていたら、

「ま、泥船にすがる思いで私についてきてよ。」

「そこは大型船とかじゃないのね…」


 約束をした俺と天光はそれぞれ元の場所に戻り勉強を再開した。

 「仲間」「サポーター」という言葉が常に頭によぎる。めげそうなとき、ふと天光の顔がよぎる。俺だって負けるわけにも諦めるわけにもいかない。ここが踏ん張りどころ…そう言い聞かせているうちにあっと言う間に閉館時間になっていた。

 “藤川!”と声の主の方に振り替えると生き生きとした天光の顔があった。

「お昼ありがとな、それのおかげで頑張れたわ。ま、しんどかったけど。」

「そういわれるとサポーター冥利に尽きるわね。」

 俺もそうだが天光も大概だろ、変人度合い。助けられているので文句は言わないが。

「じゃぁ、明日またね!」

「ほい、ありがとう。また明日。」

 あの笑顔を見に明日も来よう。少し目的が増えた。

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