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的を射ずとも  作者: すみれ


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18/21

第十八話 休日

「藤川くーん。」

 双葉か。甘えるような声を出すな、吐き気がする。

「んだよ。急にどうした。」

「今週の土曜日って空いている?」

 今週の土曜日は県総体の選抜メンバーのみの練習だから暇だ…天光はマネージャーとして参加するように言われていたな。達者でな。

「特に予定はないが。何だ。勉強とかか?」

「流石藤川君、ストイックだねぇ。でも違うよ。」

「じゃあ何さ。」

「一緒に遊びに行かない?」

 ……これはデートか?

俺には心に決めた人が……いない。

問題ない。――ないはずだ。


第十八話 休日

 少々早とちりして、二人で仲良く濃密な時間を過ごすのかと思っていたが、どうやら違うらしい。よかった。俺一人じゃあの狂犬をかまう体力はない。

 つい天光のせいで身についてしまった1時間30分前集合の癖をここでも発揮する。

 9時に集合だというのにどこのバカが7時30分に集合するだろうか。朝の時間、普段であれば多くの人でごった返していてもおかしくない駅である。しかし今日は非日常…休日である。黒谷駅周辺を示すマップの前でおじいちゃんたちが政治家の話をしている。時折、甲高いベルの音だけが響いている。

「散歩でもすっか。」

 さ、勇気を出して駅前から離れよう…ん?コーヒー屋か…。

「朝から優雅にコーヒーを飲んで同級生を迎える…悪くない。」

 そんな結論が出てからは早かった。1分後には席に案内されていた。

「いらっしゃいませ。何にしましょうか?」

 必死にメニュー表を見る。が、呪文しか書かれていない。カタカナが、ただの記号にしか見えない。さて、どうしたものか。

「コーヒー屋は初めて来られたのかな?」

 そう優しく声をかけてくれるおばあちゃんに目で必死に訴える。俺、無知です。

「そうしたらねぇ…パン1つ食べられるかい?」

「は、はい…。」

「そしたらキリマンジャロがいいよ。コーヒーデビューにパンもおまけするよ。」

 初心者と見抜かれていた恥ずかしさで死にそう。でも、おばあちゃんのやさしさに感謝。今日は、ツイている。


「はい、お待たせ。キリマンジャロとチョコクロワッサンだよ。このコーヒーは酸味が強いのよ。この甘いパンとの相性がいいわよ。どうぞ。」

「ありがとうございます!」

 早速一口飲んでみる。

 苦い…は苦いのだが、決してそんなわけでもない。どちらかというと口をすぼめたくなるような感じがする。これがいわゆる酸味というやつか。「コーヒー=苦い」というのは正解のようで意外と間違いなのかもしれない。

 そんなことを考えながら飲んでいるとパンを食べていないことに気が付く。

 慌てて飲むのをやめ、チョコクロワッサンをいただく。甘い。バターの香りとチョコの風味とそれぞれが共鳴しあっている。コーヒーとのコンビでいくらでも食べられそうだ。

 あっという間に食べ終わってしまい、時計を覗くと8時を指していた。慌てて出ようとしかけるところで我に返る。今日は誰も待たせていない。それだけで安堵のため息が出る自分が少し面白い。そう思ったこと自体が、少し可笑しかった。

 店内にある雑誌を見ると黒谷駅周辺の特集が組まれた記事ばかりである。

「ここでずっとお店をされているんですか?」

「そうだね~かれこれ40年かしら。」

「長いですね。」

「黒谷から人は出て行っちゃう一方でね…寂しくなる一方だったけど、新しくショッピングモールができたじゃない。それのおかげで人が帰ってきてくれてね。反対の人もいたけど結果的には良かったのよ。」

そういうおばあちゃんの顔はどこか温かみのある笑顔だった。そんな顔を見るとこちらまで幸せな気分になる。これからのことを考えると億劫だ…。


「ごちそうさまでした!」

「またいらっしゃいねー」

 1駅の距離なので散歩がてらここまで来るのは実際にありだろう。いい休日の過ごし方を身に付けた。

 時刻は8時45分。この時間なら一般的な到着時間だろう。

「藤川くーん。こっちこっち!」

 ピョンピョン跳ねる双葉の姿が見えた。

「お、双葉に狩澤。今日はよろしく。」

「藤川ってこういうの来るんだ。意外だな。」

「意外なのか?」

「てっきりこういう付き合い苦手かと思ってた。」

「苦手というわけではないが積極的ではないかもな。」

「なるほどな。」

 納得、と言わんばかりの顔でこちらを見てくる。

「そういえば、弓道部、今日部活ないんだな。」

「来週大会だから選手だけなんだよ。一年はお邪魔虫だからお休みなのさ。」

「やっぱりそうだよなぁ。俺も先輩たちピリピリしていて部活が居辛いのなんの。」

 それはないな。名取先輩がいつもに増して覇気溢れる射になっているのと加茂先輩に近づきづらいだけだ。あれ、それをピリピリという?

 そんな部活話をしていたらジャラジャラといった音が近づいてくる。めっちゃ走っている。安田か。

「え!?もう全員いるの!?わりぃ、遅れた。」

「安田君!時間全然まだだから大丈夫だよ!これで全員揃ったね。」

双葉が全員をじっと眺めると両腕に力を籠める。

「今日は2組男子の大人しい組で遊ぶぞ!」

 いや聞いてないけど。周りを見ると同じ反応をしていた。

「大人しい組ってなんだよ。」

「いい名前が思いつかなくて適当に付けちゃった。」

“アハハ…ごめんねー”と双葉は軽く答えた…なるほど、被害者の会だ、今日のメンバー。

「本音を言うと、男子高校生になってこうやってミニグループで遊んでみたかったんだ。ごめんね、無理言って。」

「んや、別に悪くねぇけど…。」

 やめろ、その目で見るな。そう言われるとこっちが悪いみたいじゃないか。

「誘ってくれてうれしかったぜ。早くいこ、混んじまう。」

その狩澤の一言で俺たちはボウリングに向かった。


Festivoフェスティーボ――休日、という意味らしい。そんな名前の建物には、レジャー施設が詰め込まれていた。篠原と俺を除いた弓道部員も遊びに行っていたらしい、天光曰く。

「藤川と篠原君をあえて誘わないような連中と誰が遊びに行くっての。」

そう言った天光はかっこよかったなぁ。

 まぁ、今日はここで親睦を深めよう、というのが双葉の目論見らしい。

「ボウリングって藤川君はやったことある?」

「全く、皆無だね。」

どうせ無理だ。

「登録名何にする!?」

「俺、ガリベンにして!」

「なんでガリベン…?」

「名前がつとむだからさ。」

「でも安田勉強できなくね?」

「うるさい!藤川は…ショウワなんてどうだ。」

「なんでお前に決められなきゃいけないんだよ…フジカワでいいわ。」

そんなこんなでガリベン/シー/カリウド/ショウワの4つの名前がスコアボードに載る。

順番にボールを投げ始める。男子高校生というものはいとも簡単にボールを操れるのだろうか。となると、俺は男子高校生ではないのかもしれない。

 いくら運動音痴といってもボールを投げることくらいできるだろう。投げるというよりも転がすだ。大丈夫。大丈夫。そう言い聞かせ続けていたら、想像よりも早く自分の番が来てしまった。焦る。3人も投げるのを見たんだ、きっとなんとかなる。右手を後ろに振って前に押し出す。それだけだ、昭。どんどん穴との密度が高まる。じんわりと何とも言えない感触が指に広がり出す。

神様、仏様、天光様。どうかご加護をください。

 思いっきり振りかぶると、視界にあったはずのピンは消え、強い光が目に入ってくる。それとともに背中に強い痛みが襲ってくる。

 無慈悲にもガタンというガターに入る音だけは耳に届いた。やっぱり俺、運動音痴なんだ。


「藤川…なんだ…その…落ち込むなよ。」

「頭では完璧だったんだって…。」

「最後までやり切った姿、俺カッコよかったと思うぞ。」

「そうだよ!かっこよかったよ、藤川君!」

「お前らの方がかっこいいよ、今。」

安田が思いっきりにやける。わかりやすいな、こいつ。

「まぁ、今はお昼ご飯楽しも!」

「そうだな、俺このパスタにするわ。」

「狩澤のと同じやつ頼むわ。」

サクサクと注文が決まった。

「藤川、質問いい?」

「んだ。何か?」

「部活どう?」

「どうとは?」

「弓道部って言い噂あまり聞かないから。」

「どんな噂だよ…。」

 内容によっては否定はできないかもしれないが。

「先輩がひいきするとか、キツイ筋トレばっかさせられるとか…マジ?」

「前者はイエスだな。後者は…ノーかな?」

「え、先輩がひいきってそんなんアリかよ。」

「でもさ、安田。ひいきされて筋トレを普通の3倍課されたらどうよ。」

「え、いじめじゃね?」

「うん、俺それされている。」

一気に同情の眼になった。

「藤川君、すごいんだよ!天光さんからいつも聞いているけど、地獄の中でも地獄のトレーニングこなしているんだって!いつも尊敬しているよ。」

「え、じゃぁ後者は?」

「俺からしたら他は甘ちゃんだよあんなん…。」

 篠原と俺がひいきされている訳だが、噂話するようなやつじゃないから他のやつらだろうな…ほんと好かねぇ奴らだ。

「なんかお前も苦労しているんだな。」

 狩澤に慰めの声を掛けられると料理が運ばれてきた。


食べ終わって休憩してたら双葉からひそひそと声を掛けられる。

「天光さんってどんな関係なの?」

 刹那、時間が止まった。

「アマ…ミツ…」

「え、何の話?双葉。」

「マネージャーさんの話だよ。」

「お?コイバナってやつか?」

「コイバナじゃねぇよ。どんな関係って言われると難しいよな…俺にとってのサポーターとして中3から仲良くしているからさ。」

「ノンノン…そんなんだから彼女ができないんだよ、藤川君。ここは恋愛マスターの安田様が教えてやろう。」

「だから好きでも何でもないっての。」

 嫌いではない。

ただ、胸の奥がざわつく。

それだけで、十分だったはずなのに。


「楽しかったよ!ありがとう!また誘ってもいいかな?」

誰も反対はしなかった。むしろ大歓迎だ。

「今度はカラオケどうよ?藤川、運動がだめでも歌ならいけるんじゃないか?」

「歌の方がマシかもな。」

「じゃぁ次回はカラオケだな。」

“じゃーね”とお互い声をかけ、各々の道を歩き出す。

天光との関係。今まで無視してきた引っ掛かりがここにきて全て無視できなくなった。なぜ、あのとき声をかけたのか……考えられる答えは一つ、あいつが、この俺を好きなのではなかろうか。

 いや、ない。――そうであってほしい。

そんなことを頭の中でぐるぐると考えていると家についてしまった。

このままでは寝られない。気が付く前には 携帯電話を手にしていた。

「藤川、どうしたのさ。」

「天光…。」

「急に電話とはなんだい。お悩み相談かい?」

「いや、そうじゃなくて。」

「ダウト、早く言え。」

「あのさ…馬鹿にしないで聞いてくれる?」

「ほいほい、どしたのさ。」

「天光って、俺のこと好きなの?」

 あ?という低い声が少し聞こえた。

「誰かに唆されたん?」

「いや、なんかふとさ。色々と俺に献身的でさ、普通こういうことってしないじゃん、好きな人以外に。だからそうなのかなって。」

 天光が笑いをこらえきれずに大笑いし始めた。

「これだから藤川って憎めないよね。」

「どういうこと?」

「おこちゃまなんだよ、藤川。でも、そういうところが、私は嫌いじゃない。それだけ伝えとく。」

「そうか、ごめんね、急に。」

 なんか謝らなきゃいけない気がした。

「ほんと急だよ。やめてよ、心臓に悪いでしょ。」

 ”まぁ”と一呼吸おいて、

「藤川が大切じゃなかったらここまではしてないよ。そこは誇りな。じゃぁ、おやすみ。」

 おやすみを言うまもなく切られてしまった。

 今日は寝不足が確定しそうだ。

2月に入りましたね。新年度まであと二か月。

私の職場、いまだに私よりも年齢が下の後輩が入ってきたことがないのです。

今年こそ先輩風吹かせられるかな…とそんなことを思いながらワクワクして過ごしています。

今週も遅くなりましたが、読んでいただきありがとうございました!

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