第十七話 解放
「宝探し?」
そう言われて、篠原は一瞬きょとんとし、次の瞬間、笑い出した。
「やっぱり藤川君は変わっているね。」
「篠原にだけは言われたくない。」
「でもお宝って言うからには何か面白いものなんだろう?」
「うーん、それは五分五分だな。天光の勘が冴えていれば、当たりだろ。」
「天光さんなら間違いないよ。頑張ってね。」
「え、一緒に探さないの?」
「やだなぁ、面倒だよ。僕はここで風に身を委ねておくよ。」
「その風は冷房だろうが。」
それっぽいことだけ言ってカッコつけやがって。
第十七話 解放
「…まさか部活中に始めるとは。」
「意外と楽しみにしていたんだからね。」
意外もなにも、俺にも伝わってくる。お前の熱量。
「まぁ、部活外だと藤川に逃げられる未来しか見えなかったし。」
正解です。よーく理解していますね、俺のこと。
「さてと…早速このロッカー群の中身を全部漁りますか。」
「なんで整理してないのさ…。」
「ちょっとまだ手が回ってなくてね…備品系の勉強が想像以上に多くてさ。」
そういう彼女は、腕をだらりと垂らし、焦点の合わない目で遠くを見ていた。
「で、その勉強って何さ。」
「土の整え方、これ本当に難しい。夏休み入ったら付き合って。」
「まぁ、空いていたら手伝ってやるよ。」
「断っても連れだすから大丈夫よ。」
どこが大丈夫だよ。
「さ、やろっか。私こっちの右上からやるから藤川は左上からやって。」
……扉のきしむ音がした。
「あ?なんでここにお前いるんだよ。」
「あ、名取先輩、お疲れ様です!テーピング、この前仰っていた分追加しました!巻きましょうか?」
「お、天光もいたんか。お願いするわ。古都美が前言ったやり方でお願い。」
天光は慣れた手つきでテーピングを広げていた。
「んで、何でお前いるの?」
「天光の従者です。」
「答えになってないっての。……古都美を舐めてんのか?」
「私が以前見かけたノートの束の話したじゃないですか、アレちょっと見たいねってなって。」
「あー、神立先輩のか。勉強熱心でよろしい。読めば少しは射もマシになるだろ。」
「うへ、相変わらず厳しいですね。」
「古都美、興味ないやつには構わないから。」
いらねぇツンデレだこりゃ。おい、天光、こっち見てにやけるな。
「またご指導お願いします。」
「いいけどまだ素引き?」
「はい、ずっと素引きです。」
「素引きはつまらないんだよ。加茂のやつが巻藁を認めたらまたシバきに行く。」
「ありがとうございます。じゃあ自分は例のノート探すんで。」
「頑張れ、天光。テーピングありがとな。」
「いえいえ!また遠慮なく言ってください!」
「名取先輩、神立先輩のって言っていたよな。天光、誰かわかるか?」
「いや、わからない。けどいつか分かるわ、きっと。ほら、藤川。さ、探そう!」
そう言い始めて10分ほど。ようやく見つけることができた。弓道ノートと書かれたそれを手に取って見てみる。
「矢所と一射ごとの振り返りが書いてあるな。」
「個人の振り返りか……。」
正直、使い道はほとんどない。射は人それぞれだ。引き方も、弓の癖も違う。つまりこれは、このノートの持ち主以外にとってはほとんど意味がないだろう。天光の勘もここまでか……。
「うーん……。」
天光も同じ反応。
俺にはちょっと参考にならないかな。ぼーっと次々にノートをめくっていくとふとあるページが目に留まった。
「天光、このノート見て。」
「んーと、何が言いたいん?他と一緒じゃない?」
「いや、さっきまで見ていたノートより分かりやすい。」
「そうなのか。違いわかんないや。」
「意外だな、わかってくれると思ってた。」
「弓道そのものをやっているわけじゃないからね~。」
「そか。ちょっとこれ眺めとくわ。」
「ほいほい、とりあえず、この棚に神立ノートって貼っておくからそこにしまってね。」
2012/5/21(月)
・1立目
下に矢所が集中。妻手膨らむ。手先で引いている感じ。矢も回転する。手先引き、最優先で修正。3本目、修正をきかせたがその分矢勢も落ち、下へ。
・2立目
下に矢所が集中。妻手は先ほどより良い。純粋に伸びあい不足。手先と張りの両立必須。矢勢を出す方法を模索する。
矢所と射の分析が書かれている。ただ、それだけが他のノートと違う。教本の書き方とは違う。だからこそ具体的な対応策が書いてある。これほどまでに初心者である俺にとって読みやすいものはない。同時に、そこにたどり着くまでに積み重ねるべき時間の長さも、はっきりと見えてしまった。
「篠原。」
「なんだい?藤川君。」
「これ、この前言ってた宝。読んでみな。」
そう言われ黙々と読み続ける篠原だったが、
「うーん、違うな。」
「え、何が?」
「僕がやりたい弓道はこういうことじゃない。」
こいつは何を言っている?俺が否定されたような気がして、無意識にこぶしに力が入った。篠原に言い負かされて終えるのは癪だった。
「じゃぁさ。」
言葉を一つ一つ丁寧に選んで篠原に伝える。
「俺らのデビュー戦。どっちが優勝するか、勝負しようよ。」
「ふっ…いいよ。楽しみだね。」
「いい目をしているな。」
「名取先輩…。」
「古都美もあれがあったから変われた。まぁ、じいちゃんとは喧嘩しっぱなしだけどな。」
軽く笑いながらこちらに歩いてくる。
「早くこっち側に来いよ。待ってるぞ。」
そう言われ震えるまもなく立ち去ってしまう。
いったい何が変わったのか、全く俺自身は理解できなかった。
皆さんは健康に過ごせていらっしゃいますか?
この度ノロウイルスにかかったすみれです。
魂が抜けたように力が入りませんが何とかして書きあげました…。
今回も読んでいただきありがとうございます。




