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的を射ずとも  作者: すみれ


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第十五話 誤差

「あの…名取先輩は?」

「あの人はこういった座学には不向きです。ですから、同じ2年の木野に指導してもらおうと思う。」

 共感でしかない。

「よろしく。名取がすまんな…ほんと。それ以外の言葉が出ん。」

 あ、話が通じるタイプの先輩だ。自然と肩の力が抜ける。大変、大変安堵した。

 篠原と2人声をそろえて、“よろしくお願いします”と挨拶した。


第十五話 誤差

「失礼します!」

 集合のとき以外足を踏み入れられない弓道場。そこにようやく上がることができる。胸が高鳴る。先輩たちにどう思われているのかも少し気になるが、それどころではない。

「まずは今まで教えてきた射法八節を確認するぞ。」

 ゴム弓を使いながら木野先輩に見てもらう。

「篠原もやってもらっていいか。」

 篠原も同じようにやりだす。

「確かに、名取の言うとおりだな…」

 名取先輩のことだ、射形についてだろう。

「2人とも、十分弓が引けそうな体の使い方で来ていると思う。問題ないな。」

 そう言われ、“当たり前じゃん”の感想以外浮かばない。むしろこれでダメだったら名取さんを訴えるレベル。

「そこで、まず今日は道具の扱い、手入れの仕方をマスターする日にさせてもらおう。」


「巻藁をするにあたっての必需品…それは弽、弓、巻藁矢だ。まずは、弓の準備から。」

「あの…それは弓を買うということですか?」

「んや、あんな高いもん一々買わせるわけにはいかねぇ。学校にある弓だ。倉庫行くぞ。」

 ついた先には木製の横開きのドア。開くととんでもない数の弓が陳列されていた。

「お前たちは弓力的に…Dグループから伸び弓を探してこい。」

 天光が以前買っていたであろうテプラで弓に番号が振られており非常に探しやすくてたまらない。流石マネージャー様だ。

「この12kgの弓では強いでしょうか。」

「いや、ちょうどいいんじゃないか?それなりに引く力もっているだろうし。」

「わかりました。」

D14という弓を取り出す。全体が黒く光り、ずっしりとした重みがある。自身の決意が問われているような…そんな感覚についなってしまう。

「…大丈夫か~進めるぞ。」

木野先輩に声を掛けられ我にかえる。

「さて、とりあえず今選んでもらった弓でここからは練習してもらうことになる。手入れとかは責任もってすることな。」

 名取さんにどうすればいいか帰りに聞きに行こうかな。

「それと…はい、プレゼント。」

「…弦?」

「ピンポーン、弦をプレゼントします。」

 これで、ようやく弓が引ける…大急ぎで袋を破る止められたテープをはがして伸ばしてみた。輪っかが1つしかない。俺が知っているのは2つの輪っかの弦だ。不良品か?

「あー、そっか。つけ方もなんも知らんかったらそうなるわな。ごめんな。」

 いや、違う、そうじゃない。でもなんか否定するのもな…。

「弦は弓の上と下の突起に輪っかを入れるんだ。でも弦を見てごらん?1つしか輪っかがないだろ?」

 激しく頷く。が、木野先輩は目もくれずに説明を続ける。

「すでにできてる輪っかは下にはめるやつ。上にはめるやつは自分で作らないかんのよ。」

 うわ…そういうタイプか…苦手なんだよなぁ…細かい作業。

「よく見とけよ?まず上の末弭にはまるくらいの大きさで輪を作って交差させる。その後作った輪の中に先の方を通す。」

 なめらかな動き、覚えるために見ている筈なのに内容が入って来ない。手際が良いを超えて美しい。

「この後がポイントだ。後ろから通した弦を交差させた部分の下側を通して…」

 頭から湯気が上がったようだ。もうこれ以上聞いても何も頭に残らない。実戦で身につくことを願おう。

「じゃ、やってみるか。」


「これで一通り弦の作り方を学べたかな?」

 スパルタ…とまではいわないがひたすらにねちっこかった。何度もやらされ、否が応でも弦づくりになれてしまった。

「では、次に弽の扱い方を…」

 終わった…何もせずに今日の練習終るぞ…。


 弓道場に骸がいっぴき~、篠原がにひき~って篠原!?

「お疲れ様、藤川君。流石、藤川君だよ。こんな練習を終えた後でもまだ何か考えてる。」

 違う、篠原違うんだ。俺はただよっかかれるものが欲しかっただけで。

「生憎そこまでの余力はないな。」

「面白い冗談だね。」

これ以上何か言っても愚策だ。大人しく黙ろう。

「藤川!帰ろ!」

「ほいよ」


「初めての巻藁どうだった?」

「弓引く前に自分の知識が不足してた。」

「え?あれだけ習ったのに?」

 俺もそれで正直十分と思ってた。

「あぁ、道具やその手入れに関しては確かに考えようともしてなかった。」

「確かに。私もそれについては過ごし習った方がいいのかも。」

「マネージャーさんはもう完璧かと思ってたわ。」

「知識と技術レベルはまだまだよ。ちょっと羽の修理についてもやってみようかなと思ってる。」

「レベル高いから、どこがまだまだだよ。」


「おせぇよ、藤川。」

「あはは…」

 こんなん笑って流すしかないでしょ。地獄の再来だ。

「さぁ、やるか。まず引いてみろ。昨日で必要な知識は叩き込んだと聞いた。」

 ほんと無茶ばっかいうよな…知ってるとできるは別物だっての。というかそもそも全国狙うあなたとあの美を再現したい俺とは目指すものが違うっての。

 そう諦めの気持ちが心をむしばみ始めたとき、ふと天光と目が合う。別にただの何気ない、たまたま目が合っただけのことであった。声を交わしたわけではない。にもかかわらず、その一瞬、頑張れという声とグッドポーズを自分に向けて投げて来たような、錯覚をした。

 誰の味方でもないが、それでも俺には最強の相棒がいる。こいつがいる限り逃げるわけにはいかない。俺が彼女の道をねじ負けたようなものだから。

「藤川、この巻藁でまず一射引いてみろ。」

返事をした、一定の距離を取る。足踏みからスタートし、今まで教わったことを丁寧に再現していく。お、矢は問題なく番えられた。

深呼吸をし、肩の力を抜く。体が固くなってしまったら伝わるはずの力も伝わらなくなる。適度に緩んだ体の方がいいらしい。

打起こし、引き分け、会とどんどん進めていく。どうせなら真ん中に刺さってほしいものだ。しっかり巻藁の真ん中を狙って放つ。

びぃぃんという鈍い音と共に巻藁に矢が刺さる。残心…雑念まみれなうえに手の震えが止まらない。俺…弓引いたんだ。

残念ながら真ん中ではなかった。しかし、その矢はまっすぐ、確かに刺さっていた。

「名取、まさかあなた、素引きをさせることなく巻藁をやらせたのですか。」

「んだよ、こいつらはいらないだろ、問題なかったし。」

「全く…何を言っても無駄ですか。藤川と篠原。」

「はいっ!」

 急に名前を呼ばれ声が裏返ってしまった。篠原はいつも通りのおだやかな返事だった。

「急に弓を引き始めたら体が適応せずに、射形も崩れるし体を壊します。進められる手順ではありません。」

 弓は引きたい…だが加茂先輩のいうことに従おう。体は壊したくない。

「チェ、つまんねーの。」

「では、弽を外して、ぞうきんを用意してください。弦を直接もって引くと痛いので、ぞうきんで弦を包んでください。」


「篠原…」

「どうした?藤川君。」

「どうだった?引いてみて。」

「うーん…そうだね、想像以上にワクワクしたかな。どう見えてるんだろ、他の人にはって。どうせならかっこよく引きたいと思ったよ。」

「俺、ワクワクした。でも、それと同じくらい恐怖があった。」

 俺はこれを超えなければ…あの景色に立つことはないのだろう。

「別にあってもいいと思うよ。だって、怪我、下手したら死ぬこともある武器なんだから。むしろ恐怖心を忘れる方が怖いなって思うなぁ、僕は。」

 気に食わない。気に食わないが、ストンと落ちて行った。指先に残った弦の感触が、まだ消えなかった。

だーいぶ空いてしまいました。

やはり労働と小説はなかなか並行して作業できるものではないですね…土日で書き貯めにチャレンジしてみます。

今話も読んでいただきありがとうございました!

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