第十三話 腐縁
我慢しきれなかった。届いた道着を今すぐに着て、あの服装で道場に立ちたかった。ただ、その思いだけだった。
「おぉ、似合っているじゃん。」
「なんか天光にそう言われると狂うわ。」
「私はいつも素直ですよ。」
嘘つけー、白々しすぎるだろ。
「おぉ、道着買ったんかお前。まだ道着に着られているな。弓が引けるようになるにはまだまだだしな。」
「うっす。」
ぐうの音も出ない正論。ちょっと舞い上がっていた自分が恥ずかしい。
「篠原も買ったんか。いいねぇ、様になっているよ。」
「俺にだけ当たり強くないすか?」
勢いよく名取先輩が振り返った。振り返った名取先輩から、殺気を感じる。
「お前は様になれる器になったのか?あぁ!?」
…もう何も返事しない。怖い。
「全く、直ぐ調子に乗るようになっちゃって。」
久々に見る天光の微笑みに、つい頬が緩んでしまう。
俺…この空間が大切なんだろうな。
第十三話 腐縁
「おはよう!藤川君!」
「おう、おはよう。」
「天光さんからメッセージで聞いたんだけど、弓道着買いに行ってたんでしょ?着たところ見せてよ~」
「誰がわざわざ見せるために着るか。」
「冗談冗談…それより、数学の課題終ってる?」
「数学…数学…あ。」
昨日ホームルームで授業中言い忘れたとか言って追加の課題あったわ。現在時刻、8時5分。ターゲット到着時刻8時15分。全力でやるしかない。
「双葉、ノート貸せ。」
「…僕が見せてもらおうと思って…。」
そこからの記憶はない気が付いたら職員室まで連行されていた。
腕を組んだ三浦先生が俺と目を合わせる。あーこれ、完全に怒鳴られる流れだ。
「藤川、なぜ忘れてしまった?」
気を整えているようだった。半端ではない何かを感じる。一番ダメージが少なそうな選択を試みる。
「普段は授業のノートにメモとかするのですが、ホームルームで言われたことでメモし損ねまして…。」
「なるほど、俺が普段と違う行動取ったことで忘れることにつながったと…。」
お?納得してくれる流れか?
「ってことになるか!」
ダメだったか。長いなこりゃ。
「俺が悪い部分はあるな。それは認める。でもそれは理由なのか?」
ダメージ過多。復帰不可能。本日2度目のぐうの音も出ない正論。そこからは頭が外れそうになるほど謝罪した。職員室を出るころには失神してしまいそうになった。
「怒られちゃったね…」
「三浦先生は後には引かないタイプだからこちらが切り替えれば何ともない。」
ほんと、大人ってすげぇわ。あんだけどなり散らかしていても授業中は対等に扱ってくれるって。
「気持ちを切り替えていこ。」
「そうだね!」
「…ということで、サイコロを同時に振るとき、順番に振るときでは求め方が変わる。これを今日は覚えておいてくれ。問題集の94ページは解けるはずだから解いておけ。はい、号令。」
「起立、気を付け、礼。」
溜息が出る。やっぱり御三家なだけある。進度がめちゃくちゃ早い。絶対おいてかれる自信ある。天光とかきっと余裕なんだろうな…柴山狙ってたくらいだし。天光頼ったほうが早いな。よし。
「あれ、藤川君、どこ行くの?」
「ちょっと天光んところ。」
ちょっとカッコつけて出て行ってみる。勉強に関して困ったら天光。そうやって俺は半年かけてここまで来たんだ。1組の最前列っと…いた。
「天光、相談がある。」
「どの話?」
「数学。」
「部活終わり1時間までならポテトで付き合ってやる。」
「それでよろしく。」
「あいよー、毎度ありー。」
ほんと天光がいて助かる…でなかったら間違いなくドベを取る自信しかない。
「あ、おかえり、用事は済んだの?」
「あぁ、無事にな。」
「よかったぁ。あ、そうだ。これ、見たことある?」
「…恐竜辞典?」
「ちょっと違うかな。絶滅したやつに絞って集めた本!絶滅動物ってなんかロマンない?」
「ないな。」
うん、全く。
「即答!?ちょっとは話乗ってよ~」
「わーった、わかったから。んで?どうしてまた急に。」
「この本を基にした展示を県科学博物館で開かれるらしくて、藤川君、どうかなっと思って。」
正直に言うと悪くはない。博物館、好きだし。でも…
「お前と2人とはごめんかな…」
双葉の顔がだんだんと悲壮感あふれる顔になってくる。やっぱり面白いな、悪い意味ではなくて。
「なんか沈んだ顔で言われると余計悲しくなるから辞めて!?…あ、いいこと思いついた。ちょっと待ってて。」
何を考えていやがる、こいつ。出て行った方向的に1組…あー、天光ね。こりゃ失敗して帰ってくるだろうな。ぼーっと扉の方を見ていると、1分もせず泣きながら帰って来た…え?
「断られた…天光さん断られた…」
天光にはものの頼み方の順序ってものがあるからな。いや、でも泣くほどではなくない?交渉に命かけすぎだろ。
「仕方ねぇなぁ…ったく。手間の係るやろうだ。」
5分前通った道を戻る。
「天光さん、数学のお願いをした後に大変恐縮ですが、折り入ってご相談が。」
「何よ。」
「双葉君から博物館誘われておりまして、どうか一緒に博物館に来ていただけませんか?」
「頭が高い。」
天光が口角を上げる…俺がここで引かないことを見抜きやがって…仕方ない、必殺扇を出すしかない。
その場に正座をし、呼吸を整える。手を前に出そうとしたらすかさず天光が口をはさんできた。
「いや土下座いらないから。埋め合わせを示して。」
「天光プランの休日にお付き添いいたします。」
「ならよし、今週ならついてくよ。」
「話が分かる方でありがたいです。」
「なんてね。冗談よ。別にいいわ、あなたからの誘いならついていく。」
…意地悪なやつだ。
「天光。」
「ん?どうした、藤川。」
「天光がここまで誘いに乗ってくるの珍しいなって。ありがたいけど。」
「昔からのよしみだからよ。ただの気まぐれ。」
いや、そんなに歴史長くないわ。
「そういえば、まだまだ弓道人としての格が足りてないとか言われてたなぁ?」
「いやそれは言い過ぎ。道着が似合ってないだけだよ。」
本当に失礼だなこの女。
「名取先輩から大分キツイメニューやらされそうだな。」
「大丈夫、大半のヤバい何かは名取先輩のおかげで耐性ある。」
「それって私たちはどう反応すればいいのよ。まぁなんにせよケアは任せて。ツボの勉強してきたから前回よりも痛気持ちいはず。」
「ほんの少しだけ期待しとくわ。」
そうこう話すうちに弓道場につく。
「お、天光、来たな。的付けと粉の準備お願い。」
「はい!ただいま!藤川、的見お願い。」
「はーい。」
俺は一年で、まだ弓を引かせてもらえない。準備も不要。だからこうして天光を手伝うのが日課となっている。
準備を終えたところで40名ほどが一斉に並んで座る。
「黙想!」
さぁ、練習開始だ!
「んで?いつになったら立てるんだよ。その程度か?篠原に負けていいのか?」
ひたすらにあおられているが答える余裕がない。化け物しかいねぇ。
「いやまだ負けてませんってだから。」
「なんだ、まだ動けるんじゃん。ほら追い込み2回目行くよ!」
ただ、この名取という先輩に負けたくない一心でノルマをこなす。
「藤川も篠原も良くやるよ。他の奴ら引いてるぜ。言われた数の3倍こなす動機なんてただの怪物だよ、普通。」
「普通じゃないことは理解している。」
でも、普通じゃ追いつけない。それを理解しているつもりだ。それでも俺はやり切りたい。
「練習終ります。礼!」
ようやく終わった。
「藤川。大分体幹が安定してきた。」
「ありがとうございます。」
「どうだ、巻き藁練習してみないか。」
え、弓いいの?自分の中ではまだもらえない予定だったので想定外の言葉に驚いてしまう。
「ぜひ。ありがとうございます。」
「これが練習量スペシャル版にしている人へのご褒美や。部長と顧問もOK行ってもらってるから誇らしく次の部活には来い。」
「はい!」
苦節1か月。ようやく弓を引くことができそうです。
正直書きながらフルタイムってしんどいですね…。
でもどこか楽しいと思える自分がいます。びっくり。
なんだかんだ3万字を突破しました。卒論の字数が人生最大だったのにあっさり超えて驚いております。
これからもどうぞよろしくお願いします。
今回も読んでいただきありがとうございました。




