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的を射ずとも  作者: すみれ


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12/21

第十二話 凡人

 腕はもう上がらない。腹筋は悲鳴を上げ、足は床にくっついてしまっている。

「はい、藤川。足貸して。」

 天光に湿布を張ってもらい、軽くもんでもらう。

 隣の篠原は素敵な笑顔を振りまいている。

 どうして…どうしてこうなった…。


第十二話 凡人

「こっから追い込みだ!もっと追い詰めろ、筋肉も精神も限界を超えさせろ。いけんだろ!?」

 同級生たちの視線が痛い。異常だ。こいつは異常だ。なんでこの状況で笑顔で筋トレができる、篠原悠真。

 今日の強化版メニューを終えると名取先輩がこちらに歩いてくる。歩くたびに砂煙が上がる。体が固まってしまう。

「篠原は噂に聞いたとおりだ。いい体もっているじゃん。もっと磨けば強くなれる。」

「ありがとうございます。体の丈夫さが取柄なので。」

「聞いたことねぇよ、そんな取柄。んで…」

 どーせ力不足ですよ。軽口を言う間もないだろうな。

「よくついてくるじゃん。口だけかと思ってた、正直。」

全身の力が一気に抜けた。追加メニューを覚悟していた分、拍子抜けする。

「だから古都美も本気出す。古都美もあんたと同じ理由でこの学校に来てるから。」

…は?この先輩は何を言っているんだろうか。いつそんなことを言った?勘違いされている?精一杯振り絞ってでも聞くべきだ。

「何を目指しているんですか、先輩は。」

「そんなもん簡単じゃん。全国だよ。」

 …なるほど、わからん。なぜ全国?

嚙み合わないわけだ。俺が“そこ”に行ったところで加茂先輩に追いつくわけではない…目指すものではない。


「藤川、お疲れ様。」

「マジで…歩くのも…キツイ…。」

「話し相手がいなくなるってのも寂しいものだねぇ。」

 ここは反応しなくていい、無駄にエネルギーを使ってたまるか。

「はぁ…つまらないわね。まぁいいや。それよりも、今度の土曜日に弓具店行かない?」

「そか、揃えろって言われてたな。でもまた急にどうしたよ。」

「先輩たちが引くときに使う物の調達を頼まれてね…どうせ行くなら藤川も一緒の方が心強くて。」

「うぃ、いいよ。」

 後ろから軽やかな足音が聞こえて来た。

「それ、もしよかったら僕もついて行っていいかい?」

「篠原君。…藤川、どうする?」

 答えは決まっていた。

「俺は歓迎するぜ。色々聞きたい話もあるしな。」

「とてもありがたいね。連絡先だけ交換しておいてもらえると助かるかな。」

 QRコードを読み取り、友達追加した。

「また明日も一緒に頑張ろう。じゃぁね。」

「天光…なんであいつってあんな輝く笑顔放ってるの?」

「私はさわやかさよりも恐怖が勝つわ…何者…?でも何かのスポーツはしてないとああはならないと思う。」

 なるほど、きっとムエタイかなんかやっていたのだろう、そういうことにしておこう。あぁ、流石だな、篠原君は。


「そういえば天光はマネージャー枠になれてよかったな。」

「ほんとよ…前代未聞って話で断られる予定だったけど佐渡先生が助け舟出してくれたみたいよ。」

「ふーん、ちなみにどんなことしてるの?」

「的中の記録、的張り、ギリ粉と筆粉の管理、会計かな。今のところだけど。」

「矢取りはないんだ。」

「記録と矢取りはいくら私でも一人じゃできません。」

「そらそうか。…てことは先輩の射を見放題?」

「お、いいところ気が付くね。じゃーん。」

 そう言って誇らしげにノートを掲げる。

「先輩たちの矢所と射の分析をそれとなくまとめてるノート。」

「俺にもその成果発揮してくれよ、相棒。」

「ほんっと虫唾が走るからやめてその呼び方。」

「ちょっとあこがれてたんだよ、悪かったな。」


土曜日だというのに早起きして集合時間の1時間30分前につく。流石に今回は…

「おはよう!」

 なぜだ、なぜここに居る天光美咲。

「朝飯抜いてここに来たというのに…完敗だ。」

「それは私もだよ。そこのカフェでサンドウィッチでも食べよう。」

「助かる。」


「このモーニングセット2つ、紅茶でお願いします。」

“はーい”と店員は奥にそそくさと行った。

「今日は何を買うんだ?」

「あなたが帰れる状態になるまで待っているときに点検してたんだけど、筆粉とボンドが怪しかったから買うのと、物の管理用にテプラを導入しようかなって。」

「テプラ?それはなんで?」

「弓の管理が購入時に貼られている保証番号だったのよ。もうはがれかけもあるし、いかんせん見づらくってね。他にもテプラがあったら藤川も含め、新入生が物を探しやすくなるしね。」

「マネージャーっぽいな。」

「マネージャーだわ、失礼な。そんで藤川は?」

「俺は道着、矢、ゴム弓、弽かな。」

「弓道部っぽいな」

「弓道部だわ、なめんな。」


サンドウィッチおいしくいただいて、集合時間である9時に間に合うように店を出る。集合場所には、まだ篠原の姿はなかった。時間ぴったりタイプか。

「ごめん、待たせたかな。」

「おう、待たせてる。」

「アハハ、手痛いなぁ。それじゃぁ行こうか。」

 2人で頷く。

「そういえば、話したいことがあるって言っていたね。早速聞いてもいいかい?」

「そら沢山よ。まずは、篠原はなんであの鬼特訓をあんな笑顔でこなせているのか、だよ。」

「それ、私も思ってた。藤川もそこまで体力がないやつとは思ってたんだけど。それを軽く超えてるよね。」

「なんでだろうな…しいて言うなら野球部より優しいから…かな。」

「篠原って野球部だったのか?」

「あぁ、そうだよ。ピッチャーをしてたんだよ。」

 野球部ってことは足から肩、腕まで筋肉がついていてもおかしくはない。

「だったら野球部に入れよ…名取先輩のトレーニングが過熱している原因篠原のせいだからな…。」

「アハハ、ごめんごめん。そんなつもりはなかったよ。でも野球はもうこりごりかな。一人で戦いたいって思ったんだよ。」

「ってことは全国狙っているのか。」

「僕はそのつもり。」

さわやかな笑顔はふと消え、入学式のときのあの雰囲気を思い出す。

「だからって自ら申し出てくる必要ねぇだろ…ありがた迷惑…いや、ただの迷惑だわ。」

「アハハ、藤川君は手痛いなぁ。」

「まぁいい。名取先輩の件はわかった。俺は逃げられそうにないから甘んじて特訓を受け入れるわ。」

「でも君はキチンとこなしているし、すごいじゃないか。」

「やらなきゃ殺されるだろ、アレ。」

篠原って根っから善意で会話を続けているからこちらが狂わされてしまう。

「このビルの7階だよ、2人とも。続きは中で話しな。」

「ナビ、ありがと。」

「助かったよ、天光さん。」

「いえいえ~、お役に立てたようで何より。」


 一列に並べられた弓・矢。ショーケースに並ぶ弦。店内に飾られる弽や道着。これが弓具店というやつらしい。

「いらっしゃい。鹿川弓具にようこそ。新入部員の皆さんかな?」

「昨日連絡した富浦丸高校の弓道部です。今日はよろしくお願いします。」

“藤川君”とヒソヒソと篠原が声をかける。

「なんだ、どうした。」

「天光さんっていつもこうか?」

「想像の100倍は早いぞ、仕事も手を出すのも…」

 !?奇声を発しそうになるがおさえる。ピンポイントですねを蹴るとは…だんだん容赦なくなってきたな。

「じゃぁ道着と矢を買う二人は奥においで、採寸するから。」

「お願いします。」

「天光さんはこっちで商品の説明するわね。」


「今日はありがとう。2人と一緒に来られてよかったよ。」

「俺も篠原と話せてよかった。もう少しトレーニングのときは手加減してくれ。」

「それは無理な相談だ。諦めてくれ。天光さんも部活のためにありがとう。」

「藤川だけじゃなくて弓道部全体を背負っているつもりだからね。マネージャーですから。」

 ”じゃぁまた明日”とそれぞれの家路に向かう。

 どうしても名取先輩の言葉が引っかかる。「全国」は言うまでもない。強者の集まる、全国大会のこと。いつ俺がそんな発言をしたのか。俺は戦うためにここに来たわけではない。納得はいかない。全国を目指すつもりもない。それでも、あの背中を思い出すと、この程度で折れてはいられなかった。

私の住居付近は雪が降る予報です。

明日の朝、雪かきができると思うと楽しみで仕方ありません。

雪かきを嫌う方が非常に多いのですが、私はいい運動になるので非常に好みです。

皆さんはどうでしょう。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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