第5話:ウチ、水中デートって言われたんやけど!?
高老荘にて新たな弟子を加えた三蔵一行。
八戒は、スイーツポーチから取り出したクッキーを頬張りながら、もぐもぐした口で悟空に尋ねました。
「ねえ悟空っち~、次ってどこ行くの~?温泉街?スイーツ街?それとも映えスポット~?」
悟空は軽く振り返って言いました。
「ウチもそれ気になってた~。三蔵さま~、次どこ向かってるんですか?」
三蔵法師は静かに地図を広げながら答えました。
「次は、流沙河という川を渡ります。
あそこでは、旅人が川の中に引きずり込まれるという噂があります。
……川に潜む者が、旅人を襲っているのかもしれません。
争いにならないことを願いますが、備えておきましょう」
八戒は一瞬固まり、クッキーを飲み込んでから言いました。
「えっ…それって、映えどころかホラーじゃない~!」
悟空は如意棒を肩に担ぎながら笑いました。
「ホラーとかマジ無理~!でもヤバいの来たら秒でぶっ飛ばすから!」
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三人はそれぞれのペースで歩を進めながら、
流沙河の水音が少しずつ耳に届き始めていました。
流沙河――
その川を渡ろうとした旅人が、次々と「引きずり込まれた」と噂される場所。
三蔵一行がその川辺にたどり着いたとき、
水面は青く澄み、霧がかかって幻想的だった。だけど、どこか不穏な気配が漂っていた。
八戒はクッキーをかじりながら、川辺を覗き込んで言った。
「え~!めっちゃ映えスポットじゃん~~!ここでスイーツ撮りたい~~!」
そのとき――
水面がふわりと揺れ、霧の中からスラリとした影が現れた。
濡れた髪をゆるくかき上げるその姿。
水面を滑るように現れたのは、クールビューティな少女――沙悟浄。
その瞳は静かで、どこか遠くを見ているようだった。
彼女は水面に映る自分の姿を確認するように、ふと呟いた。
「……ねえ、そこの旅人クンたち。ボクと……デートしよ?」
悟空は一瞬きょとんとしてから、眉をひそめる。
「えっ、なに?いきなり何なの?てか誰~?」
八戒はクッキーを飲み込みながら、ちょっと興味津々。
「え、デートって何するの~~?」
悟浄は少し戸惑いながらも、ぎこちなく言った。
「えっと……川の中で、手つないで泳いだり……
泡とか、きらきらしてて……それで、なんか……雑誌に書いてあったの。
“仲良くなりたいなら、まずデートに誘え”って……」
悟空は首をかしげる。
「え、それって……ウチらと友達になりたいってこと?」
悟浄は目を伏せて、ぽつりと語り始めた。
「ボク、子供の頃にね、川に来てくれたギャルの子がいたの。
その子、ボクにいっぱい話しかけてくれて……
“その貝かわいい~!”とか、“ウチら友達だよ~!”って。
言葉も、その子が教えてくれたの。“ギャルって、こうやって話すんだよ”って、
雑誌もくれて……ボク、それがすっごく嬉しくて……
毎日その子が来るの、楽しみにしてた。
でも、ある日を境にぱったり来なくなって……
ボク、ずっと待ってたけど……誰も来なくて……」
「それで、雑誌読んで、“友達ってどうやって作るんだっけ?”って考えて……
“デート”って言葉が出てきて、“あ、これが友達になる儀式なんだ”って思っちゃって……
それから、旅人が来るたびに“水中デートしよ”って誘ってたの。
でも、みんな水の中でパニクって逃げちゃって……なんでだろって、ずっと思ってた……」
悟空はぽんと手を打ち言った。
「あ~それか~!!
旅人の間で“川に引きずり込まれる”ってウワサ、
ギャル水中デートの誤解だったん!?ウチ、今ぜんぶ繋がった!
てか、話に尾ひれつきすぎ!!」
三蔵法師はそのやりとりを聞きながら、ふと何かに気づいたように、静かに視線を伏せる。
霧の向こうを見つめるように、遠くを見ながら、悟空にだけ聞こえる声で言った。
「……悟空。この近くには、かつて村がありました。
盗賊の襲撃を受け、村人は皆、命を落としたと聞いています。
あの子が語った“友達”も、おそらくその村のひとりだったのでしょう。
今もなお、誰かを待ち続けているのです。
あなたの優しさで、あの子の心を支えてあげてくれませんか」
悟空は少しだけ真顔になって、
それから、にっこり笑って手を差し出す。
「ウチら、三蔵様と旅してるんだけど、よかったら君も来ない?」
悟浄は少しだけ驚いて、
水面に映る三人の姿を見つめながら、静かに言った。
「……ボク、本当に……ついていってもいいの?」
悟空はにっこり笑って自己紹介。
「もちろん!ウチの名前は孫悟空。悟空っちでいいよ!」
八戒もすかさず続く。
「あーしは猪八戒、八戒ちゃんって呼ばれてる~~!スイーツ担当~~!」
悟浄は一瞬ためらったあと、
その手を取って、ぎこちなく笑った。
「……ボク、沙悟浄っていうの。ギャル歴、三年目……たぶん。雑誌で独学だけど……
君たちみたいな子と、もっと話してみたいなって……ずっと思ってた」
八戒はにっこり笑って言った。
「あーしも最初は雑誌だけだったし~!悟浄ちゃんも、一緒にギャル学んでこ~!」
悟浄は少しだけ照れたようにうなずいて、ぽつりと答えた。
「……ボク、ちゃんとできるかわかんないけど……でも、みんなと一緒に勉強したい」
三蔵法師は静かに歩み寄り、優しく言った。
「縁あって出会ったのです。
あなたの心が誰かを想うなら、その歩みはきっと仏の道に通じます。
共に、歩んでまいりましょう」
三人はうなずき合い、
悟浄ちゃんは少しだけ笑って、そっと水から上がった。
三蔵法師はふと悟空の方を見て、
静かに、けれど確かな思いを込めて語りかける。
「悟空……私の思いを汲み取ってくださったこと、ありがたく思います。
あなたのような方がいてくれることが、何よりの救いです」
悟空は一瞬きょとんとして、
それから耳まで赤くなって、照れくさそうに笑った。
「え~!ウチ、ギャルだから!そーゆー真面目なこと言われると照れるし!でも……ありがと!」
八戒はクッキーをかじりながら、ふと首をかしげる。
「悟空っち、三蔵さまと何話してたの~?なんか小声だったけど~~?」
悟空はちょっと目をそらして、さらっと言った。
「ん?なんでもないし~!ウチ、ギャルだから~!気にしないし~~!」
八戒は「え~!気になる~~!」と笑いながらスイーツを追加で取り出す。
三蔵法師はそのやりとりを静かに見守りながら、
ほんの少しだけ、優しく微笑んだ。
こうして、流沙河の妹分ギャル・悟浄ちゃんが仲間に加わり、
ギャル西遊記はついに四人旅へと進化したのでした。




