3日目1 魔法を覚えよう!
宿の裏手にある井戸で顔を洗い食堂に赴くと、何故かアイリスのシチューを食べる姿が目に入った。
「あれ、アイリス?」
「うん?おはよう」
「おはよう。アイリスって実家住まいだよな? なんでここでシチュー食べてるの? あ、自分も朝ごはんくださーい!」
疑問に思いつつ、アイリスの正面に腰を下ろす。
「これ」
そういうと可愛らしいバッグの中から、本を二冊取り出した。
「おおお!魔法書持ってきてくれたんだ。ありがとうございます!一回なんでも言う事聞きます!」
嬉しさのあまり変なテンションでお礼を言う。
「ん、その一回を使って百回に更新する」
「小学生かよ!! けど本当にありがとう! 早速読んで良いかな!?」
久々に聞いたお約束にツッコミつつ、ソワソワしながら本を受け取る。
「ショウガクセイ? タカシの遺した古代の本に載ってた」
やばい。テンションが上がり過ぎて、こっちに無い概念でつっこんじゃった!
「その、なんだ。たまたま聞いた事があってね。ええと、タカシさんは本に何て記されてました?」
大慌てである。
「いつか女子ショウガクセイにモテモテになるって」
碌でも無ぇなぁタカシなああああああ!!!
寿限無ネタといい伝えてる事がしょうもないよ!! そんなもん古代から遺さないでくれ!!
「そ、そうなんだ。俺が聞いた話では学び舎に通う小さい子供の総称だから、話が間違ってるのかもな?」
異世界人である事をバレるリスクがどれ程のモノか解らないので、とりあえずの言い訳をさせてもらう。すまんなアイリス。
「ふーん」
めっちゃジト目!全然信じちゃ無さそうだけど、スルーはしてくれるらしい。助かった……。
このタイミングで宿屋のおじさんが朝食を出してくれた。
多少気まずく思いながらも、朝ごはんをモグモグしつつ、魔法書に意識を戻す。
「ん、そんなことより魔法書だ! 火と水の初級基礎魔法って何が入ってるんだ?」
「イグニッション、ファイヤーボール、ファイヤーアロー、ファイヤーウォール、クリエイトウォーター、ウォーターシャワー、ウォーターウォール、ウォーターボールが習得できる」
おお、ゲームで聞いた事ある魔法も多い。イメージし易くて有り難い!
「へぇー、すごい便利そうだ! アイリスは全部使えるんだよな? 使用感はどうなんだ?」
「イグニッション、クリエイトウォーターは便利。ウォーターシャワーはお湯のほうがいい」
アイリス程にもなると、戦闘系はもっと強い魔法を使うんだろうな。レッドベアーを倒せるらしいし。
「そうなんだ、俄然楽しみになって来た。アイリスはどのくらい魔法を覚えてるんだ?」
気になりますねぇ!
「初級は火、水、風、土、光の基礎魔法、中級も同じ、上級は風だけ、それ以外は何も」
調べた限り属性は火、水、風、土、闇、光と有り、古代には時空間や磁力、重力などもあったと言われているが、失われて久しく謎に包まれている。
基礎魔法以外はダンジョン攻略ボーナスや宝箱、一部ダンジョンのモンスターがドロップする、魔法書で覚えるらしい。基礎を覚えてないと、他の魔法は習得不可だ。
中級の基礎魔法書って50万ラウくらいするらしいんだけど……凄すぎないか?
基礎魔法の中級までは、特殊なダンジョンを攻略する事によって制作可能になるのだが、闇属性の魔法書は制作不可の為ダンジョン産しかなく、希少で出回らないと聞いている。
「凄いなー憧れちゃうなー」
「ふふん、わかる」
わかる!? 自負がすごい。
「う、うん。じゃあ食べ終わった事だし、部屋で魔法書を読む事にするわ。今日はありがとうな」
さっそく覚えちゃおう。そうしよう。
「うん、ちゃんと教えてあげる」
あれ、教えてもらう事になってる?
「いや、アイリスも忙しいんじゃないのか?」
「初めて魔法を試す時は、魔法を使える監督者が必要。危ない」
確かに魔法を使って火災を起こしたり、周囲の物を壊したらまずいもんな。
「本を読んでスキルを獲得したら、ギルドの訓練所へ行く」
お言葉に甘えて、練習に付き合ってもうか!
「じゃあ早速部屋で読んでくるから、適当に時間潰しといて貰えるか? 覚えたら訓練所に行くわ」
集中してちょっぱやで読みたい。興奮してきたな。
「うん? 一緒の部屋で待つ」
興奮の方向性変わっちゃうな?
「いや、一応若い異性の部屋なんだから、入らないほうがいいと思うぞ」
俺は良識派なんだ。何もしないから良いなんて事は無い、周りの目も気にしないとな。
「本を読むときのリアクション、逃さない」
えぇ……飽くなき探究心を感じる。
もう仕方ないか。
「わかったよ……食堂で読んで良いか聞いてくる」
部屋に着いてくる気なら、この場で読む方がマシだろう。
その後、宿屋のおじさんから許可も取れ、無事火と水属性の初級魔法を習得する事に成功した。
魔法の習得時に、本が光の粒子となって体に流れ込んで来た。その時のリアクションを見たアイリスは、満足そうに頷いていたのだった。
訓練所に場所を移して、アイリスから魔法のレクチャーを受ける。
「まずはクリエイトウォーターから」
「了解!」
緊張するぜ。
「――クリエイトウォーター!」
体から力がほんの少し抜ける感覚とともに、手の平からちょろちょろと水が出る。
「おおおおお!」
凄いな。人間は水だけで二、三週間は生存が可能と言われている。逆に水が無いと四、五日で死ぬ事が多いらしい。それをMP1で生み出せるとは……。
「込める魔力の量を多くすると、水の量も増える。こんな感じ」
アイリスはそう言って、手本を見せてくれる。どっばどば出るよ!
「むむ、こんな感じか? クリエイトウォーター!」
お、さっきの三倍くらい出てる。消費魔力は2か、纏めて出すとちょっとお得だな!
町の中のだと、ステータス画面を出しながら練習出来るのが良い。魔力消費時に体から力の抜ける感覚を、MPの数字を見て正しく身につけられるのだ。教えてくれたアイリスはんに感謝や。
「次はイグニッション」
「了解。イグニッション!」
おお、凄い火花!
「火を起こすのに便利。家事、野営の味方」
うむうむ、枯れ草や松ぼっくりの近くでは使わないようにしよう。
「アースウォール」
アイリスが土の壁を建てる。
「今度はあそこに攻撃魔法を撃つ」
的として用意してくれたようだ。遠慮無く行こう。まずは……。
「ウォーターボール!」
水の球が生成され、発射される。そして土壁にぶつかり弾けた。アースウォールは無傷だ。
「あのアースウォールには、通常より多く魔力を込めてる」
なるほど、同じ等級の魔法でも魔力量によって強さが違うみたいだ。
「ウォーターボール!!」
先ほどより4倍くらい魔力を込めて放つ。が、アースウォールはかすり傷一つも無い。硬いぜ。
「まったく歯が立たない。どれくらいの魔力を込めてるんだ?」
「MP8、魔力を無駄にしない制御も必要」
俺が放ったのがMP12のウォーターボールだった事を考えると、かなりの力量差があるのだろうか。
「魔法のレベルも違う。わたしのアースウォールはレベル3、レベル1だとステータスに表示され無い。レベル5まである」
おお、レベル制!? 鑑定君は育つ気配無かったけど、どうやって上げるのかな?
「攻撃魔法は魔物との戦いで使ってると上がる」
実戦あるのみって感じなのか、テンション上がって来た!
「魔物との実戦は午後、今は訓練に集中」
魔物狩りに連れてってくれるらしい! 可愛いけどお笑いフリークの変わった子なんて思っていたが、すごくいい子かもしれない。
俺は優しくされるとすぐ好きになっちゃうタイプ。相手の厚意を勘違いしないように自制せねば。
「魔法はレベルが上がって、魔力制御が上手くなると複数同時に……」
こうして午前中はアイリス先生の授業を受けて、魔法の使い方を学んだ。午後の実戦も頑張るぞ!