2日目4 レベルアップ祝い
野営地での解体と食事はつつがなく終わった。
夜の帳が下りて街に灯りがともる頃に、ギルドへ帰る事が出来た。夜でも西門は空いているようだ。
魔石を職員さんに渡して、槍などの備品を返却すると、テリーさんが講習の終わりを告げた。
「よし、それでは解散!」
「「「ありがとうございました!」」」
参加者は三々五々と帰路に着き、俺はその場に残ってそっと溜め息をはく。
「ふぅ……」
終わってみると、あっという間の六時間だった。少しだけ人として成長した実感があり、心地よい疲労と充実感に満たされている。
「じゃあ宿に戻って早速ステータス振りだ!」
「それはとても良い」
!?
びっくりして心臓がキュッとした。返事があるとは思わなかった。
「そうなんです。とても良いんです! それじゃあお疲れ様でした!」
漫才をしている時間はない!
「ちょっと待つと良い」
なぜ!?
「アレ」
アイリスが指し示す先では、テリーさんがギルドに入ったところで手招きをしている。
「行く」
テリーさんが居るのならツッコミに忙殺される事は無いだろう。無いと思う。そうであれと願いながら、ギルドに入り声をかけた。
「どうしたんですか?」
「あぁ、お前は知らないかもしれんが、この辺りじゃレベル1から上がった時に祝う習慣があってな。飯でも奢ってやろうってわけだ」
なるほど、子供の死亡率が高い時代があったからこその風習なんだろうな。ご飯を奢られるというのは、やぶさかでは無い。
「良いんですか? 遠慮無く食べますよ!」
野営で肉を食べた事、少し後悔している。
「食えるもんならいくらでも食え、どうせギルドの酒場だ。大した額にはならん」
「わかった」
うん、これは俺の返事じゃない。
「おう、食え食え。席は奥にとってある」
取っていてくれた席に着きメニューを開くと、綺麗な店員さんが注文をとりにきた。
「いらっしゃい。ご注文はお決まり? って、テリーさんとアイちゃんじゃない。珍しいわね。そっちの子は?」
どうやら二人の知り合いみたいだ。
「こいつは昨日ギルドに登録した新人の古昌カケルだ。今日は飯でも奢ってやろうと思ってな。俺はエールと適当なつまみを頼む。お前らはどうする?」
「自分はフルーツジュースと……おお!ピザあるんですね!コレとチョップドサラダで」
地球産ぽいメニューも豊富にあるし、食には困らなさそうだ。
「わけーんだから肉食えよ肉」
とはテリーさん。
「野営地で食べたじゃないですか、リトルボアとかレッドベアーのやつ」
今は炭水化物とさっぱりしたサラダが欲しい。
「そんなもんかねぇ。アイリスは注文決まったか?」
「うん、ここからここまで」
凄い量だ。実は大食いキャラなのか?俺じゃ絶対に食べ切れないな。
「お前そんな食わねぇだろ……」
「食わんのかい!!」
はっ、乗せられてしまった。
「ふふ、じゃあ苺パフェで」
お酒を飲むとアルコール分解の為、糖と水分を体が発するようになるからか、酒場にもアイスやパフェがあるようだ。
「じゃあ注文頼む。待たせて悪いな、シア」
「良いのよ。後でエレちゃんもこの席に案内するわ。ではごゆっくりどうぞ」
後でエレちゃんさんが来るらしい、どなただろう。
「それで、ステータスをどう割り振るかは決まってるのか?」
先に出してくれたジュースを飲みながらピザの到着を待っていると、テリーさんが話題を提供してくれる。
「いえ、まだですね。ステータスポイントを見ながらゆっくり考えようかと思ってました」
ステ振り、楽しいよね。
「この国の子供には必ずやらせるんだが、vit20までは必ず振れよ」
ほう?詳しく聞かせてもらおう。
「vitを振ると肉体の強度、持久力、HPが上がって病で死に難くなるし、弱い魔物から致命傷を受けるリスクもぐっと下がる、死にたくなきゃ振っとけ」
ふむ。日本のRPGじゃ病気で死ぬなんて事はあまり無いが、ここは異世界。上げておいて損はないか。
「解りました。他に注意点やアドバイスがあるなら、じゃんじゃん言ってください」
そういうとアイリスが、さも名案かのように助言してくる。
「Agiを上げるとリアクションの早さがあがる」
それは、別に良い。
「Dexを上げると、舞台で器用に立ち回れる」
舞台に上がる予定、無いです。
「intを上げると語彙から適切なツッコミを出しやすい」
漫才マシーンにでも仕立て上げる気か!
「漫才マシーンになれる」
「なりたくないよ!?」
アイリスのアドバイス通りにすると、俺の将来が漫才師になってしまう。
「あら、楽しそうじゃない?アイリス」
突然の声に驚き辺りを見ると、アイリスをそのまま大人にした様な美人のお姉さんが立っていた。アイリスと違うのは、眠そうな半眼じゃない事くらいか。
「うん、逸材見つけた」
逸材!?昨日の夜、自身の無能さを嘆いたが、意外な才能があったのか……。リアクションにツッコミの才能、異世界で活きるかは疑問だけど。
「そうなの。珍しく酒場にいると思ったら、面白い人材を見つけたのね」
面白いの意味、お笑い方面なんですよ……。
「私はエレクトラ、アイリスの母よ。よろしくね」
お姉さんじゃなくてお母さんでしたか。
「昨日冒険者登録をした古昌カケルです。今日の講習ではアイリスさんに、大変助けられまして」
助けられたよな? あれ、記憶に無いな?
「そうなの、立派にやってるのね。小さい頃冒険者になるなんて言い始めた時は、どうなる事かと思ったけど……テリーの講習も為になったでしょ?」
「良いこと言ってた」
うん、それは確かに。
「注文の品持って来たわよー。あ、エレちゃん。もうこっち来たのね? 男の子と居ると教えたからって、相変わらず過保護なんだから」
どうやら急いで来たらしい。アイリスは愛されてるなぁ。母親を思い出しちょっとしんみり。
「良いじゃない。ギルドの業務も丁度終わったのよ。それより私も注文するから。お仕事して、お仕事」
「はいはい。カケルくんがピザとサラダで、テリーさんがハムとソーセージ、チーズの盛り合わせ、アイちゃんは苺パフェね」
「私は炭火焼きパスタと白ワイン、サラダもおすすめをよろしく」
「はいはい、じゃあカケルくんの情報、根掘り葉掘り聞くと良いわ。おほほほほほ」
シアさんが奇妙な笑い声をあげて去っていく。
異世界生活二日目、聞かれて答えられる事なんて何も無いんだけどね……。
その後はエレクトラさんに質問攻めをされ、テリーさんにステ振りやスキルについて聞き、アイリスにボケられながら、とても楽しい夜を過ごした。
愉快な食事を終え部屋へ戻ると、荷物の整理もそこそこにステータス画面と向き合う。
ちなみに元々のステータスがこちら。
Lv1 HP14/15 MP7/14
str4 vit5 int7 dex3 agi5 luk1 pt 0
スキル
言語理解 鑑定
うん、弱いな!しかし今は違う、刮目せよ!
Lv8 HP13/36 MP10/28
str11 vit12 int14 dex10 agi12 luk8 pt 14
スキル
言語理解 鑑定
人間のボーナスポイントが7Lv分で、全ステータスが7ずつ上がっている。一歩つよつよ大魔法使いに近づいてしまった。
20レベルまで獲得できるステータスポイントは2ptみたいで、7レベル分獲得して14ptとなっている。
レベルが上がるほど獲得できるポイントが増えるそうなので、上級の冒険者は途方もなく強いようだ。その分レベルアップに必要な経験値も莫大みたいだが。
ステータスはかなり優秀なようで、レベルの上昇に伴いstrが上がっても、肉体のコントロールに違和感はないし、intが上がっても賢くなった気はしない。
急に力が数倍に跳ね上がったら日常生活に支障が出ちゃうもんね。
よし、そろそろポイントを割り振っていこうと思う。先ほどテリーさんに言われた通り、vitを20まで振って残りはintブッパじゃい!
Lv8 HP13/60 MP10/40
str11 vit20 int20 dex10 ag12 luk8 pt0
スキル
言語理解 鑑定
これで後は魔法書を読んで魔法を覚えれば、魔法使い見習いくらいは名乗れるだろう。
その魔法書はどうやって手に入れるのかって? アイリスのお母さん、エレクトラさんが、火と水の初級基礎魔法書をくれるってさ!!
この世界の魔法は、魔法書を読んで覚えるのだが、消耗品で使うと消滅するんだって。
初級なら一冊5000ラウ程度らしいけど、今の俺には大金だ。値段を聞いて困っていると、エレクトラさんが家に余っている魔法書をくれるというのだ。
「うちの家族は全員覚えてるからいいわよ。余ってるものだし、明日渡すわね」
という訳で、少し悩んだが厚意に甘える事にした。まともに稼げるようになったらお返しをしよう。倍返しだ!
ベッドで横になると、こちらの世界に来てから多くの人々にお世話になっていることに気付く。
自分がとても恵まれていると自覚して、貰った以上のモノを返せるような人間になりたいと思いながら、夢の世界に旅立っていった。