幕間?日目 とある調査員の手記
ペドロリーノ=ゼロという人物は、存在しない。
侯爵閣下の指示を受けて一連の捜査を行った結果、導き出された結論である。
私が一連の事件を知ったのは、ヴィクトルの犯罪が明るみに出た後だ。余罪を追求するにあたり、彼の身辺を徹底的に調査する事になった。
ヴィクトルが冒した罪はあまりにも多く、何処から手をつければ良いか迷う有様で、捜査は難航した。
その中でも特出すべき犯罪は、誘拐と薬物の精製、流通だろう。
薬物は抱えの錬金術師を使って相当数を精製していたようで、流通ルートを全て追うのが困難な程広がっていた。現在商人や騎士団の力を借りて捜査中だ。
近いうちにサントニオルのセキュリティが復興するので、一斉に検挙する事が出来るだろう。聞いた話だが、ギルドにも協力要請をしているようなので、盤石だと思われる。
そして誘拐の被害者に関しては、調査開始から数週間たった今でも、まるで見つかる気配が無い。ヴィクトルの行動範囲は隈なく探した。しかし見つからなかった。
本人に問うと、何処かへ売ったというのだ。しかし売った相手の素性は知らないらしい。
その調査の過程で、彼の裏にいる本当の黒幕に行き当たった。それがペドロリーノ=ゼロという男だ。
調査開始当初、ヴィクトルは黒幕の存在を否定していた。真実の石を使い調査したので、彼の言葉に嘘は無い。
つまり、ヴィクトルはずっと勘違いをしていたのだ。自身の考えで動いていると、ペドロリーノは自身の部下であると。
不気味であると言わざるを得ない。
さて、そのペドロリーノだが、サントニオル騎士団の二枚看板と呼ばれるような男だ。故に彼の身辺調査は簡単に行えるはずだった。しかし、保存されていた経歴を元に辿って行くと、忽然とその存在が消えた。
ある男爵家の子息であったはずなのに、その男爵家に男子は居なかった。書類上の母方を遡っても同じ事が起きた。
それから騎士団員への聞き込みを行った。一度くらい家に行った事がある人物が居るだろうと、家族や身内の話を飲みながら話した人間がいるだろうと。
しかし存在しなかった。誰もが彼は優秀で素晴らしい人格者だと言うのに。彼の個人的な情報を知っている者は誰も居なかった。
過去は全て嘘で、現在は朧、この先何処に現れるかも分から無い男。
ペドロリーノという人物は存在しない。居たと言う人々が、ただ居るだけだ。
あれから暫く経って、行方不明者が運ばれた場所に見当がついた。
サントニオルから5キロ程いった先にある洞窟。その中に被害者の遺留品の一部が見つかったのだ。
その洞窟には、何かの機材が設置されていたような形跡が残されており、調査部では、人体実験が行われていたのではないかとの結論を出した。
理由は二つ。
一つはヴィクトルの取引相手が健康な肉体を持つ人間と豊富な人種を求めていたこと。
もう一つは、ヴィクトルがペドロリーノに|頼
《・》まれて幾つかの薬剤と手術道具を購入していた事だ。
これらの理由から、行方不明者は人体実験を受けて死亡したと結論付けられた。今後も捜索は続くが、規模は縮小していく事だろう。
それともう一つ。
侯爵家に保管されていた巨大な魔石が紛失したらしい。ペドロリーノが盗んだのかは定かでは無いが、関連の調査を依頼されている。しかし、結論は出ないだろう。
侯爵家の捜査機関に所属する私の立場では、調査はここが限界だ。しかし私が纏めた情報が、とある冒険者たちに報告されるらしい。
我々の報告書を生かし、彼らがこの謎に包まれた男の正体に辿り着ける事を、心から祈っている。




