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36日目 1 サントニオル港へ到着

「海だー!」

「おー」


 ちなみにこの「おー」は、夕焼けを映す海へ向けられたものでは無く、お約束の反応をした俺に向けられたものだぞ。羨ましいだろう。


 海を臨む街にはカラフルな外壁をした家が立ち並び、街外れには大きな灯台が見える。


「カケルさん、サントニオル港に来るのは初めてなんですよね?」


「そうだよ。楽しみだったんだよなー、海辺の街で海鮮食べるの」


 問いかけて来たクレアちゃんに返事をする。


 俺たちは無事サントニオル港へ到着した。オリバーさんが侯爵の近くに侍っている関係で、今はクレアちゃんと一緒だ。


 ちなみに理由は不明だが、ベルは侯爵を避けているようで、今もどこかでコソコソしているはずだ。

 クリフォードさんは男爵と共に侯爵について行った。【ファルコン】や【バトルキャット】の面々は通常業務に戻っている。


「海鮮は良い。スシ、食べたい」


「それならお父さんの行きつけのお店がありますから、近いうちに案内しますよ!」


 まじかよ、寿司食えるのか! テンション上がって来たな。


 ブラウンでも魚は食べられるが、リーズナブルな値段で頂けるのは川魚がメインだった。海の魚は輸送費の関係で割高だったのだ。


「良いね。直ぐにでも行きたいけど、ギルドで報告と宿探ししないとなー」


「報告は代われませんけど、宿ならケインズ商会の系列がありますし、何だったら家に泊まって欲しいです!」


「だってさ、どうする?」


 アイリスさんに決めていただこう。


「んー、クレアの家に泊ま――」

「その話、お待ちいただこうか」


 割り込んできたのはサントニオル騎士団の人だ。侯爵との会談時、天幕の中に居たアイリスより強いであろう騎士。白髪の髪を短く切り揃えた、二十代後半くらいの男だった。


「うん?」


「我が主人が、お二人を館へお招きしたいと仰っていてね。どうかこちらに来て頂きたい」


 面倒な事になった。けど断るのは不可能だろう。


「嫌だ」

「アイリスさん!?」


 躊躇いが無さ過ぎる。せめて迷った振りはして?


「そこをなんとか、お願いしたい。貴族というのはどうしても、面子にかけて礼をせねばならぬのだ」


「アイリスさん、この街にいる間はいつでも会えますから」


 クレアちゃんが大人すぎる。八歳の器か? これが。


「んー、海鮮丼が用意されるなら行く」


 アイリスさんが子供すぎる。十五歳の器か?


「閣下の館で働く料理人は一流だ。それはもう素晴らしいシーフード料理を――」


「行きます」


 おっと、食い気味に返事をしてしまった。失敬失敬。


「――まあ、来てくれるのなら良い。そちらのお子さんは?」


「私は商会の馬車へ戻ります。渡した地図の商店へ来ていただければ、いつでも会えるように手配しておきますので!」


「近いうちに行く。オスシ楽しみにしてる。またね」

「またね、クレアちゃん」

「はい! またです!」


 手を振り去っていくクレアちゃん。時々振り返るので、俺たちは見えなくなるまで手を振り続けた。


「――しっかりしたお子さんだね」

「ええ、我々よりよっぽど――」

「私はともかく、カケルよりは絶対」


「何で自分の方がしっかり者だと思えたの!? なんで俺の方がうっかり者だと思ったの!」


 何で判断した。場合によっては戦争だぞ。


「オリバー殿の話を聞く限り優秀な若者のようだが、こうして見ると年相応だな」


「カケル、子供っぽいって。恥ずかしい」

「誰のせいだ、誰の」


 会話中、白髪の騎士さんは苦笑いだ。


「あちらに馬車が用意してある。それでは行こうか」


「あ、自分たち、ギルドへ報告しないといけないんですけど」


 ギルドに所属する上での義務である。


「それなら閣下が手を回してくれているから大丈夫だ」


「なるほど、それはありがたいです」


 面倒事が一つ減って、一つ増えた感じだ。


「さて、名乗るのが遅れたが私はアクセル、アクセル=オーウェンだ。よろしく頼む」


「古昌カケルです。よろしくお願いします」

「アイリス、よろしく」


 簡単な挨拶を済ませて、馬車に乗り込む。


「十分程で着く、気になる事があったら言ってくれ」

「――じゃあ、レベル幾つですか?」


 明らかに強者だからな、気になってしまった。


「警備や防犯、間諜対策であまり人には話さないのだがな。他でも無い閣下のゲストだ。教えてあげよう」


 そう言うと、馬車に備え付けられた魔道具に魔力を通す。多分防諜関係だろう。


「さて、誰にも言わないでくれよ? 88レベルだ」

「あー、やっぱり高いですね」


 冒険者にすればAランク相当の逸材だ。


「お母さんより結構低い」


「え? エレクトラさん、そんなレベル高いの!?」


 驚愕の事実だ。方向音痴のドジっ子なのに。


「エレクトラと言うと……まさか、銀閃風華の娘なのか?」


「そう」


 聞き捨てならない厨二ネームが出た。


「銀閃風華?」


「十数年前まで冒険者をしていた、伝説のエルフだよ。当時最もSランクに近いと言われていたけど、権力者と折り合いが悪くてね。その権力に媚びないところも人気だったんだが、いつの間にか名前を聞かなくなっていたんだ」


 凄い、人づてに聞くとめちゃくちゃカッコいい。


「結婚して引退した。今はギルドで働いてる」


「そうか、死んだわけでは無いのか。それは良かった」


 うんうんと頷くアクセルさん。もしかしたらファンの一人だったのかもね。


「っと、そろそろ到着だ。館に着いたらこちらで用意する衣装に着替えて貰い、二時間に晩餐会だ。ああ、構えないでくれて良い。身内だけの小規模なものだ」


 十九時頃か。しかし晩餐会、大丈夫だろうか? テーブルマナーなど授業と親戚の結婚式以外、経験が無いぞ。


 不安に思いながらも馬車は進む。


 城と言うべき大きな館へ到着すると、俺たちは応接室へ案内された。それから準備のため、アイリスと別れて更に他の部屋へ。


 衣装担当と思われるメイドさんや執事さんにあれこれ服を当てられて、選ばれたピカピカの燕尾服(テールコート)に袖を通す。


 髪もビシッとセットされ、肌の手入れまでされてしまった。


「これで問題ありません。ではごゆるりとお待ちください」


 そうは言うが、服に皺を作るわけにもいかないので姿勢正しく待つしか無い。結構な苦痛だ。


 暫く無心で時間経過を待っていると、準備を整えたアイリスが戻って来た。


「――ドレス、面倒くさい……」


 第一声がそれなのか……。


 だがアイリスのドレス姿はとても新鮮だし、何より似合っていた。

 身に纏う夜礼服(イブニングドレス)金春色(こんぱるいろ)をベースに多様な緑色を合わせているのに、何故か落ち着いた印象を与えてくる。ドレスの裾にはフリルがあしらわれ、まるで妖精のようだ。


「そう言うな。似合ってるんだし良いじゃないか。オシャレは我慢らしいぞ?」


「この世に蔓延る全てのお洒落と戦う」


 辞めておけよ。一時的にドレスを着るより絶対面倒くさいだろ。


「カケルのテールコートは凄く普通。イジりようも無い」


「それは何よりだ。正直言うと俺も面倒なんだ。イジられたら二度と着ないかもしれない」


 この服が選ばれるまでに結構手間暇かかったのだ。ディスられたら普通に泣く。


「変な髪型」


「俺のこと禿げさせようとしてる? 地毛だから二度と着ないとか無いぞ」


 死ぬまで大事にしていきたい。


 お互い立ったまま見合っていると、ドアをノックする音が響いた。


「失礼致します。晩餐会の準備が整いました。こちらへどうぞ」


 扉から入って来たのは、執事さんだ。


 俺はファンタジー作品で執事さんを見る度に、何故セバスチャンなのかと疑問を持っていたが、これはもうセバスチャンだ。それくらいセバス感が強い。


「カケル、付いて行く」


 おっと、あまりのセバス感に圧倒されてしまっていた。待たせた執事さんも困っているようだ。


「すみません、執事さん。ちなみにお名前は?」

「いえ、お気になさらず。私はアーロンと申します」


 全然強そう。セバス感が霧散した。てかなんだよセバス感って、馬鹿じゃないの。


「アーロンさん、案内よろしくお願いします」

「ええ、ではこちらへどうぞ」


 俺は広い館の中を案内され、晩餐会の会場へと入場するのだった。

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