34日目 8 制圧
作戦の説明が一通り終わり、俺たちは建物内に居る盗賊の制圧に乗り出した。
「ここに居る盗賊の数は総勢26名だ。一人も逃すな」
「「「おう!」」」
クリフォードさんの言葉を受けて俺たち【イーリアス】【ファルコン】そしてベルが、一斉に動き始める。
「アイリスは室内戦に向いています。【ファルコン】の皆さんは外に出てきた盗賊を捕縛してください」
「わかった、無理するなよ」
一言残して外へ向かうチャドさん。
風の魔法を身に纏い、短剣とスティレットを振り回すアイリスは、怒涛の勢いで敵を撃ち倒していく。
「ベルは俺と倒れた盗賊の捕縛だ! 防刃ロープだけで20万ラウも使ったんだ! ちゃんと使わないと報われない! てかこれ経費で請求出来るかな!?」
襲いくる盗賊にブラインドをかけて鞘で殴ったところで、痛い出費を思い出してベルに話しを振る。
「知らんッ! とっ、危ない剣がカスった! 助けてくれ!」
ベルが攻撃を避けながら叫ぶと、
「サンダーボルト」
アイリスが魔法で助けつつ、
「気合いが足りない」
精神論でダメ出ししている。ベルは完全後衛タイプらしいから、どうにもならないと思うぞ。
「全く、こんな奴らの相手も務まらずに、良く冒険者をやってられるな」
追い打ちをかけるのはクリフォードさんだ。
「てめええクリフォード、裏切りやがったのか!?」
そのクリフォードさんは盗賊たちにキレられている。自業自得だな?
「お前たちを仲間だと思ったことなどない、息が臭いから話しかけるな」
酷い、敵と認識した相手に容赦がない。普通に一日落ち込むレベルの悪口だ。
「くっ、くそがああ!」
「うっ、本当に臭いではないか! ええいファイヤーボルト!」
ドンッ! と火球は壁にぶつかり、近くにあった酒瓶へ引火した。
「馬鹿! 高アルコールの酒があるところで火魔法使うな!」
とはいえもう遅い。建物にも火がついたので、仕方ないから外へ出るかと考えている時、クリフォードさんが魔法を発動した。
「アイスブリザード」
氷の暴風によって炎が掻き消える。短い集中時間で放たれた魔法の威力は凄まじく、建物までもを凍てつかせて、氷の世界に染め上げていく。
「賊共、無理に動けば二度と歩けない体になるぞ」
盗賊たちの足は、氷によって建物に貼り付けられていた。
「こんな細かいコントロールをあの短い集中で? 凄いですね」
超強いじゃん。そりゃ侯爵の息子から仕事も来るわ。
「ふん、やるでは無いか」
これはベルなりの、ありがとうかもしれない。
「――まあ良い、捕縛しよう」
クリフォードさん、ベルの事が面倒になってませんか?
「わたしは外で捕まえて回る。後何人?」
「48人――いや、お前が捕まえた男を引いて、47人だ」
こう聞くとかなりの大所帯だ。元々80人以上は居た事になる。80人の荒くれ者、よく纏められたなぁ。
「さて、俺は冒険者たちに面が割れてない。捕縛を手伝おう」
「そしたらベルと一緒に行動してください。俺は隊商リーダーのオリバーさんに、作戦の件を説明しに行きます」
ベルはあの奇妙な立ち振る舞いのお陰で、冒険者内での知名度が高い。彼が居れば盗賊として攻撃されることは無いだろう。
「――我も戻っても良いが」
「クリフォードさんの為に残ってくれ、これはお前にしか出来ない事だぞ」
結構マジで。
「……何か便利に使われているような――」
「じゃ、行ってくるわ! まと後でな!」
ベル、強く生きろ。
俺は心の中で応援し、オリバーさんの元へ向かった。
隊商の野営地は土壁に囲われている。哨戒する冒険者は口元に水の含んだ布を当て、薬物の警戒をしていた。
俺は陣中へ戻り、一際大きな天幕を訪れる。
「オリバーさん、今大丈夫ですか?」
「む、カケル君か。何かあったか?」
「カケルさん!?」
天幕の中にはオリバーさんの他に、クレアちゃんや護衛の冒険者も立っていた。
「ええ、ちょっとした問題が起きまして。解決するのに作戦を立てたのですが、聞いていただいても?」
「構わない、というか頼むよ。荒事の対処はずっとダリウスに頼っていたんだ。情けない話だが、ほとほと困っていてね」
誰だって苦手な分野はあるもんだ。
「か、カケルさん。フォルクさんが悪い人だ、って言うのは本当なんですか?」
悲しそうな表情でクレアちゃんが聞いてくる。
「ああ、残念だけど事実だよ。リカバーはかけて貰ったかい?」
それで心理誘導の効果は消えるはずだ。
「は、はい。それでなんだか、フォルクさんがとてと遠い人のように感じてしまって……」
好意を寄せていると思っていた相手が、突然他人のように感じられたら困惑するだろう。
「今は戸惑うだろうけど、お父さんの側に一緒にいるんだ。お父さんを好きなのは変わってないだろう? その気持ちを大事にしていれば、いずれ不安も無くなるよ」
結局のところ、時間が解決するのを待つしか無い。俺にできるのは、一生のトラウマにならない事を祈るだけだ。
クレアちゃんは父親の顔を見て、おずおずと手を繋いだ。
「――分かりました。今ある気持ちを、大事にします!」
そう宣言したクレアちゃんは、とても勇敢に見えた。これで八歳、賢すぎるだろ。
「――悪いね、カケルくん。本当は父親の私が向き合って上げるべきなんだが」
「いえ、オリバーさんも被害者ですから。おっと、そろそろ作戦の説明をしますね」
ベルたちを長く待たせると何をしでかすか、分からん。さっさと済ませよう。
「先に言っときますけど。襲撃の黒幕、ヴィクトル=デ=サントニオルなんで、覚悟してくださいね」
「…………」
「――お父さん、私の耳、おかしくなってますか?」
オリバーさんが会頭を務めるケインズ商会の本店は、サントニオルにある。もしかしたら面識とかあるのかもな。
「……本当に?」
「ええ」
「間違いなく、絶対か?」
「間違いなく、絶対です」
「――アイリスお姉ちゃんに誓えますか?」
「誓えます」
どうやら信じたく無いようだ。あまりのショックに魂が抜けてしまっている。
「「…………」」
二人の放心状態は三分間、たっぷりと続いた。




