34日目 6 二度目の潜入
俺とベル、【ファルコン】のメンバー四人は、北西にある建物の近くに身を潜めていた。
「小屋というには大きく無いか?」
そんじょそこらのファミレスより大きい。
「そうか? 我の実家にある犬小屋と変わらんぞ」
こいつ……、そんな気はしてたけど、やっぱ良いとこの坊ちゃんだな?
「ベルよ、これは一般論の話だ」
「む、そうか。話の腰を折ってすまぬな、続けてくれ」
チャドさんに諭され、大人しく引くベル。
「まあそんな訳でベル、ディアブロちゃんの出番だ」
「仕方あるまい、ディアブロ使いの荒いやつめ」
とは言いつつも満更でもなさそうにディアブロちゃんの頭を撫でて、建物の中へ送り込む。
その場に腰を下ろして待つ事数分、地面に這いつくばっていたベルから、建物内部の情報がもたらされた。
「幾つかの部屋は扉に隙間が無くて入れなかったが、人質の場所は分かったぞ」
「流石だな。ナイスだ」
ベルはニヤニヤしそうになるのを抑えながら、地面に図を描き説明を続ける。
「この調理場に続く裏口から入って、食堂の脇を通ると、地下への階段がある。人質はそこだ。地下室の入り口に見張は居るが、酒を飲んでいて船を漕いでる」
「――そうか……人質は全員いるか?」
先ほどの女性曰く、連れて行かれたのは六人らしい。
「ああ、全員いる。いや、だが……」
「だが?」
「牢の中に七人居る上に、一人様子がおかしい。目が血走っていて、髪を掻き毟ったり、壁を殴ったりしてる。とてもイラついているみたいだ」
この状況で表に出る感情が恐怖ではなく苛立ちというのは、確かに気になるな。
「分かった、注意しておこう。それじゃあ人質のところまで、最短最速で行くぞ」
「「「おう」」」
それから俺は忍足を発動させて走り出す。直ぐに調理場へ続く裏口に辿り着いて、扉を開いた。
「……何故、見張りがいない?」
チャドさんが違和感を口に出す。
「ふ、バカだからではないか?」
可能性としてゼロでは無いのが恐ろしいところだが、理由は多分、別にある。
「俺たちを地下室の方へ誘導したいんですよ。普通酒を飲んで眠るようなやつを、見張りにします? そこらの盗賊の頭ならいざ知らず、男爵から正規の依頼を受けた人間ですよ?」
「――なら何故、誘いに乗るような真似を?」
「それは何処かに隠れてる、盗賊の首領さんに話を聞くためですよ。出て来てくれません?」
「はあ!? カケルよ、何を――」
「静かに」
俺は声をかけて、反応を待つ。これ、てんで的外れだったからクソ恥ずかしいんだけど。居るなら早く出て来て?
「――ついて来い」
祈るような気持ちで待っていると、建物の中から姿を現したのは盗賊風の男性だ。しかし身に纏う落ち着いた雰囲気からは、知性を感じる。
俺は戸惑うベルたちに声をかけた。
「行きましょう」
「ふん、説明はしてくれるのだな?」
「ああ、多分あの人がしてくれるよ」
「カケル、こういった事態を予測していたなら、事前に共有しておくものだぞ」
「すみません。けどそこまで自信が無かったんですよ」
本当に。一貫性がない盗賊の動きと、このファミレスハウスの警備状況をこの目で見るまでは半信半疑だった。
「とにかく中へ。なに、不意打ちされたとしても、最悪プランDに移るだけですから」
ニヤリと笑う俺の台詞に、
「――出たとこ勝負は、プランとは言わん」
チャドさんはブツクサ言いつつも、建物の中へ入っていく。
盗賊風の男について行くと、直ぐに地下室へ到着した。見張の男は酒の匂いをさせてスヤスヤだ。
「クリフォード!? 貴様ぁ! あの方に逆らって、タダで済むと思ってるのか!?」
牢に閉じ込められた男の一人が、俺たちが入って来るなり声を荒げた。
「黙れ、肥え太った豚が。今すぐに殺してやろうか?」
クリフォードと呼ばれた盗賊風の男からは、確かな怒気を感じる。
目が血走ってイラついた様子の男とは、豚と呼ばれた男のことだろう。今は脅されて腰を抜かしたようだが。
「それで、クリフォードさん? 全て説明してくるんですよね?」
「ああ。だが先に聞かせて貰う。俺が対話を望んでいると、どうして思った?」
答え合わせね。
「全ての積み重ねです。朝、皆が起きてる時間に仕掛けてきたこと、分かりやすく樽に薬物を仕込んで投擲してきたこと」
思い返せば、ヒントはいくらでもあった。
「多くの冒険者が倒れている場所で、こちらの防衛陣地が出来上がる前に攻撃を仕掛けてこなかったこと」
今回の襲撃は、元々全滅させる気など無かったのだ。
「洞窟があまりに手薄で、かつ錬金術師と薬物が残されていたこと、あなたの部屋に酒瓶や薬の類が無かったこと」
まだあるぞ。
「捕虜虐待が行われていなかったこと、その捕虜に向かう場所を聞かせていた事、洞窟《寝ぐら》の警備も疎かにだったのに、この場所の警備すらユルユルですし。そこまでヒントがあれば流石に」
話し合いを行える相手であると、話せる場所まで来て欲しいと、暗に言っていたのだ。それも、何者かから隠れるように。
「――その歳で、良く見えているな。いいだろう、全て話そう」
そしてそこから始まったのは、懺悔のような告白だった。




