34日目 5 蠢動
首領の部屋は盗賊の住処とは思えない程、綺麗に整理されていた。全体を見渡すと金を使った装飾が目立つが、それと同じくらい本の多さが目につく。
「インテリ系の首領、なんか裏でやってそうだよな」
俺は本の背表紙や机の引き出しを一つ一つチェックする。
読書の趣味は雑食なのか、一切の統一感がない。魔法の考察本から恋愛小説、騎士団や魔道師団の交戦記録にレシピ本、果ては絵本まで、なんでもござれだ。
机の引き出しには何も入っていない。酒瓶くらいありそうなもんだけど。
他に何処か探す場所は無いかと頭を悩ませていると、ベルとチャドさんが部屋へ入って来た。
「カケルよ、目的は全て果たした。そろそろ脱出するとしよう」
チャドさんの言葉を受けて、仕方ないかと立ち上がった時、ベルが感心したような声を上げた。
「ほう、所詮は盗賊の頭と思って侮っていたが、中々良いセンスでは無いか。魔道師団式に家具を配置しているとはな」
「魔道師団式?」
家具を並べるのに決まった様式があるのか?
「そうだ、我も面接に……いや、見学に行ったことがあるのだが、ここはその部屋そっくりだぞ」
そうなのか、いや待てよ? 確か本棚に――。
俺は先ほどチェックした本棚へ向かい、一冊の本を取り出す。
「それってこの、メーデイア魔導師団か?」
本のタイトルは、メーデイア魔導師団交戦記録だ。
「おお、まさにそれだ。盗賊の首魁でも、やはりメーデイア魔導師団には憧れるのだなぁ」
うんうんと頷くベル。この国の英雄的な師団のようだ。
俺は本をパラパラとめくり、あるページでその手を止めた。
「――おいおい、そりゃ無いだろう」
俺は何度も読みなおすが、結果は変わらない。
「む? 何かあったのか?」
「……これを見ろ」
俺は持っていた本をベルに渡す。そこには、
「――作戦続行の命令書?」
盗賊行為についての、作戦命令が記されていた。
俺たちは大部屋へ戻り、集まっていた潜入メンバーと合流、外へ向けて歩きながら、互いの戦果を報告をする。
「調理室の薬物は全て抑えた。薬を調合していた錬金術師は自害しようとしたので、少々手荒に抑えさせて貰ったぞ」
チャドさんたち【ファルコン】の首尾は上々のようだ。錬金術師を確保出来たのは非常に助かる。
一方メリッサさん率いる【バトルキャット】の方も、しっかりと役割を果たしてくれたらしい。
「捕虜は六人全員確保したわよ。皆思ったより元気で、自分の足で歩いてくれているわ」
どうやら捕虜虐待などは行われていなかったようだ。彼女たちにはキツイ役割を押し付けてしまったと思っていたが、杞憂に終わって良かった。
そして俺とベルは盗賊を捕らえた話もそこそこに、首領の部屋で読んだ命令書の中身について説明する。
内容は盗賊行為の続行命令。もう一度隊商を襲えとだけ、男爵のサイン付きで短く書き記されていた。
「男爵家からの作戦命令!?」
「ああ、確か――」
「サントニオル侯爵家の派閥から最近弾き出された、ルーデル男爵家だ」
俺の言葉をベルが引き継いで説明する。
「それを恨んで、仕返しに盗賊行為を?」
「いや、そんな理由で侯爵家に真っ向から喧嘩を売るほどの馬鹿はいないだろう。誰かが裏で糸を引いているはずだ」
「それは誰?」
「それが分かったら、この事件の全容は見えたも同然だな」
結局のところ、情報が足りない。
「何よそれ、すごい気持ち悪いわ」
「分かるぞ、俺も中途半端に知りたくは無かった」
とは言え、知らないまま後で事件に巻き込まれても困るだろう。知識は身を助けるんだぞ?
「この襲撃を貴族の手のモノが行ってると分かったんだ。今後の身の振り方は気をつけてくれよ」
助けを求める相手を間違えて揉み消されでもしたら、次に狙われるのは俺たちの命だ。考えるだけでも恐ろしい。
そんな会話をしつつ歩いていると、洞窟の外に出た。
「その話については、今考えても仕方ないわね。私たちはやるべき事をやりましょう」
「そうだな、それで、これからはどう動く?」
みんなの視線が俺に集まる。
「そうですね……まずは連れて行かれた捕虜の人たちを救出する必要があります」
これは最優先だ。ギルド規約には民間人の保護に関しての記載があり、緊急時は人命優先で動く義務がある。
この規約を盾に各国でギルドの設立を認めさせた手前、守らないわけにはいかない。
「居場所すら分からぬのにか? 我とディアブロをもっても、見つけるのには時間がかかるぞ」
「それなんだよなぁ」
場所がわからない事には打つ手がない。全員で頭を悩ましているところへ、
「――確か北西の小屋に行くと、言っていました……」
先ほどまで捕まっていた女性の一人が、声を上げてくれた。
「私の父も連れてかれています……どうか、宜しくお願いします……」
どうやら親子で捕まっていたようだ。
「――情報、ありがとうございます。最善を尽くします」
お礼を言い、ベル達と顔を見合わせて頷きあう。
「行くぞ。人質は必ず助けて、盗賊全員ふん縛る。【バトルキャット】は彼女たちを連れて、身を潜めておいてください」
最悪の場合、彼女達だけでも逃げ切って貰えれば通報は出来る。盗賊の狙いが隊商の殲滅なら、失敗したも同然だ。
「分かったわ、そっちは頼むわよ?」
「何、我がいるのだ。問題あるまい」
「――ああ、任せてくれ」
良い返事だ。チャドさんは信頼出来る。ただベルは不安だ……。
「それじゃあ、出発するぞ」
盗賊たちとの戦いは、新たな展開を迎えようとしていた。




