34日目 4 潜入
俺とベルを含めた十人の別働隊は、洞窟がある崖の裏手に身を潜めていた。
「ベル、中の様子はどうだ?」
ディアブロを潜入させ、洞窟内部を調査中のベルに声をかける。
「本体の方が派手に山狩をしているお陰で、洞窟の中に人は少ないな」
「そうか、ベルのお陰で助かったよ。他に何が見える?」
「ふふ、そうであろう。他に見えるものか。えーっとぉ――」
えーっとぉって。何かとキャラが崩れるな、ベルのやつ。
「――あ、調理場っぽい部屋で薬の調合をしているぞ?」
「そこは真っ先に抑えるべき場所の一つだな。捕虜は何処なんだ?」
「さっきは入ってすぐの所で縛られてたんだが、今は奥の部屋へ移されたみたいだ。少し待て――――居たぞ。ただ人数が減っているような……」
それはまずい。
「一部は人質として連れてかれたんだ。ベル、今いる賊と捕虜の数は?」
「――先ほどから見えるのは、見張りの二人を合わせて七人、捕虜は六人だ。ただし最奥部にある部屋だけは、建て付けが良くてディアブロが入れん。ただ明かりはついてないし、誰も居なそうだぞ」
その人数なら何とかなるか。
「それで、どうするんだ?」
「突入するのよね?」
問いかけてきたのは、今回共に別働隊を務めることになったパーティー、【ファルコン】と【バトルキャット】のリーダー達で、ドワーフのチャドさんと猫獣人のメリッサさんだ。
二人とも風属性中級魔法持ちという事で、薬物対策も兼ねて一緒に来て貰った。
「ええ、外の見張りは奇襲で同時に倒しましょう。お二人は雷撃を使えますよね? それで奴らを気絶させたら、一人は残って捕縛をお願いします」
「捕虜にとるのか?」
「はい。何か情報を聞き出せるかもしれませんし、後で捕虜交換に応じるかもしれません」
手札は多いに越したことは無い。
「では行きましょう」
「我はここで待っていようか?」
ベル……まあそれでも良いけど。
「ディアブロちゃん、回収してやれよ」
俺の言葉にハッとしたかと思うと突然、ベルは呪文を唱えた。
「サモン! ディアブロ!」
え!? …………? え、何それ。
「何も起きないけど?」
「くっ、仕方あるまい。待っていろ、俺の半身」
果てしなく時間の無駄だったが、お陰で先ほどまであった焦燥感は消えさっていた。
「一つ一つ、丁寧にいきましょう。中に入ったらチャドさんは調理場の方へ、メリッサさんは捕虜の確保をお願いします」
「了解した」
「わかったわ」
了承した二人が、手の平を見張りの盗賊へ向ける。
「では今度こそいきましょう。せーっの!」
「「サンダーボルト!」」
二つの雷撃が見張りの盗賊に襲いかかった。
「ぐっ」
「うっ」
小さく声を上げて倒れた見張りを【ファルコン】所属の剣士に任せ、洞窟内部へ。
中は思っていたより広く、ベルの案内が無ければ迷っていたかもしれない。
「確かそこを左へ行くと調理場だ」
「チャドさん!」
「分かった、こちらは任せろ」
【ファルコン】と別れ、六人で先を進む。
「捕虜のいる部屋は次の突き当たりを右で、見張りは一人。左へ進むと椅子とテーブルが並ぶ大部屋があって、賊が三人、博打をやっていた」
「メリッサさん達は捕虜のいる部屋をお願いします。ベル、俺たちは三人を捕まえに行くぞ」
ベルが露骨に嫌そうな顔をするが、有無は言わせん。
「わかったわ。出来るだけ早く合流するから、無理しないで」
「はい」
「我にかかれば、問題ないがな」
口だけは一丁前だなぁ。足震えてますよ。俺とベルは【バトルキャット】と別れて大部屋を目指す。
出来るだけ気配を消して走り部屋の前に辿り着くと、やたらと建て付けの悪いドアの隙間から、話し声が聞こえてきた。
「くそっ! またお前の勝ちか、イカサマじゃ無いのか?」
「何か目印でも付けてんじゃねーか?」
「んなワケねーだろ! ほら、金をよこせ」
どうやら本当に賭け事をしているようだ。この状況で、正気か? まあ俺は助かるが。
「ベル、フラッシュ入れて踏み込むぞ。バインドで拘束していくから、お前はロープで縛っていってくれ」
「良いだろう」
ベルに防刃ロープを渡して、魔法を構える。
「行くぞ? フラッシュ!」
扉を開けて、魔法を放り込む。
「なッ! 何だ!?」
「敵襲か!?」
「クソっ、何も見えねえ!」
「ぐおおおお! 我の目があああ!」
何でベルまで喰らってんだよ! っと、そんな事に構ってる場合じゃないか!
「バインド」
「ぐっ、何だこいつは!?」
まずは一人。
「バインド!」
「痛ッ、腕が動かねぇ!」
これで二人目!
「バインド!!」
「舐めんなッ!」
最後の一人も拘束しようとしたが、木製のテーブルを盾にされ、防がれてしまう。
「ブラインド!」
即座に視界を奪い、接近戦に持ち込む為、疾走した。
「ちッ、ライト!」
闇属性への対処を良く知っている。しかし――
「もう遅い!」
忍足を発動させて走り寄った俺の立ち位置は、相手の想定よりもずっと近い。
「はあああ!」
俺は抜刀術のスキルを意識し刀を鞘で滑らせて、盗賊が持つテーブルを一刀両断する。そして間髪入れずに魔法を放った。
「バインド!」
「ガッ、クソっ! このチクショウめ!」
三人を制圧し、増援の警戒をする。アイリス先生の教えが生きてるぜ。
「お、終わったのか?」
やっとフラッシュの影響が抜けたのか、部屋を覗いて声をかけてくるベル。
「ああ、急いで拘束しよう」
「う、うむ」
ベルからロープをニ本受け取り盗賊たちの手足を固く縛っていく。すると捕縛を終えたベルが、関心したように話かけてきた。
「カケルはモヤシの軟弱者かと思っていたが、意外と強いのだな」
そんな風に思われていたのか……まあ分かるけど。
「奇襲だから上手くいっただけだ。戦闘の基本は、相手に何もさせない事だからな」
極論だが、援軍無しを前提として、勝利条件を互いに相手の打倒とした場合、一度も攻撃させなければ負けは無くなる。
ルールが存在しない命のやり取りにおいて、相手の攻撃手段を全て潰すのは骨だが、こちらが一方的に攻撃をして主導権を奪い続ければ、それだけでかなりの手札を潰せるのだ。
ブラインドはその点、かなり優れている。視覚情報に頼る攻撃を大体消せるからな。
「なるほど、負け筋を極力減らしていくのか。しかしそれだけで、ここまで違うか」
「勝つことと負けないことは別だけどな。相手も負け筋のケアはしてくるから、よく考えて勝ち筋を残しつつにしないと、純粋な能力勝負になったり、引き分けやミス待ち、運の勝負になっちまうぞ」
偉そうに語っているが、ゲームやスポーツをやってる時に身についた知識と経験だ。何でも応用って効くもんだよなー。
「そうか。我ももう少し頭を使えば、いずれ上級冒険者に……」
ベルが一人、小声で何かを言いって、しきりに頷いている。
「そんな事より、首領の部屋って何処だ?」
「あるとしたらこの先、最奥部だ。建て付けが良くディアブロが入れなかった部屋だな。他は酒瓶の転がる粗末な部屋だった」
「なら、ちょっと行ってくるわ。そいつらの見張は頼んだ」
「我一人でか!?」
「縛った上に口まで塞いでるんだ、大丈夫だよ。じゃあ宜しく」
俺は大部屋を離れて、首領の部屋へと向かった。




