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34日目 3 不審者、ベル

 陣地の構築が終わり、幾つかのパターンに応じて作戦も組んだが、盗賊は未だに動きを見せていない。

 時が経てば経つほど、守りが堅くなるのにも拘らずだ。


「つまり、何か秘策がある?」

「多分な」


 だからこそ自分達から打って出て、敵の意表を突きたい。


「まずは情報が欲しい。幸い今回も冒険者の中に、面白いスキルを持ってる奴が居たんだ」


「――それが、アレ」


 アイリスさんにアレ扱いされているのは、目を閉じて地面を四つん這いで動いている不審者だ。


 彼の名前はベル、16歳の青年である。

 茶色の髪をアシンメトリーに伸ばし、鋭い目つきをしている。羽織っているフードは漆黒、穴あきグローブをつけていて、カラコンでも入れているのかオッドアイだ。


「視覚同調。今あいつの視界には、使い魔のトカゲが見ている景色が映っているそうだ。ベル自身がトカゲみたいなポーズをしている理由は不明だが」


 奇妙だ。アイリスは思考が読めるんだから、理由くらいわかるのでは?


「――カッコいいと思って、やってる」

「…………」


 ――あんまり触れないであげよう。人間、拗らせる時期はあるもんだ。


「そう。カケルもあった?」


「あったぞ。小学五年生の頃、授業中に寝るのがカッコいいと思って毎日、寝たふりをしていた」


 意味不明だよな? けど当時は本気でカッコいいと思っていたのだ。不思議だ。アイリスはそんな話無いのか?


「――子供の頃読んだ本に、特徴的な語尾をつけるキャラクターが居た。それをカッコいいと思ったわたしの語尾は一時期、ござるだった」


 ふふふ、何それ。面白そうだから一度見てみたいでござる。にんにん。


「……わたしはいつだってカケルを千尋(せんじん)の谷に突き落とせる」


「憎しみでそれをやったら普通に復讐だよ! 親の愛情ありきのお話だからね!?」


 獅子が個人的な怨恨で突き落としてくるの、怖過ぎる。

 俺が恐怖に震えていると、


「なにぃ!?」


 ベルが突然、驚きの声を上げた。


「っと、何かが見えたみたいだ。話を聞こう」

「カケルに任せたっていい」


 不審者に近寄りたくない人じゃん。可哀想だから一緒に行こう。大丈夫だ。さっき話した限り、いい奴そうではある。


 なんとかアイリスを説得して、ベルの元へ向かう。


「ベル、何かあったか?」


「ふっ、何、少し驚いただけだ。我が使い魔ディアボロが、その瞳に映した光景にな」


「…………」


 大層な名前だが、15十センチくらいのトカゲの事だ。後、『なにぃ!?』は結構ダサい寄りだぞ。


「それで、何が見えたんだ?」

「話せば長くなるのだが、あれは昨夜――」


「手短に頼む」


 俺はコイツのこと面白くて嫌いじゃ無いが、人によっては手が出るレベルだと思う。


「むむ、仕方あるまい。我が手に入れた情報、心して聞くが良い」


「ああ」

「…………」


「ディアブロに賊の後を尾けさせたのだが、ここから南西に1キロほど行くと洞窟があるのだ。そこに十数名、捉えられた者が居た」


「――そのパターンかぁ」

「要救助」


 捕虜がいる可能性も考えていたが、あまり歓迎すべきパターンでは無い。とはいえ助けない訳にもいかず、ならば事前に決めた通り、作戦をこなすだけだ。


「プランBだな」

「――行き当たりばったり」


「違うよ! アイリスを含めた本隊が、敵の気を引いてる間にこっそり近づいて奇襲、救助だよ!」


 ちなみにプランDが、出たとこ勝負のDだ。


「分かった。わたしの方は派手に動く」


「頼んだぞ。俺はベルと数人の冒険者を連れて洞窟へ向かう」


「僕も行くのか!?」


 一人称どうした。我とか言ってたじゃないか。


「洞窟の周辺から中に至るまで、ディアブロを通じて情報を集めて欲しい。これはベルにしか出来ない事だ」


「え!? そ、そうか。我にしか出来ない事か。ふふふ」


 ニヤつきがヤバい。大丈夫かベル、余りにもチョロいぞ。


「凄い、今回の活躍でCランクに昇格する所まで妄想してる」


「俺はこいつが本気で心配になってきた」

「同感」


 まぁ、不思議と憎めないやつだから、何とかやっていくだろうけど。


「さて、そろそろ動こう。アイリス、気をつけてな?」


「わたしは平気、カケルも気をつけて」

「我も上級冒険者の仲間入りかー」


 一人だけクッソ心配なやつが居るが、最悪引っ叩いてでも正気に戻そう……。


 俺たちは動き出した。自身のとった行動が、正しく報われる事を祈りながら。

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