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34日目 2 拘束からの?

「グォッ!?」


 両腕ごと体を拘束されて、呻き声を出すフォルク。


「もう一発バインド! この男は賊の内通者だ! 誰か縛るの手伝ってくれ!」


「待て! コイツこそが本物の内通者だ! コイツを捉えムゴッ」


 俺は魔法袋(マジックバッグ)から取り出した布をフォルクの口に詰め込む。

 出発前夜に買った、軽度の麻痺効果がある布だ。


 耐刃が付与されたロープで縛りつつ周りを見渡すと、誰もが突然の事態に動揺しているようだった。


「近くにいた人は、彼がアイリスの背中に向けて雷撃(サンダーボルト)を放とうとしたの、見ましたよね? 毒を燃やし尽くせる彼女を排除したかったのでしょう」


 その言葉に、数名の冒険者が頷く。


「という訳で(フォルク)が内通者です。見張を立てましょう。魔力に不安のある方はMPポーションを。回復が済んだら倒れている人を退避させます」


 指揮官の一方は意識を失い、もう一方は内通者だった。代替の指揮官が不明なので、手早く動く為に指示を出す。


「前衛の方は退避作業を始めてください。キュアやリカバーを使える方は、倒れてる人へ試して貰っていいですか? ファイヤーストームや風の範囲魔法をお持ちの方は――」


 直ぐにでも反撃に出たいが敵の数すら不明の中、無理は出来ない。ならまずは守りを固めるべきだろう。


 今でこそ盗賊は様子を見ているが、仕掛けるタイミングは相手次第、手早く万全の状態にせねば。


 俺はあれやこれやと周囲に指示を出していく。


 ある程度防衛の目処がたった頃、冒険者の治療に当たっていた人から声が上がった。


「――キュアやリカバーの効きが悪い。なんの症状なんだ?」


 その言葉に疑問を覚え、直接様子を見る事にする。


「見せてもらえますか?」


 キュアを受けて目を開いた冒険者。しかし顔の前で手を振ってみても、反応が無い。


「神経毒の類じゃ無いんですか?」

「あぁ、それならキュアで完治するはずだ」


 毒の判定をすり抜けて、睡眠状態でもない。となると……。


 俺は医療漫画で学んだうろ覚えの知識で、瞳孔の確認をする事にした。


 男性冒険者の顔を押さえて瞳を注視する。眼振が起きていて、瞳孔は縮小していた。呼吸の浅さと意識障害も合わせると、オピオイド系薬物の過剰摂取な気がする。


「――薬物の類ですかね? 快楽目的や痛み止めに使う類の」


 キュアが有効なのは魔法や自然界に存在する、明確に害のある類だけだ。神様がどんな基準で魔法の設定したのかは不明だが、効果が出ない種類の植物が存在している。


「キュアが効かない薬物など禁製品だぞ。罰当たりな奴らめ」


 この世界でも殆どの国と宗教で、薬物は禁止されている。その薬と睡眠薬を合わせて調合しているのだろう。


「薬物の場合、どれくらいで健康な状態に戻りますか?」


「ここまで強い症状だと、最低でも一日は様子を見たい」


 戦力としては当てにならないか。


「賊はこの薬の持続時間を知っているはずです。最低でも一度、行方不明になった隊商(キャラバン)相手に使っているはずですから」


「つまり、彼らが回復するまでの間に再び襲撃があると?」


「俺ならそうします」


 人を取り逃し通報が入り、直ちに追っ手がかかった場合、彼らの逃亡は困難を極めるはずだ。

 逆にここで隊商を全滅させれば物資は潤沢になり、事件の発覚も遅れて薔薇色の人生だ。


「とにかく急いで体勢を整えましょう。それとフォルクの尋問がしたいんですが、得意な人とかいます?」


 なんてね。そんな人いるわけないか。


「ここに居る。遮断魔法陣をオフにしろと言ったのはカケル」


「普通に忘れてた」


 フォルクの首根っこを掴み、引き摺りながら現れたアイリスが抗議の声を上げる。そりゃあ思考が読めれば尋問なんて簡単だ。


「フォルクの裏切りを確定させたのはわたしなのに」


 あれ、ちょっと拗ねてる? 実はテントの中で行った、


『なあ、アイリス。やっぱり――』

『うん、けどやるしか無い』


 と言うやりとり、最近雇われたというフォルクを疑っていた俺が、作戦の杜撰さから確信を深めて、思考を読んでいたアイリスに確認するための会話だった。


「カケルはなんで、フォルクが怪しいと思ったの?」


 不思議そうに小首を傾げるアイリス。


「まず、内通者がいるのほぼ間違いないと思っていたんだ」


「どうして?」


隊商(キャラバン)一つが行方不明になったというのに、情報が噂話程度だって事は、一人も逃げ切れなかったって事だ」


 この情報だけで、疑うには十分だった。だから事前にオリバーさんの周囲を探って、できる範囲の対策をした。


「偶然じゃありえない?」


「いや、あり得る。ただし隊商キャラバンに帯同する商人や冒険者の人数、使い魔の情報までを正確に把握していないと、通報による事件発覚の不安は残るはずで、同じ街道には止まれない」


 賊に関する報告が無ければ、最初に派遣されるのは討伐隊ではなく捜索隊になる。


 つまり奴らは討ち漏らしが無く、討伐隊が派遣されていない事を確信していて、この街道に居座り襲撃して来たわけだ。


「フォルクを疑ったのは、隊商の参加者情報なんて相応の立場に居ないと触れられないから。ダリウスさんは古参の雇われだから白、オリバーさんは立場上メリットが薄い」


 別の参加者に化ている可能性もあったけど、宿で飲んでいたメンバーは、会頭のオリバーさんを含めて三人だけだった。


「参加者の情報を開示する程オリバーさんが心を許しているのは、娘のクレアを含めても三人。そしたらもう疑わしいのは――」


「フォルク只一人だったという訳か」


 俺のセリフを引き継いだのは、オリバーさんだ。


「町のセキュリティへの信頼と、娘が助けられた件で、私が必要以上に奴を信用してしまったという事か。人を見る目はあると思っていたのだが」


 肩を落としてを落ち混んでるようだ。


「そういった側面もあります。多分クレアちゃんが迷子になったのは偶然じゃ無い。フォルクが意図的に髪飾りを落として迷子にした所へ、自ら声をかけたのでしょう。しかし……」


「しかし?」


「これは推測ですけど、そいつ(フォルク)は、精神操作系の魔法を覚えていると思います」


 俺は意図的にフォルクに聞かせて、アイリスの顔を伺う。


「おー」


 おーじゃなくて、ご説明いただけますでしょうか。


「闇属性の心理誘導の魔法を持ってる。ちなみに今は、わたしを買収しようと必死に考えてる最中」


「君は、人の思考が読めるのかい?」


 オリバーさんから疑問の声があがる。


「そう。普段は読めないようにしてるけど、今回は緊急事態」


「なるほど。便利そうだが、商人としては正直恐ろしいよ」


 腹の中探られ放題だからな。


「どうやって潜り込んだの?――――ふーん、偽装の魔法で町のセキュリティにひっかからないようにステータスと名前を改変、心理誘導を使って自身に好感を持たせた」


 へぇ、しかし偽装魔法で町のセキュリティを突破出来ちゃうのか。結構危ういな。


「潜入方法は人から教わったから、原理は分からないって。あ、頭の中で歌を歌い始めた。こしゃく」


 なんとか思考を読まれないように、頑張り始めたらしい。


 しかしセキュリティの件、理屈は解らず、結果だけを知っているのか。


 なら結果から逆算して考えてみよう。


 偽装による名前とステータスの変更でセキュリティを掻い潜れるという事は、犯罪者である事を判別するのに、その二つの情報を使用しているという事だ。


 ステータスや名前を参照する手段があり、それを()()と照合して、犯罪歴を確認する手段があるのだろう。


 ではその()()とは? 少なくとも鑑定で犯罪歴は判らない。もっと別の領域にデータとして記録されているという事だ。


 そこでふと、厨二病全盛期にハマっていた概念を思い出した。


アカシックレコード(万象の記録)?」


「アカシックレコードというのは分からないけど、町のセキュリティには、ステータス閲覧の為、神様に作り方を教わった魔道具を利用してる」


「なら、てんで的外れという事はないか」


 あれは自分のステータス限定だが、鑑定より多くの情報が見えるからな。


 今度ギルドにセキュリティホールとして報告してみるか?


「謎は大体解けた。今は襲撃者に集中」


 確かにそうだな。ありがたい事に冒険者たちはすでに動いてくれている。


「私も落ち込んでも居られないか。それで、この後我々はどう行動するべきだと思う?」


「とにかくあの薬物が脅威です。今回は詰め込んだ樽を投げてきましたが、隠れて風に乗せられたら、対処は難しい」


 冒険者を一網打尽にする為にあんな手法をとったのだろうが、風上から風魔法でコソコソと流される方が、余程厄介だ。


「手早く陣地を構築したら、精鋭で接近戦に持ち込みます」


 俺たちが全軍で賊を追い込んでも、商人たちを人質に取られれば形勢が逆転してしまう。守りを固めて、精鋭で打って出る。ゴブリンキングの時と同じだな?


「賊なんて所詮、ゴブリンと一緒だとカケルは言っている」


「言ってないから。オリバーさん、言ってないからね?」


 言葉が強い。オリバーさんには苦笑いされてるし。


「ふざけてないで、反撃開始と行きましょうか」

「目にもの見せる」

「ああ、頼むぞ」


 俺たちの反攻は、ここから始まった。

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