表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/67

31 日目〜32日目 ケインズ商会のオリバーとクレア

 異世界三十一日目。


 異世界ローリルへ来てから一ヶ月を過ごし、日々暑さが増しているなと感じている。日本で言う所の、7月くらいの気候だ。


 最近は麦の収穫が進んでいるようで、大量の穀物を積んだ荷馬車が町を行き来している。


「今日は報酬を受け取った後、護衛依頼を受けて、自由行動」


 この町での目的は達成した。次は南の港町、サントニオルへ向かう予定だ。


「おっけー、じゃあ行動開始!」


 宿を出て、ギルドで報酬20万ラウを受け取り、明日出発の護衛依頼を受けた。


 その後は二人別れて街へ繰り出す。


 俺は1日かけて市場や魔法書屋を巡り、露天で抜刀術基礎という魔法書を発見して購入。ホクホク顔で宿に戻った。


 しかし刀剣関係のスキル、まじで売ってない。不人気というより規制されてると言われた方が納得がいくレベル。

 刀剣術基礎を探してくれた【フロースセア】の二人には感謝だ。


 自分の部屋に荷物を置いた俺は、アイリスを食事に誘う為、部屋のドアを叩く。


「アイリス、居るかー?」

「居る、鍵開いてる」


 閉めときなさいよ。まぁこの世界、本当に危険な人には鍵なんて無意味だろうけど。


「入るぞー」


 ガチャリと扉を開けると、アイリスの他に小さな女の子が一人、ちょこんと椅子に座っていた。


 うん? 誰? 何故ここに? 高速回転した俺の脳内で、正解が導き出される。


「誘拐は良く無いぞ。一緒に謝りに行こう?」

「違う」


 ふるふると首を横に振るアイリス。


「次に護衛するキャラバンに、オリバー・ケインズという商人が居る。その娘。八歳」


「を、誘拐したのか?」


 犯罪ダメ、絶対。


「ゆ、誘拐されてません!」


 ちんまりした女の子が椅子から立ち上がり、アイリスを庇うために声を上げた。


「知ってた」

「――え!?」


 ガーンって顔だ。


 すごい。良いリアクションをする。この反応を求めるアイリスの気持ちが少し分かったかもしれない。


「で、その商人の子が、何故アイリスの部屋にいるんだ?」


「――その事は、話せば長くなる」


 えぇ、この一日で何があったんだよ。


「長くなりません! お父さんが下の食堂で飲んでいて暇になったところを、アイリスさんに構って貰っていただけです!」


 そうなんだ。しかしアイリスよ、子供のツッコミを聞いて満足そうに頷くな。


 そんなアイリスが口を開く。


「クレアには、才能がある」


 悔しいが、わかる。


「え!? そんな! 才能だなんて!」


 クネクネと素直に照れている。こんな反応俺には出来ない。


「トリオで売り出すことも辞さない」

「鳥夫ってなんですか?」

「天然ボケまであるのか、最強だな」


 侮りがたし、八歳少女。


「まぁ事情は分かったし良いや。ご飯誘いに来たんだけど、もう食べたか?」


「まだ、一緒に行く」


「私は先ほどいただきましたけど、一緒にいきます!」


 ビシッと手を挙げるクレアちゃん。何この可愛い生き物は。


「うん、デザートご馳走する」


 アイリスは顔こそ無表情だけど、雰囲気が楽しそうだ。実はクレアにデレデレなのではないだろか? 可愛い物好きだしな。


 食堂に場所を移して、空いている席に着く。


 クレアちゃんは男三人で飲んでいる父親の元へ行き、何やら話をしているようだ。


「カケルにイジメられたと報告してるに違いない」


「あんなに純粋な少女捕まえて、なんてこと言うんだ」


 事実だったらトラウマもんだよ。


「クレアはやれば出来る子」


「その言葉はもっとポジティブな使い方をするべきだ」


 俺とアイリスが白熱の睨み合いをしていると、オリバーさんがクレアちゃんと共にやって来た。


「娘がお世話になってすまないね」


 言いつつ、俺を値踏みする様に見てくる。


「気にしなくて良い。クレアはいい子」


 確かに。真面目そうだし。


「そっちの青年は初めましてだな。明日から護衛なんだろう? 私はオリバー・ケインズ。ケインズ商会の会頭であり、明日出発する隊商(キャラバン)のリーダーだ。よろしく頼むよ」


「自分はパーティー【イーリアス】の古昌カケルです。明日からよろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


 これはクレアちゃんの元気な挨拶。和みますね。


「脅すようで申し訳ないが、十日ほど前、南の街道で行方不明になった隊商(キャラバン)があると噂を聞いてね。予定より多めに護衛を雇ってはいるけど、細心の注意を払ってくれ」


「――はい。全力で臨みます」


 ルーカスさんたちの隊商は大きいから心配無いだろうけど、こっちはヤバそうだな……嫌だなぁ。


 内心嘆く俺の横で、アイリスがボソッと呟く。


「カケルの不幸体質」


 そんな事はない。反論しても言い負かされる気がするから、何も言わないけど。


「あっちで飲んでる二人が今回の隊商キャラバンで冒険者の指揮を取る人間だ。デカい方が元冒険者で古参のダリウス。隣の優男が新入りのフォルクだ」


 指を指された二人が目配せをしてきたので、目礼で返す。


 お、クレアちゃん、フォルクさんの方をチラチラ見てるね。好きなのかな? おませさんめ!


「では私は戻るよ。ツマミが全て無くなる前にね」


 はははと笑いながら去っていくオリバーさん。


 残された俺たち3人は料理の注文をしつつ、会話に興じる。


「クレアちゃん、フォルクさんの事が気になる?」


 かわいいリアクションを期待して話を振った。


「そそそ、そんな事ありません!」


 絶対あるじゃん。動揺がすごい。


「フォルクさんってどんな人なの?」


 答えやすい質問で攻めてみよう。


「え、ええとですね。フォルクさんは、私が迷子になっているときに助けてくれた人なんです!」


 頬を上気させ、身を乗り出して熱弁を振るう。


「迷子?」


「はい。数日前、お父さん達と一緒に市場を見て回っていたんですけど、人とぶつかった拍子に髪留めが落ちてしまって。拾おうとした時、人混みに流されてしまいました」


 あら危ない。小さい子とはちゃんと手を繋いでいないとね!


「流された先で途方に暮れていたところへ声をかけてくれたのが、フォルクさんだったんです!」


 俺が八歳で一人迷子になったら、不安でギャン泣きしてるかもしれない。クレアちゃんには、きっとヒーローのように見えた事だろう。


「それ以来好きなの?」

「ちちちちち違います!」


 アイリスの核心をつく質問に大慌てだ。


「こほん、迷子の私を助けてくれた後、お父さんがお礼に食事へ誘ったのですが、そこで意気投合されて。魔法の腕も優れている事が分かり、そこからはトントン拍子に雇われて貰いました」


 クレアちゃんがクネクネしている。ダンシングフラワーみたい。


「そんなにすごい魔法使いなの?」

「はい! 上級魔法も使えるそうですよ!」


 ほう。高ランクダンジョンが無いこの近辺では、最高級の人材かもな。


「それは凄いな。じゃあ、ダリウスさんの方はどんな人?」


「ダリウスさんですか? 私が小さい頃からお父さんの商会に雇われている人で、寡黙ですけど、優しい人ですよ!」


 今でも十分小さいだろうと思いつつ、酒盛りをしているダリウスさんの方を見る。


 着ている服が筋肉でパツンパツンだが、身だしなみも整っているし、何より目が優しい。今はオリバーさんの話に、頷いて相槌を打っている。


 フォルクさんはシュッとした優男風の容姿なので、デコボココンビ感があるな。物語で映えそうな二人だ。

 そんな事を考えていると、


「おまちどうさま、今日のメニューは――」


 給仕の人が料理を運んできてくれた。


 それからは美味しご飯を食べつつ、クレアちゃんから色々な話を聞き出して、楽しい食事の時間を過ごした。


 その後、クレアちゃんが船を漕ぎ始めたところでオリバーさんがやってきて、その日は解散。


 俺は夜が深まる前にもう一度買い出しに出て、魔法書といくつかの道具を手に入れた。


「こんなもの、役に立たないと良いんだけど」


 俺は購入したアイテムの入っている魔法袋(マジックバッグ)へ目を向ける。


「備えあれば憂いなしってね」


 一人呟いた言葉は、夜の喧騒にかき消されていった。



 異世界に来て三十二日目の早朝、南門に集まった隊商(キャラバン)は、出発の時を迎えようとしていた。


「アイリスさん、カケルさん、お早うございます!」

「お二人とも、おはようございます」


 元気に挨拶してくれたのはクレアちゃん。護衛にフォルクさんを引き連れて、遊びに来たようだ。


「おはよう」

「おはよう!」


 俺たちも挨拶を返す。


「今日はお二人とも前列の配置です! お話しながら移動できますよ!」


「そう。クレアの喉が枯れ果てるまで、話してもらう」


「そこまでは話しませんよ!?」


 クレアがアワアワしている。


 アイリスとクレアが戯れていると、フォルクさんが穏やかな声で窘めた。


「クレアさん。ケインズ商会会頭の娘たるもの、もう少し落ち着きを持った方が良いですよ?」


「すす、すみません」


 ショボーンと、文字が見えるかのような落ち込み具合だ。いたたまれない。

 話を変えるのに話題を提供しようとしたところへ、出発の号令がかかった。


「移動開始だ! 全員持ち場に戻ってくれ!」


 皆が慌ただしく動き始める。


「クレア、失敗は誰にでもある。顔を上げて、出発」

「――はい!」


 うむ、やはり子供は元気が一番だ。少し離れた場所では、フォルクさんがクレアちゃんの見えない位置で、軽く頭を下げた。うーむ、周りをよく見ているな。


「よし、今日も一日頑張るか!」

「うん、頑張る」


 こうして俺たちは、サントニオルへ向け出発した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ