30日目 Eランク草原ダンジョン
ダンジョンについてからの討伐作業は、かなり順調に進んだ。
冒険者を一定の間隔で配置して、ローラー作戦を行ったのだ。
この草原ダンジョンはその名の通り、一面の草地が広がっている。階層は二つ。今居る一層と、階段を降りた先にあるボスフロアだけだ。
その代わりに第一層は7キロ四方程あり、非常に広大だ。そんな中を俺とアイリスは、他のパーティーの様子を見ながら、足並みを揃えて歩いていた。
「また来た」
「相変わらずデカ過ぎんだろ」
現れたのは巨大化したフェロウシャスブル。
牛は元々体高150cm、体長170cmほどあり、通常のフェロウシャスブルも2メートルを超えていたのだが、こいつに至ってはその三倍ほどの大きさだ。
「食い出がある」
「解体してる時間は無いがな!ウィンドカッター!」
「アイススピア」
俺が風の刃を放ち魔物の足を止めたところへ、アイリスがトドメを刺す。
「勿体無い」
「足並みを揃えないと撃ち漏らしが出ちまうからな。さっさと魔石をとって進もう」
今日中には魔物の駆除を完了して本来のEランク狩場に戻したいとは、クロウさんの言だ。町のピンチという事で、他の冒険者も張り切ってる。
魔物を薙ぎ倒しつつ、アイリスの探知を駆使して進行していく。
「このダンジョン、同じEランクの森林ダンジョンより大分楽じゃないか?」
罠もないし、状態異常攻撃も無い。
「純粋に魔物が強くなってる。遮蔽物がないから敵に囲まれやすい。カケルが強くなったから楽に感じるだけ」
「え? もう一回言って?」
ふへへ、強くなったって!
「……遮蔽物が無いから、カケルが魔物に囲まれやすい」
「そっちじゃ無い! あと囲まれやすいのは俺だけじゃない!」
褒めたら調子に乗ると思われてる? まぁ、正解なんですけどね。
「そんな事より、あっちから魔物」
アイリスが指し示した先から、大きなイノシシが突進して来る。
「もう4tトラックだろ、あれ」
デカ過ぎるわ。
「うん? あれはビッグボア」
名に恥じないってレベルじゃねーぞ。っと、攻撃せねば。
「ダークネスアロー!」
漆黒ね矢がビッグボアの体に当たり、厚い毛皮に弾かれた。
「スキル上げも大事、けどちゃんと倒す」
スキルのレベルアップ狙いがバレてました。
「すみません。ストーンパイク!」
地面から生えた石の槍が、比較的防御力の低い腹部を直撃する。
「ブヒイイイイ!」
腹部から串刺しにされ、血を吐くビッグボア。
「サンダーボルト」
瀕死の魔物に、アイリスの放つ鋭い雷が突き刺さった。もはやその四肢で巨体を支える事が出来ず、倒れ伏すイノシシの魔獣。
「よし、次だな」
俺は慎重に近づいて死亡を確認した後、魔石を取り出す。
この行進は六時間ほど続き、疲労を自覚し始めた頃に、全パーティーが最奥の壁へ到着した。
「ふぅー。やっと終わったな!」
「お腹減った」
俺は干し肉を少し食べていたが、アイリスはジュースを飲むだけだったからな。
「依頼が終わったらすぐに飯だな。とりあえず集合場所へ向かおう」
「うん、急ぐ」
アイリスに急かされて、二階層に続く階段へと向かう。
集合地点にはすでに六割程度の冒険者が集まっており、その後も続々と合流してきた。
「皆ご苦労だった。君たちのおかげで無事このフロアから巨大化した魔物は消え去った。次はボスフロアに異常がないか確認する。では行こうか」
四十を超える大所帯が階段を降りて、ボス部屋の前に集まる。ここまで特に異常は無い。
「我々【アルスガード】でボス部屋内部の状況を確認する。皆は警戒しつつ、休憩をとってくれ」
そう言ってBランクの魔法使いである人間のアンジェラさんと共に、ボス部屋へ入って行く。休憩も無しに、凄いバイタリティだ。
見送った俺たちは、一息つくために腰を下ろす。
「ご飯にしようぜ」
「うん、大盛りでよろしく」
言われて大きいサイズのお弁当を取り出す。そこから暫くは無言の食事が続いた。元々美味しいご飯に空腹も合わさって、かなりがっついてしまったぜ。
お腹が満たされて食後のお茶を飲んでいると、クロウさん達がボス部屋から出てきた。二十分くらいかかったけど、何かあったのかな? 俺はクロウさんの報告を待つ。
「ボスに異常が無いかじっくりと検証したが、特に通常時との違いは認められなかった。これをもって本日の依頼は完了とする! 皆、ご苦労だった!」
中で検証してたんだ。依頼も終わってよかった。
「終わったな!」
「うん、ついでにボスを倒して帰る」
そんな気はしていました。確認取るか。
「クロウさん、ちょっとボスに挑んで来て良いですか?」
「構わないぞ。他に挑んでおきたいパーティーがあれば言ってくれ。検証にもなるから遠慮はするな」
それを聞いた幾つかのパーティーから手が上がる。
真っ先に希望した俺たちは部屋の中へ入り、出現した二十匹のアイアンシープを、範囲魔法で一掃した。
「あれ?」
「うん?」
手応えがなさ過ぎる。どういう事なの? アイリスさん。
「Eランクダンジョンで、レベル三十を超えた人間が二人、中級魔法を撃てば大体こうなる」
まじか。嬉しくはあるけど、三十一レベルでこれって。一般人が強すぎて、街の治安維持とか大変じゃないか?
「セキュリティが優秀だし、犯罪の刑罰が重い。お酒に酔って暴れた結果、鉱山送りになった人もいる」
なるほどね。とにかく危険分子を町から排除するようなシステムになってるのか。
見方によっては恐ろしい社会だ。そこら辺の人が刃物どころか、ダイナマイトやロケットランチャーを持って歩いてるようなもんだし。
「王都の貴族街は外から入る人間全員、魔封じの腕輪を装着する義務がある」
「やっぱり何処も苦労してるんだな」
「うん。他国には完全に魔法が使えなくなる建物があったりするから、今度観光へ行く」
「ちょっと見たくはあるな。よし、そろそろ宝箱あけて部屋を出ようぜ」
二人で部屋の中央へ向かい、今回はアイリスに宝箱をあけてもらう。
「ふん!」
そんな勢いよく開けんでも。
「中身、どうだ?」
「うん、そこそこ当たり」
なんと、一発目から幸先がいいな。なになに?
「魔石と睡眠耐性スキルにポーションか、良いね」
Eランクダンジョンは状態異常の耐性系スキルが出やすい。ダンジョンを作った神様達が、試練に挑む人々が死に難くなるようにそう決めたとか、何とか。事実なら優しいね。
「はい、カケルの」
アイリス先生は低ランクの耐性スキルをコンプリートしている。一冊10万ラウから50万ラウくらいするのに。
「ありがとう。ヒモになった気分だ」
アイリスにどんどん与えられて強くなっていく。ご飯など小さいところでコツコツと返してるが、借りが膨れ上がっていくぜ。
「カケルはタカシみたいになる才能がある」
「ろくでなしって事かな!?」
嫌な才能過ぎる。
「大丈夫。パーティーを組んだ以上は、わたしが毎日働く」
「いや俺も働くよ! そんなダメ人間にはならないよ!」
「言質は取った。これから毎日馬車馬の如く働いてもらう」
「謀ったな!?」
恐ろしい権謀術数だった。怖いぜ。
ふざけたやり取りをしつつボス部屋の外へ戻り、その後は他のパーティーの攻略を待って、ギルドに戻るのだった。




