28日目2 町ぶら、アルスヴァルト編
テッドさんの話が終わった後は、資料室を利用してダンジョンの情報収集に取り掛かった。
しかし平原ダンジョンは、とてもシンプルな構造だったので、調べ物もそこそこにアイリスと二人、街へ出ることにした。
「とりあえずご飯食べに行こうぜ。名物とか特産品とか」
「うん。この辺りはダンジョン産のお肉と、森で栽培してるアルスキノコなんかが有名」
「だからお肉とキノコの串焼き屋が多いのか。とりあえず串焼き買って食うか?」
「うん。買って近くの公園に行く。多分ジュースの屋台が出てる。テーブルもあるはず」
俺たちはキノコと牛肉が交互に刺さっている串焼きを買い、その後も気になった食べ物を片っ端から購入して公園に向かった。
「うまいなこれ!」
公園の屋台でジュースを買って、設置されているテーブル席につく。
熱々の串焼きを一口頬張ると、強烈な旨味が押し寄せて来た。
お肉は程良くしまり、噛むと肉汁が口の中に広がる。間に挟まるアルスキノコは香り高く、キノコ特有の旨味も濃厚で、お肉に負けていない。
「うん、こっちのポークステーキも美味しい」
「ほう、どれどれ」
おお、まじで美味い。豚の肉って脂が強いイメージだけど、全然しつこくない。
肉は好きだけど、そこまで量を食べるタイプでは無かった。しかしこの町のお肉なら無限に食べれられるかもしれない。
「魔物のお肉は、魔石の魔力含有量が多くなればなるほど美味しい。そしてこれは、Eランク魔物のお肉」
Sランクの魔物肉なんて食べた日には、落ちたほっぺたが二度と戻らないのではないだろうか。いつか食べる事を目標に生きていこう。
その後もキノコをふんだんに使ったサラダやハンバーガー、果物をそのまま絞ったミックスジュースなど、どれを食べても絶品だった。
「うまかったなー」
「たなー」
なんだよ、たなーって。けどツッコミはしない。何故なら俺は満たされているから。すごく大らかな気持ちだ。今ならなんでも受け入れられるね。
「カケル、お腹押して良い?」
「それだけはやめてくれ。今押されたら俺の大らかなお腹から、全てが戻ってくる」
ちょっと満たされすぎました。もう動きたくない。
「カケルは食べ過ぎ。それで、この後はどうする?」
「食休み後に、町をぶらつくアイリスの写真を撮る」
「――どうかと思う」
「そんなリアクションされても。アポロさん達にちゃ
んと送らないと、直ぐに突撃してくるぞ」
一昨日、町についてからはご飯を食べるアイリスしか撮ってないからな。やはり色々な姿を収めねばなるまいて。
「……仕方ない」
アイリスもアポロさんが押し掛けてくる姿を、容易に想像できたのだろう。渋々ながら受け入れている。
それから一時間、たっぷりと休憩をして町の散策に戻った。
「露店ってほんと、色々売ってるなー」
「掘り出し物の確率は一割も無い。けどそれが良い」
鑑定魔法のある世の中で、お値打ち価格の物を見つけるのは非常に困難だ。
ちなみに偽装魔法も一応あるが、希少な魔法だし、バレた段階ですぐに逮捕、収監されることを考えるとリスクが高い。詐欺が少ないのは良いことだね。
「お、竹とんぼじゃん。駒に凧も! 懐かしいなー」
「向こうの玩具、大昔からこっちにもある」
向こうっていうのは地球の事だ。知識チートさん達が大儲けしたのだろう。食事など、チートさん達の恩恵に与っているから文句はない。
「アイリスはどういう玩具で遊んでた?」
「けん玉の達人。メンコも得意だけど、お父さん達としかやった事がない」
おふっ、何気ない会話で心にダメージを負ったんだが? 不憫すぎる。
「そうなのか。今度ブラウンに戻ったら、みんなで勝負な?」
「望むところ」
よしよし、なんとか切り替えてメンタルを立て直したぞ。
俺は更に話題を変える。
「じゃあ、あっちの露天に売ってる武器ってどう思う?」
「数打ちの粗悪品、こっちのクッションを買う方が有意義」
果たしてそうだろうか。いつの間にかアイリスが抱きしめていたのは、二匹の狐が刺繍されているクッション。
荷物としてちょっとかさ張る。アイリスはもう別のクッションを一つ持ってるし。
「わたしが使ってる、お父さんに貰った無地のクッションは、カケルにあげる」
お父さん泣くだろ。そんな事してまで買いたいなら二つとも使いなさい。
「いや、両方アイリスが使えば良いよ。片方は敷いて、片方は抱きしめとけ」
「素晴らしいアイデア。カケルの人生最高の瞬間」
「そんなに普段の俺しょうもないかな!?」
最高到達点が低すぎる。
「はぁ。じゃあほら、クッション抱きしめてこっちに視線くださーい」
街ブラの目的、写真撮影だ。
アイリスが少し面倒そうな顔をするが、それはそれであの二人は喜ぶだろうから、シャッターを切ってしまおう。
その後はアイスを食べるアイリスを撮り、剣を構えるアイリスを撮り、本を選ぶアイリスを撮り……町ぶらオフショットアイリスを撮影しまくった。
するとアイリスが、
「カケルも映る」
と言うので、二人での写真も撮る事にした。
場所は観光名所らしい展望台。町が一望できるその場所で、親切そうなおばちゃんに頼み撮影をしてもらう。
「ここを押せば良いのよね?」
「そうです。こっちで合図出すので、お願いします」
そう言ってアイリスの横に並ぶ。
「何かカッコいいポーズする」
アイリスさんからキラーパスだ。
「普通に嫌だからピースしない? 指を目潰しみたいにするやつ。日本じゃ定番だったんだよ」
十六にもなってカッコいいポーズは恥ずかしいぜ。
「うん、それで良い」
そうと決まれば話は終わりだ。
「おっけーです! 3、2、1!」
カシャリと音を立ててフラッシュが焚かれる。
隣のアイギスが無表情ダブルピースをキメているのが見えたが、無視だ。
俺はおばちゃんの所へ駆け寄り、お礼を言ってカメラを受け取った。
「ありがとうございましたー」
「いいのよ、仲良くね」
他人に優しいおばちゃん、かくありたい。
アイリスの元へ戻って、しばらく景色を眺めていると、世界が夕焼けの色に染まり、美しい陰影を作り出した。
「今日は結構色々回れたなー」
初めての異世界観光、凄い良かったわ。ブラウンに戻ったらアイリスに案内して貰って、観光しよう。
「やっぱり冒険は楽しい」
物語を読んで冒険者を目指した彼女にとっては、町の観光なんかも冒険の内なのだろう。良いよね、そういうの。
「そうだな! これからも沢山冒険しないとな!」
「うん、世界中を回る」
そんな会話のあとは、夕陽が見えなくなるまで町の景色を目に焼き付けていた。




