2日目2 冒険者に学ぶ
冒険者ギルド周辺にある雑貨屋や食料品店などを、物価の勉強がてら冷やかしていると、広場にある時計の針が一時半を指し示していた。
「そろそろギルドに戻るか」
世の中何が起こるかわからないので、早めに移動しておく方が良いだろう。
ギルドに入ると受付に居るカインさんが、対面に座る屈強な肉体をしたスキンヘッドの男性と話しながら、こちらを手招きした。
「古昌さま、こちらが今回の講習を担当されます、Cランク冒険者のテリー・マクダナルさんです」
「おう、お前が十六歳でレベル1の冒険者か? 初めてみたぜ。よろしくな」
ドウェイン・ジョ◯ソンもかくやと、大変強そうな印象を受けるテリーさん。見た目は少し怖そうだが、気さくな人みたいだ。
「昨日冒険者登録をした古昌カケルです。こちらこそよろしくお願いします」
ちなみに俺のランクはFである。目指せSランク魔法使い!
「しかしお前、その格好で講習を受けるのか?あまり動きやすそうには見えないが」
うっ、確かに講習とはいえ冒険者のモノだ。体を動かして学ぶこともありそうだが、ブレザーやワイシャツでは身動き取りづらいだろう。
しかし俺は、この服しか持っていないのだ!
「やっぱ良く無いですかね? これ以外の服を持っていないんですが……お金も余裕ありませんし」
正直困っています。
「それでしたら、ギルドから新人冒険者向けの初心者セットを、分割払いで購入出来るサービスがあります。ご利用されてみては如何ですか? 革鎧や衣類などもついてるセットがございますよ」
凄すぎるよ冒険者ギルド!
俺はご厚意に甘えて、無事ギルドに分割払いという名の借金をすることになった。
この初心者セット、合計で70000ラウする。
荷物を入れる背嚢、ショートソードや革鎧、小手や冒険の必需品である、消耗品セットがついている事を考えると、かなりの破格みたいだ。
一度しか購入は出来ないらしいので大事に使おう。
「これを売って儲けようとする人とか出ないんでしょうか」
冒険者ギルドの経営が心配になって聞いてみたが、ギルド登録した時に受けた質問にある、
『権利を利用して不当な利益を上げようとしていないか』
で、九分九厘弾けるらしい。
確実じゃ無いのは、それを心から不当な利益だと感じてない人が居るからみたい。悪を自覚していない邪悪! 恐ろしい子。
そういった人材は人材で使い道があると話すテリーさんも怖いぜ。カインさんも苦笑いで否定しないが。
「よし。そろそろ時間だ。まずは二階の第三会議室に行くぞ」
そう告げられ、俺はテリーさんの後ろをついて行く事にした。
「カインさん、有難うございました。では失礼します」
「いえいえ、頑張ってくださいね」
カインさんと別れた俺は、テリーさんの後方に引っ付きつつ、適当に気になった事を聞いてみる。
「会議室って結構あるんですね」
「あぁ、人が集まると、話し合う事などいくらでもあるからな」
と、テリーさんは語る。流石Cランク冒険者、酸いも甘いも経験しているのだろう。
「話し合いで収まっているうちは良いが、議論が紛糾して刃傷沙汰になった例もある。誰かとパーティーを組む気があるなら、気をつけろよ」
色々とな、と言われて少しビビってしまった。
俺はこの世界で、気の置ける仲間と出会えるだろうか? クラスで友達だったドルオタの御手洗君は、大丈夫だろうか。女子にセクハラをキメて嫌われて無いかな。時代に合わない人間性、心配だ。
そんなどうしようも無い事を考えていると会議室の前に到着した。
「入るぞ」
テリーさんが引き戸のドアを開ける。
「おし、来ているな」
続いて入ると、四人の若者が座っているのが目に入る。見た感じだと中学生から高校一年生くらいといったところか。俺が最年長かな?
三人は男の子で、目を輝かせてテリーさんを見ている。憧れの冒険者なのかもね。
残りの一人はなんと、エルフの女の子っぽい! 肩まで伸びたプラチナブロンドの髪、ツンと尖った耳、綺麗な柳眉に長いまつ毛、眠そうな碧眼、整った鼻筋にピンクの唇、背負った弓に緑色の服。これはもう、エルフさんに違いない!
鑑定にもエルフっぽいと出てる! なんやねん。
「ほら、早く席につけ」
少しばかり興奮していた俺は、テリーさんの言葉で我に帰り、空いている隅っこの席へ腰を下ろした。
「さて、俺は今回講師を務めるテリーだ。ギルドで決められている注意事項やルールなどは、登録時に受付で聞いているだろう」
朗々と語り始めるテリーさん。
「今から俺が教えるのは、生き残る為に必要な考え方と、持ち歩くべき道具やその使い方、野営で気をつけるべきことに飲食の管理手段、そして魔物の解体技術だ」
成程。六時間ほどの講習の中で、必要最低限の知識を植え付けてくれる感じか。食や眠る場所の確保は、生きて行く上で必須事項だ。
魔物を解体して金銭の確保をしないと生活が回らないし、それに加えて命を守るために出来る工夫や心得を教えてくれるのだろう。
「最初の三時間は座学になるが、退屈だからと聞き流さないように、命に関わる事だからな」
「「「はい!」」」
おお、少年達のいい返事だ。
俺も真剣に聞くぞ。死にたく無いし、大怪我もしたく無い。そしてお金を稼がないといけないからな!
「では今から小冊子を配る、まず一ページ目を――」
こうしてテリーさんによる授業が始まった。俺はちょっとだけエルフさんに気を取られつつも、必要な知識を頭へ叩き込んでいった。