27日目1 討伐依頼
アルスヴァルト二日目。
絶品の朝食に舌鼓をうち、身支度を整えて宿を出る。
とりあえず一週間分の部屋をとったので、財布は少し軽くなった。
一泊二食付きで13000ラウ、一週間纏めて部屋を取ると、値引きがされて80000ラウになる。駆け出し冒険者には痛い出発だが、食事が美味し過ぎるので後悔はない。
「俺はギルド職員さんに話を聞くから、資料室で調べ物を任せて良いか?」
「わかった。話を聞き終わったらくると良い」
「おっけー」
そんな話をして、宿の真正面にあるギルドへ入る。
ギルド内は人でごった返していて、張り詰めた緊張感があった。一部からは怒号すら聞こえて来る。
「なんでEランクの平原ダンジョンに、あんな化け物が出てくるんだ!」
「あんな巨大なビッグボアやフェロウシャスブルは見たことが無いぞ!」
その言葉に嫌な予感がした。似た状況に覚えがある。森林ダンジョンと同じことが、また起きたのか?
「ですから! 現在調査中です! 明確な回答をギルドは持ち合わせていません! 皆さん、ダンジョンへは近づかないようにお願いします!」
ベテランと思われる職員さんの一人が、大きな声で現状の共有と注意喚起をする。
「俺たちが見たのは多分、プラートゥムティラノスだぞ? クロウさん達は今どこに居る?」
「Bランクの皆さんは、ゴブリンキング討伐へ出ていて町に居ません。とにかく落ち着いて、冷静な判断をお願いします!」
切羽詰まった雰囲気だ。
「なぁアイリス、プラートゥムティラノスってどんな魔物?」
「魔物も積極的に襲う恐竜。魔石を喰らって強くなっていく」
「生態が恐ろし過ぎる。関わりたく無い」
共演NGだ。アイリスさん、がっかりしない!
「個体によってはサイクロプスより強くなる。オススメ」
「オススメ何!? 絶対嫌だよ!」
「しょんぼり」
しょんぼりしてもダメなものはダメ! 落ち込んだフリしてチラチラ見て来ない!
「仕方ない。けどダンジョンに入らないと目的が達成出来ない」
この町に来たのはダンジョンを攻略するためだ。仕方ないから次の町へ行くか?
ウンウンと悩んでいると、隙を見せた俺が悪いのか、思いもよらない声が上がった。
「【イーリアス】! お前達ならBランクの魔物くらい、どうにかなるんじゃ無いか!?」
大声で叫んだのは、同じ隊商を護衛していた冒険者の一人。名前は覚えていないが、20レベルくらいの剣士だったはずだ。
しかし、なんてことをバカデカい声で叫びやがる。ギルド内がピシャリと静かになった上、めっちゃ注目されてるじゃねーか!!
「多分倒せる」
素直! アイリスさんてば本当に素直な良い子ね!
「ギルド職員さん! そいつらが今回のゴブリンキングを倒したパーティーだ。話を聞く価値はあると思うぜ!」
思うぜじゃねーよ。話すことなどない! そんなこと言える雰囲気でも、もう無い! ぐぬぬぬぬ。
「それは本当ですか? 詳しい話をお聞きしたいので、会議室の方まで来ていただきたいのですが」
もうだめだ、お終いだ。また命懸けの戦いをすることになるんだ。
「わかった」
「――分かりました」
俺は観念して先導する職員の背中を追い、会議室へ向かう。
案内された部屋の席に着いて待つ事一分、杖をついた白髪のお爺さんが入ってきた。
「呼び出してすまんのう。ワシは冒険者ギルド、アルスヴァルト支部のマスターを務める、テッド•リフトじゃ。気軽にテッドちゃんと呼んでくれて良いぞ」
呼べない呼べない。目上すぎる上に支部のマスターなんて。
「わたしはアイリス、よろしく。テッドちゃん」
「アイリスさん! 小粋なジョークだから! 本当に呼ぶやつでは無いから! あ、自分は古昌カケルです」
テッドさんも隙を見せないでくれ。この子はすぐボケて来るぞ。
「ふぉっふぉっふぉ、面白い子じゃ。さて、挨拶も済んだ事だ。本題に入ろう。アレを倒せるというのは本当かのう?」
一転して鋭い眼光でアイリスを見つめるテッドさん。役者だなぁ。
「サイクロプス、プラントドラゴン、ゴブリンキングは倒してきた。プラートゥムティラノスが異常な成長をしてない限りは、撃破可能」
「ふむ……」
悩ましそうなテッドさん。何か不安材料でもあるのか?
「今回現れたプラートゥムティラノスは、通常よりサイズが小さくてのう。特殊個体だと思われるんじゃ」
「特殊個体?」
突然変異種みたいなやつか。
「そうじゃ。通常の大きさであったなら、ダンジョンを出ることは出来ん。入り口の方が小さいからのう。しかし今回は……」
「もしかして、外に?」
最悪じゃないか? Bランクの魔物がダンジョンの外を徘徊しているのか。
「そうじゃ。しかも間が悪い事に、ゴブリンの大量発生があったじゃろ? あれを大分喰らったようでの」
悪い事は本当に重なるなぁ。
「町の代官には昨夜報告して騎士を警戒に回してはおるが、Bランクの特殊個体、対処は厳しい。Cランク以下の冒険者では、殺されに行くようなものじゃ」
戦力不足が解消されない限り、八方塞がりだ。
「狼煙をあげるなりして、Bランクの冒険者を呼び戻せませんか?」
「昨日から試しておるが、応答もなければ帰還報告もないのじゃよ」
まじかよ。無事だと良いけど。
「Eランクダンジョン一つしか無い関係上、この町所属のBランクパーティーは二つのみじゃ。彼らが戻らん以上は、持てる戦力で抗うしか無い」
ふむ。町の中に引きこもって、Bランクの冒険者が帰るのを待つのも手じゃ無いか? いや、
「プラートゥムティラノスを放置すれば、手が付けられなくなる恐れがある。他の町からやってくる人々が襲われる可能性もある。やるしか無い……か」
「うん。そう思う」
「やってくれるかのう? 依頼という形で、成功報酬も弾ませて貰うぞ」
「えぇ、期待してます。Cランク冒険者達の力も借りますよ?」
「集めさせよう」
やると決めたら、情報収集だ。
「テッドさん。ダンジョンから町へ肉の供給が減っていると聞いたんですが、理由はコイツですか?」
「昨日今日ならそうじゃが、それより前ならゴブリンの対処に冒険者を回していたからじゃ」
ていう事は、長い期間ダンジョン内で魔物を喰いまくって、めちゃくちゃ強いなんて事はないかな?
「発見されたのは昨日なんですね?」
「そうじゃ。昨日の二十一時頃、ダンジョン内で見つかり報告が入った」
俺たちが宿へ移動した後か。
「斥候を派遣したところ、ダンジョンから外に出たのを目撃したようじゃ。それからは追跡と隠密スキル持ちが、距離をとって監視しておる」
現在地はわかるのか、ありがたい。有利な状況に誘い込めれば勝率はぐっと上がるだろう。
「プラートゥムティラノスの弱点って――」
その後も情報を聞き出して、作戦を練る。
忙しく動き回っているとあっという間に時は進み、夜を迎えた。




