22日目〜23日目3 圧倒
ゴブリンキングを目指して走り出した俺たちの前に、哨戒中のゴブリンウォーリアーが立ちはだかる。
俺たちは、無視して突破するのが不可能な敵だけを倒して、最短距離を最速で走り抜けて行く。
「ファイヤーアロー!」
進路上のゴブリンを倒すも、穴を埋める様に新手が現れる。
「やっぱり多いな!」
「仕方ない、覚悟の上」
そりゃそうだけど、な!
腰を落として刀を振い、襲いかかってきたゴブリンを、一刀で切り伏せる。
後どれくらいだ?
「二百メートルも無い。すぐ着く」
よし、そんくらいなら何とかなるか。
「サンドストーム!!」
「MP大丈夫?」
平気だ。MP回復力向上はスキルレベル1だから回復力は10%しか上がってない。けどその分、節約して来たからな!
「なら頑張りどき」
だな!
俺たちはサンドストームで空いた穴を全力で駆け、襲いかかるゴブリンウォーリアーを薙ぎ払う。
それから程なくして、ゴブリンキングが待ち受ける場所へ到着した。
森の中、木の生えていない開けた土地には、異様な光景が広がっている。
「なあ、ゴブリンジェネラルってこんなに居るモノなのか?」
目の前に100を超えるゴブリンジェネラルが、武器を構えてこちらを睨みつけている。
「――ゴブリンウォーリアー、百体につき一体の割合のはず」
今まで倒した数を合わせると、110体以上居た事になる。
「ウォーリアーは最低一万一千体居たって事?」
「そうなる」
わお、両国国技館のキャパがそんくらいのはずなんだけど、もう相撲で決着つけないか? うちはルーカスさんを出すよ。
「スモウ、タカシの本に載ってたやつ? 後で詳しく教えて。今は戦闘」
すまん。現実逃避してたわ。
これ、デカい魔法撃たないと無理じゃ無い?
「テンペストを撃つ、時間稼ぎよろしく」
アイリスが指揮棒のような杖を取り出し、魔力制御に集中する。
「あいよ! フラッシュ!」
まだ夜は明けてない。暗い中でのフラッシュは良く効くことだろう。
案の定、目を抑えて悶えているゴブリンジェネラルの集団に、今日何度目かもわからない中級魔法を打ち込む。
「サンドストーム!」
通常の倍以上魔力を込めたその魔法は、致命傷には至らないが、それなりのダメージを与えた。
「ぐおおおお!」「があああああ!」
体表に多くの裂傷を負ったジェネラル達。だが俺の後ろで完成しようとしている魔法のヤバさに気付いたのだろう。阻止するために動き始めた。
「アースウォール! ハードニング! ファイヤーウォール!!」
残存魔力を躊躇いなく消費して、時間を稼ぐため魔法で壁を作り出す。
「こういう時くらいは役に立たないと、ついて来た意味無いんだよ! ストーンパイク!」
ウォール系の魔法を突破したきたジェネラルに、地面から生えた石の槍が突き刺さる。
それでも迫る敵に、刀を抜いて応戦した。
「はああああ!」
一文字に振り抜いた刃は、ジェネラルの胴体を切り裂き、血の海に沈める。
「ふッ、おおおお!」
正面から迫る次の敵に、刀を突き刺した。しかし、
「やっば!」
深く突き刺しすぎて、引き抜くのに時間を取られる。やっとの思いで抜き切った時には、三体のジェネラルが迫っていた。
「ダークシールド!」
間一髪で間に合った盾は、数秒の均衡を作り出した。だが大剣を叩きつけられ破壊される。
しかしそんな事は関係ない。なぜなら、
「――テンペスト!」
アイリスの魔法が放たれたからだ。
俺が見るのは三度目になる上級魔法、その威力はDランクのゴブリンジェネラルではひとたまりもない。
まさに鎧袖一触。魔法の効果範囲に居たゴブリンジェネラル達は屍を残すことすら許されず、跡形もなく消え去っていた。
「流石! ほらMPハイポーション!」
魔法袋から取り出したそれをアイリスに渡しつつ、自分も使用する。過去のトラウマが俺を賢くしているぜ。
警戒を緩めず周囲に目を向けると、大剣を地面に突き刺して佇む、体長二メートル程のゴブリン種が目に入った。
「奥にいるデカいのが、ゴブリンキングか?」
ゴブリンは小さいのが特徴じゃないのか。二メートルって、自動販売機よりも高いぞ?
「うん、通常の個体より少し大きい。倒してくる」
言うや否や、ワールウィンドを身に纏い飛び出すアイリス。
俺がこの勝負に手を出すのは不可能だろう。それよりも、先ほどの騒ぎで集まって来たゴブリン達と戦うとしようか。
「挑発系のスキルは必須かもな、ファイヤーウォール!」
暗闇の中、目立つ火の魔法で、ゴブリン達の注目を集める。
「アースウォール」
俺は立ち位置をアースウォールに背を向ける形にして、死角をなくす。
そして敵を引き寄せる為に派手な魔法を連射した。
「ライト! ファイヤーボール! ファイヤーアロー! イグニッション!」
ある程度は目論見通りにいっているが、それでもアイリスの方へ向かうゴブリンも多い。キングが魔力のパスを繋いで呼び寄せてるのかもな。
「アースウォール! ファイヤーウォール!」
壁を立てて一度に戦う数を絞り、戦っているゴブリンを敢えて倒しきらず、膠着状態を作り出す。
こちらの戦闘は油断しなければ大丈夫そうだ。
チラッとアイリスの様子を伺うと、既にゴブリンキングはボロボロになっており、みるからに圧倒していた。
アイリスさん、サイクロプスと戦った時より強くなってないか?
「グオオオオオ!」
ゴブリンキングの咆吼からは、焦りと怒りが滲み出ている。攻撃はかなりの大振りで、あれでは何度振っても命中する事はないだろう。
「アイススピア」
氷の槍が大腿部へ深々と突き刺さり、
「フレイムバースト」
炎の爆発が左腕を吹き飛ばす。
「ガウアアア!」
それでも反撃に出ようと、残った右腕で大剣を振るうが、
「ウィンドシールド」
風の盾に受け流された。
大剣を薙いだ勢いをそのまま受け流された事で、バランスを崩す。左手をついて体を支えようとするも、そこにはもう腕が無かった。
二メートルの巨体が、なす術なく地面に倒れる。
「グガアアアアア」
なおも足掻き、立ち上がろうとするゴブリンキングへ、アイリスは止めの一撃を放つ。
「フレイムランス」
打ち出された焔の槍が、巨大な王の心臓を撃ち抜いた。
「グオ……オオ……」
完勝だ。単体での戦闘力は低い方とはいえ、Bランクの魔物相手に何もさせていない。
ゴブリンキングが倒された事でゴブリン達に動揺が広がる。行動を指示していた魔力のパスが無くなり困惑しているようだ。
アイリスは心臓から飛び出た魔石を拾うと、俺の居る場所まで戻ってきた。
「勝利」
心なしかドヤ顔だ。
「ナイスだアイリス! ゴブリン達が動揺してる間に、野営地まで戻ろう!」
「そうする」
目的を果たした俺たちは、この場所へ来た時と同様に接敵を避けて、野営地まで戻って行った。




