22日目〜23日目2 突破
北の防壁に到着した俺たちは、防壁の外に出るために魔法を唱えた。
「サンドストーム!」
やはりEランクの魔物に中級魔法は致命傷のようで、多くのゴブリンウォーリアーが骸に変わる。
「ワールウィンド」
サンドストームによって出来た穴に、風を纏ったアイリスが飛び込む。俺も遅れないよう、慌てて飛び出した。
「この距離なら気配察知で分かる」
疾風の如きスピードで、ゴブリンジェネラルに迫るアイリス。阻まんと立ち塞がるウォーリアー達も軽やかに躱し、ゴブリンジェネラルをダガーの一撃で葬り去った。
もうアイリス一人でいいんじゃ無いかな。
そんな思考に慌てて頭を振り、自分の役割に集中する。と言っても俺の仕事は、退路の確保といざって時のヘルプ要因だ。
近寄ってくるゴブリンウォーリアーを切り捨てつつ、ファイヤーウォールで牽制をして、安全地帯を確保する。
「あとひとつ」
アイリスが二体目のゴブリンジェネラルを倒し、三体目に向けて疾走した。やはり一体倒すごとにゴブリンウォーリアーが弱体化している。
「はぁっ!」
北側三体目となるゴブリンジェネラルの心臓に、スティレットが突き刺さる。
アイリスは止まることなく、そのままの勢いで俺の居る場所まで戻ってきた。
「北は終わり?」
「とりあえずはな。一度まっすぐ陣に戻って、東側へ行こう」
「うん、わかった」
その後、二度同じ作業をこなすと、各方面で長槍を持った商人達が、壁の内側からウォーリアーを突き始めた。嫌々やってる人もいれば、レベル上げの機会だと前向きな人もいる。
「次はどうする?」
「待機かな。そろそろニーナから連絡が来ると思うんだが」
《コショウさん、聞こえますか?》
《聞こえてるよ。丁度良いタイミングだ》
《ガゼルさんとフクちゃん曰く、西南西からジェネラルが送り込まれています。10キロ程いくと、ジェネラルの一団がいるそうです》
《さんきゅ、他にも居ないか引き続き探してくれ》
《了解しました。ご武運を》
通信が切れ、アイリスと相談をする。
「ジェネラルが集まってるなら、多分そこにキングもいる」
「んー、ウォーリアーの壁を越えてキングの元まで行くのは、厳しいよな?」
「いけない事もない」
「マジで?」
寡兵よく大軍を破るなんてのは、こと地球においては奇襲か籠城がセオリーだ。
ここは魔法の世界で、全く同じセオリーが通用する訳ではないが、的外れにもならないだろう。
「ジェネラルを倒す時に確認した。北東側は手薄。一点突破した後、大きく回って背後を突く。場所さえ正確に分かるなら、出来ないことはない」
奇襲とゴリ押しのハイブリッドだ。いける気がしてきた。
「よし、ルーカスさんに相談しよう。一部の商人達に俺たちだけ逃げると勘違いされると反対されちまうから、内緒でな」
多分、ヒステリックを起こしてる人間からすると、自分以外が逃げられる状況を作り出すだけで、発狂モノだろう。
「うん、行く」
俺たちは再びルーカスさんの元を訪ねる。
「おう、お前達か。ジェネラルを倒してくれたお陰で圧力も下がって大分楽になった。例を言うぜ」
「はい、その件でもう一つ相談があるんですけど」
小声でルーカスさんに、俺たちの作戦を説明する。
「ふむ。お前達が抜けるとかなり痛手だが、ゴブリンキングを倒せるなら利益の方が大きいか?」
キングを倒せば、一番上から指示を出す個体が居なくなり、指揮系統はそれぞれのジェネラルに割れる。攻め手の綻びが増えると思われ、悪い事は無い。
「わかった。しかしあまり長時間居なくなられると、士気に関わる。お前らの次の休憩時間に併せて、出来るだけ静かに出てくれるか?」
俺たちの休憩時間は一時間後だ。静かに出発するのは配慮だろうな。
「ええ。バレたら発狂しそうな人たち、居ましたもんね」
「すまねぇな。本来は比較的安全な交易路なんだ。耐性の無い奴も多い」
「仕方ないですよ。俺も逆の立場なら、パニックを起こしてたかもしれませんし」
本当にそう思う。心のどこかで、自分たちだけなら逃げ切れると思ってるから正常で居られるんだよ。多分ね。
「出発のタイミングは西側の森に火をかけた時に併せてくれ。攻撃の圧力も下がるだろうし、視線も反らせるだろう」
商人達は勿論、ゴブリンにも出来れば注目されたく無い。
良いアイデアだと思う。
「分かりました。西側は中級魔法を使えるカリスタに任せてください。それでは、一時間後に」
「ルーカスも頑張る」
「おう。キングの首、取ってきてくれよ」
挨拶を済ませ戦場に戻る。俺たちは出来るだけ魔力を温存するため、魔法を使わずゴブリン達と戦った。
一時間みっちりと防衛をこなし、休憩へ行くふりをして陣地の北東へ向かう。冒険者に事情を説明しながら待機していると、その時が来た。
「おい、なんだあれは、火事か?」
「いや、火計らしいぞ」
「火の手が上がった」
「よし、行こう」
こそこそと話し、忍足を発動させて防壁の外に出る。幸い商人たちは火の手に目を奪われて、見咎められる事は無かった。
「サンドストーム!」
「ファイヤーストーム」
派手に魔法を放ち、ゴブリンの軍団に風穴を開ける。魔物達が動揺した隙をついて、割れた群れの間を全力で駆け抜けた。
そして周りから魔物の気配が消えた頃、アイリスから声がかかった。
「ここから南東に少し行った後、3キロほど南下してそこからは西に進む。ゴブリンとの接敵は出来るだけ回避」
「了解」
俺はゴクリと息を飲み、走り出したアイリスについて行く。
――そして、出発から一時間。
俺たちは最低限の接敵で、ゴブリンキングが居ると思われる場所の1キロ手前まで辿り着き、身を潜めて居た。
「ここから先は、接敵を避けられない」
「魔物が夜警してるとはな……」
そんな社会性があるなら、人間と共存してくれよ。
「蟻だって蜂だって社会性はある。共存できるかは別問題」
まぁ確かに。
今は思考を読めるように、遮断魔法陣を切った状態だ。これのお陰でいい感じに隠密行動が出来た。前行くアイリスが俺の思考を読みつつ、ハンドサインで指示してくれたのだ。
「……後を走りながらわたしの二の腕を見て、良い眺めだって」
「思ってねえよ! てか何で二の腕なんだよ! 俺の思考を捏造するな!」
冤罪だよ。本当だよ? そんなにマニアックじゃ無いよ。
「うん。本当はハンドサインの意味がわからないって、ずっと考えてた」
「ごめんじゃん。だって冒険者のハンドサインなんて知らないんだもの」
指示は出してくれていたが、意味が理解できないので、黙ってついて行ってた。真相はそういうことだ。
「ふざけてちゃダメ、真面目な話。ここを抜ける方法、アイデアはある?」
俺のせいでは無いと思うが。
しかしここまで来たら、ゴリ押ししかなく無いか? 1キロなら全力疾走じゃなくても三分くらいで辿り着ける。異世界に来てステータスを得た事で、健脚を手に入れたのだ。
「そう。じゃあ、少し休憩したら出発」
了解。
脳内で返事をしつつ、腰を下ろして飲み物を取り出した。
これから奴らの拠点に挑む。そう思うと少し緊張するが、隣でオニギリをもぐもぐ食べ始めたアイリスを見ると、なんとでもなりそうな気もしてくる。大物だなぁ。
それから十分後、俺たちは目標に向け動き出した。




