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22日目〜23日目1 包囲

「そっち! 壁を乗り越えようとしているぞ! 一匹たりとも通すな! そこの商人! 暇なら魔法を撃て!」


「くそっ、なんで俺が……」


 ルーカスさんが大きな声で指示を出して、商人が悪態を吐く。俺は中央付近にあるテントで横になり、魔法書を読みながらソレを聞いていた。


 六時間前から始まったゴブリン達との戦闘は、苛烈を極めている。陣地は四方を完全に包囲され、逃走経路は存在しない。時間が経つにつれて、傷を負う者も増えてきた。


 そんな中で俺は、商人が持っていた魔法書を購入させてもらい、習得している最中だ。

 買った魔法書は三つ。忍び足、土属性の中級基礎魔法、そしてMP回復力向上である。


 忍び足はその名の通り、足音が小さくなるスキル。MP消費無しで使える優れものだ。


 土属性の中級基礎で習得できるのは、地面から槍が突き出るストーンパイク、砂嵐を起こすサンドストーム、物質を硬化させるハードニングの三種類。


 長期戦になるとアースウォールの強度が心配なので、これからハードニングを使い補強して回る予定だ。


 最後のMP回復力向上は、そのまんまの効果だな。戦いが長引くほど価値が高くなるスキルだ。


 アポロさんから貰った物理耐性スキルを含む四つを習得して一息つくと、現在の状況に目を向ける。


「冒険者は総勢五十九人。六時間でこの疲弊具合じゃ、二日持たせるのはかなり厳しい。やっぱり商人も育てて働いて貰わないと駄目か」


 武器を持たせて戦わせるかなーと考えつつ、マジックバッグから干し肉を取り出して、テントを出る。


 防壁にハードニングの魔法をかけ、時に味方の援護をしながら、冒険者に声をかけていく。


「調子はどうだ?」


「悪く無いが、終わりが見えないのがきつい。後、そろそろゴブリンの死体をどけないと、積み重なって壁を超えやすくなるかも」


「流石に死体じゃ足場が悪いだろう。だが防壁と、内側に沿った地面を高くして対応予定だ」


 主に商人が。百人近くも居るんだ、しっかり働かせたい。


「そうか。――なあこれ、救援まで持つと思うか?」


 若い冒険者が不安そうに聞いてくる。正直俺も不安だが、素直に吐露する訳にもいかない。ここは出来るだけ明るく声をかけよう。


「なに、防壁は今みたいに強化しているし、商人達にも戦わせる。他にも色々作戦を考えてるから、心配するな」


 欺瞞だ。自分の心すら騙せてない。アイリスと出会う前の俺なら錯乱しててもおかしく無いが、歯を食いしばって、やるべき事をやる。


「そうか、そうだな! 今回は勝手に持ち場を離れない様にやらせてもらうよ」


「ははは、その意気だ」


 少しは持ち直したようだ。俺はその場を離れ、静かに溜め息を吐いた。


 テントや馬車が密集している中央付近に戻ると、そこには厳しい状況に絶望した三人の商人が、ブラウンへ引き返さない事を選択した商人達を罵っていた。


「何故! ゴブリンキングがいると分かっていて! 何故引き返さなかったんだ!?」


「そうだそうだ! 死んだら責任がとれるのか!?」

「生まれたばかりの子供が居るんだぞ!!」


 言われた商人達は気まづそうに目を逸らしている。


 ご尤もな意見だが、罵ったところで状況は変わらない。諌めるために動こうとした時、


「カケル、そろそろ交代の時間」


 アイリスから声がかかる。どうやら迎えにきてくれたらしい。商人達はもう放っておくか。


「あいよ。次は俺たちが西側だったか?」


「そう。今回はワールウィンドを使って外に出てみようと思う」


 ワールウィンドは、風を身に纏いスピードと防御力を上げる風の中級魔法だ。【フロースセア】のライアから、助けたお礼に貰ったやつだな。


「であるか。ならば習得した中級魔法で、ゴブリンの群れに風穴を開けてくれようぞ」


「変な話し方。魔法は楽しみ」


 期待に答えねばなるまいて。

 少しでも心に余裕を作るため、戯れながら戦場へ戻る。

 西側の防壁に到着すると、先に戦っていた冒険者たちがホッとした表情を見せた。


「交代の時間だ! ゆっくり体を休めてくれ!」


 俺はそう声をかけると、この戦いの行く末に希望を持ってもらうため、見せつける様に魔法を発動した。


「サンドストーム!!」


 発生した砂嵐は、小さな砂の刃となってゴブリン達に牙を向く。十数秒ほど経った後には、ズタズタに引き裂かれたゴブリンウォーリアーの屍で埋め尽くされていた。


「「「おおお!」」」


 ふっ。魔法で無双計画がこんなところで叶ってしまうとは、自分の事ながら驚きだぜ。士気も少しは上がっただろう。


「良い威力。じゃあちょっと出てくる。ワールウィンド」


 返事も聞かずに飛び出していくアイリス。目にも止まらぬスピードでダガーとスティレットを振り回し、ゴブリン達を蹂躙していく。


 そこにはゴブリンジェネラルも等しく含まれていた。

 戦場を俯瞰で見ていると、ジェネラルが倒された直後から、ウォーリアー達の動きが少し悪い様に見えた。


「なあ、ちょっと良いか?」


 俺は近くにいた冒険者を捕まえて声をかける。


「なんだ?」


「ゴブリンジェネラルを倒した後のウォーリアーの動き、違和感ないか?」


「あぁ、まあ指揮官が居なくなれば、動揺して動きも悪くなるんじゃないか?」


 いや、人ならその通りだけど、本能が強い魔物なら気にせず戦うんじゃ無いのか? 気になるし、確認とるか。


「ちょっとルーカスさんのところに行ってくるわ。ここはしばらく大丈夫だろうから、休んでおいてくれ」


 そう言ってルーカスさんが指揮する東側へ向かう。とは言っても防壁の範囲はそこまで広く無い。数十秒でルーカスさんは捕まった。


「ルーカスさん!」

「ん? どうした? 西でなんかあったか?」


「いえ、防衛は順調です。それより――」


 俺は先ほど感じた違和感と疑問をルーカスさんに尋ねる。


「あぁ、理由は大別して二つある。一つは魔力のパスがゴブリンキングからジェネラルに、ジェネラルからウォーリアーに繋がっていて、指示を出しているからだ。それが切断されて混乱したんだろう。ただ直ぐに他のジェネラルがパスを通し直すはずだ」


 冒険者が言うように、動揺しただけか?


「もう一つは滅多に無いが、ジェネラルが味方への補助スキルを使う事がある。これは群ごとに個体差があって、相当でかい巣でも無い限り持ってない可能性の方が――まさかお前……」


「ええ、多分持ってますよ」


 ルーカスさんが、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 作戦を変えないと、耐え切れないかもしれない。


「ルーカスさん。暗いうちに俺とアイリスで、ジェネラルを狩って回ろうと思います。陣地の防衛任せて良いですかね?」


 ウォーリアーが弱体化すれば、商人達を本格的に戦力として使えるかもしれない。商人の積荷には長槍などの武器類も豊富だ。防壁を挟んでチクチクやっていただこう。


「――分かった。気をつけろよ」


「はい。鷹の目持ちのガゼルとテレパス持ちのニーナを少し借ります。あと頼みました」


 そう言ってルーカスさんと別れる。俺は中央テント近くの幌馬車へ向かい、屋根の上で弓を放つガゼルを見つけて声をかけた。


「ガゼル! 作戦変更だ!」

「ん? どうした?」

「ホウホウ?」


 不思議そうに首を捻るガゼルと、同じく小首を傾げるミミズクのフクちゃん。


「ゴブリンジェネラルを狩らなきゃいけなくなった。見える範囲で場所を教えてくれ。俺が居なくなった後に見つけたら、ニーナを通してテレパスで頼む」


「うん? まあ分かった。ジェネラルなら近いところで東と南北に三体ずつ見えるぞ。あそこと、あっちと……」

「ホウホウ!」

「あぁ、あそこもだったな」


 君、ふくちゃんの言葉解るの? すごい羨ましいんですけど。


 近くに居るジェネラルの場所を覚え、その場から立ち去る。

 西の防壁に戻ると、辺り一帯のゴブリンが殲滅されていた。


「流石アイリス、凄まじいな」

「うん、任せて欲しい」


 !?


 突然後ろから声かけないで! してやったりの顔もやめて!


「まぁ良いか。アイリス、二人でゴブリンジェネラル狩りしようぜ」

「いいよ」


 子供の遊ぶ約束くらいの軽さ。けど頼もしいね!


「目標の位置は聞いてきたから、とりあえず北から時計回りで行く。何があっても帰れる様に、魔力消費は半分までな?」


「了解」

「良し、行くぞ!」


 それから俺たちは、北の防壁へ向かった。

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