22日目2 防衛準備
護衛依頼二日目の夕方、宿泊予定の野営地に到着した俺たちはルーカスさんに呼び出され、会議用のテントへ赴いた。
中にはルーカスさんの他にキャラバンのリーダーであるシュリーマンさんが居て、何やら深刻な顔で話し合いをしていた。
「失礼します。ルーカスさん、どうしました?」
「来たな。まあ座れ」
「忙しい時にすまないね」
「いえいえ、仕事ですから」
勧められて席につくと、挨拶もそこそこに本題へ入った。本当に緊急事態のようだ。
「ここから南西へ7キロほど行った先に、大規模なゴブリンの集団を発見した。最低でも二千以上の規模で、こちらに向かって移動している」
そんな事だろうと思った。想定の範囲内だったので静かに頷くと、ルーカスさんは話を続ける。
「そこで聞きたいんだが、嬢ちゃん、俺より強いだろ? ゴブリンキングに勝てるか?」
「勝てる。けどキングが現れるまで、魔力を温存出来るかが問題」
サイクロプスやプラントドラゴンの方が、単体の魔物としては能力が高い。
しかしゴブリンの強みはその数だ。百や二百程度なら、アイリス一人でも容易に殲滅できるだろう。しかし二千や三千になると、厳しいと言わざるをえない。
「まぁそうだよな。しかし今から尻尾を巻いて逃げ出しても、徒歩の商人が居ては追いつかれる。この開けた野営地で迎え撃つしか無いんだが……」
「荷物を破棄して馬車に乗せては?」
普通に考えれば、これが一番賢いやり方だ。しかしアイリスが集めた情報を鑑みると……。
「殆どの商人たちにとって、積荷は命と同義だ。反対する者が多数を占めるだろう。最悪の場合、馬車持ちが自分たちだけで逃げ出す可能性がある」
て事らしいんですよ。日本で学生をやっていた俺としては、まるで理解出来ない感覚なのだが、ローリルではこれが現実だ。受け入れるしか無い。
「そういう訳で陣を構えて迎え撃つ事にした。お前達が担当した隊列後方の防衛は、評判が良かったからな。知恵を貸せ」
今回現れたオークキング率いる群れがどれ程の規模なのかは分からないが、逃げの選択肢が無い以上は戦うしかない。
「勝利条件は二日間耐え切る、もしくは相手を全滅させる、で合ってますか?」
目的がハッキリしないと、やるべき事は決まらない。
「そうだ。昨日救援要請を出したブラウンからの援軍は、到着まで三日かかる可能性もあるが」
「わかりました。ではまず防壁を建てて空堀を作りましょう。商人たちにも手伝わせてください。アイリス、確か積荷の中にシャベルあったよな? 深く無くていいから取り敢えず掘って貰ってくれ」
「分かった。土魔法を使える人にも声をかける」
アイリスはそう言うと、テントを出て行った。
「MPポーションの在庫を抱えてる人間に、使わせてもらえるよう交渉しておきましょう。それと着火剤と矢もお願いします」
「森を焼くのか?」
「はい。事前に延焼し難いように区画に分けて伐採します。時間が無いのでざっとですけど」
「まあ緊急事態だ。仕方ないか」
そう、仕方ないのだ。魔力が切れた時に時間を稼げないと詰むからな。
「ポーションは私が提供します。三日三晩戦っても持つ量がありますよ」
助かる。そもそもポーション類が無いなら、商人達を殴ってでも馬車で撤退しているところだが。
「それと、初級の魔法書を大量に抱えてる商人が居ましたよね? 商人たちへ読むように言っておいてください」
昨日の夜、アイリスが仕入れてくれた情報の一つだ。
「戦わせるのか?」
「百人近くいるのに、遊ばせていられないですよ。ゴブリンに包囲をされて逃走先が無くなれば、覚悟も決まるでしょう」
「俺はオーガのように怖いと言われる事がある。だがお前ほどじゃ無いな」
生き残らないと、怖がることもできないからね。
その後は防衛の担当時間を決めてローテーションを組んだりと、細かい調整をした。
「こんなもんか?」
「はい。それじゃあ頑張りましょう。こんなところで死にたくありません」
「俺もだよ。嫁と娘がいるんだ、絶対死ねない」
清々しいまでのフラグ、ここまでいくと逆に死なないレベルだ。
それからは迎撃準備の手伝いをして、一時間半ほど経った頃。
ゴブリンの大群が姿を現した。




