22日目1 二度目の襲撃
護衛任務二日目の朝、冷たい水で無理やり目を覚まして出発の準備をしている。
アイリスに集めてもらった情報を頭の中で纏め、朝ごはんを作っている時間もないので、エレクトラさんのお弁当を頂いた。まじで助かるぜ。
「眠くてもうまー」
「うん、美味」
それから一時間後、キャラバンは出発した。
今回の進行にあたってルーカスさんの許可を取り、パーティーの配置を少し変えさせて貰っている。
アースウォールを覚えていて、魔力の多い人員のいるパーティーを、ゴブリンが現れた西の森側に、等間隔で配置した。
弓が得意で眼の良い冒険者を幌付きの馬車の上へ上げて周囲を警戒してもらい、Int特化の後衛は臨機応変に対応できるよう、中央へ配置して、こちらの指示で動くことになっている。
「馬車の上にいるガゼルは三十レベルの弓使いで、鷹の目持ちだ。肩に乗ってるのはミミズクのフクちゃん。中央にいるカリスタは三十二レベルで中級の地魔法持ち、Int特化ステだ。キャラバン最高レベルの戦力で、レベルではあいつらが上澄になる」
「レベルでは?」
「そう、レベルでは。珍しいスキルを持ってる奴がいてな。ニーナって言うんだが、そいつはかなり役に立つと思うぞ」
まじでビビったね。基本的に売っていないし、稀に出るオークションで買ったら、十億ラウくらい平気でするらしいからな。
「どんなの?」
《こんなのです》
こいつ、直接脳内に!?
「――テレパス?」
「そう。レベルと魔力次第で数キロくらいの距離、どこにいても通信できる超便利スキルだ」
《未だレベルもMPも低いので、数百メートルがいい所ですけど。私がスキルを使っているうちは、伝えようとした言葉が私に聞こえるので、上手く使用してください》
「――わたしのより数段便利」
アイリスがどよーんと落ち込んでいる。
「ま、まぁ今回だけだし、便利に使わせてもらおうぜ?」
話題を切り替えるため、人員の説明を続ける。
「水属性中級魔法を使えるやつもいるし、他の奴らもEランクダンジョンを攻略した経験がある。皆それなりに戦えるはずだ」
ゴブリンウォーリアーはEランクの魔物、易々と遅れをとったりはしないだろう。
「多少の群れなら、どうにでもなりそう」
「だな」
正直言えば、多少の群れで済むと思っていない。これまでの経験がそう囁いているんだ。
嫌な予感を覚えながらも、隊列は進む。
それから数時間後、皆の緊張感が薄れてきたタイミングで、ニーナから念話が繋がった。
《コショウさん、ガゼルさんが森の奥に魔物の群れらしきものが見えるって》
《了解、ルーカスさんにも同じ報告をしてくれ》
念話を受けて指示を出す。
「敵発見の報告が入った! 森との境に土壁を建ててくれ!」
魔法使い達が指示に従い、アースウォールを唱えていく。
「商人の方は馬車の影へ!」
「くそ、またか。ついてない」
一部悪態を吐きながらも、隠れる商人達。
それから数分後、ゴブリンの第一陣が到着した。
「最初はゴブリン達を引き入れて、中級魔法で殲滅する!」
中級魔法の使い手達が、一歩前に出た。
「合図を出したら撃ってくれ!」
森の奥からゴブリンウォーリアー達が、群れになって迫ってくる。
「引きつけろ! 3、2、1、撃て!」
「サイクロン」
「サンドストーム!」
「アイシクルレイン!」
中級魔法の嵐が、ゴブリンの先頭集団を一掃する。
商人達が歓声をあげるが、ぬか喜びだ。
「まだまだ、沢山来る」
ですよね。
第二陣が来るまでにより守りを強固にするため、森の出口を土魔法ティルで耕し、大量のウォーターシャワーを降らせて泥濘を作った。
ファイヤーストームも使いやすくなり一石二鳥だ。
MPポーションを飲みつつ、防衛戦に向けて思索を巡らせる。
俺が想定しているのは、最悪中の最悪。ゴブリンキングが現れる事だ。
単純な戦闘力こそ今まで倒した強敵より劣るが、サイクロプスやプラントドラゴンとは違い、ゴブリン達を操り群れで戦う相手だ。
ゴブリンキングが現れるまで、アイリスはできるだけ温存しておく必要がある。
「今使える戦力で、できるだけ持たせないとな」
俺たちが守るこの隊商、馬車が二十二台もあるせいで戦列が長くなり、馬鹿みたいに守りずらい。
出来るだけ車間を詰めてもらい、道幅一杯横に並べて密集させよう。
ニーナを通じて方々に頼んで貰っている最中、第二陣のゴブリン達がやってきた。
「次は先程の三人以外で戦う! 前衛は突出せず、壁に張りつこうとする相手を倒してくれ。戦闘はまだまだ続くぞ! 魔力の配分は注意してくれよ!」
「「「おう!」」」
多くの若手冒険者たちは緊張をした様子だったが、戦闘になれば危なげなくゴブリンを処理している。
これなら問題なさそうだ。
その後一時間ほど続いた戦闘は、軽傷者こそ出たものの、大きな被害はなく乗り越える事が出来た。
「うん、とりあえず近くにはいなそう」
アイリスの報告と同時に、念話が入る。
《報告です。ガゼルさんが言うには、少なくとも数キロ先まで敵影は見えないそうです》
《分かった。ルーカスさんにも報告を頼む。お疲れ様》
《ふー、お疲れ様でした》
よし、とりあえずの襲撃は凌いだ。キングが未だに現れない事から安心は出来ないが、ひとまず喜んで良いだろう。ほっとしていると、ニーナから再度念話が入った。
《カケルさん、準備が出来次第、次の野営地に向かうそうです。後方の指示をお願いします》
《了解した》
「少なくとも数キロ先まで敵影が見えなくなった! お疲れ様だ! 荷物をまとめ、野営地へ向けて出発するぞ!」
「「「おう!」」」
みな疲れを感じさせず、きびきびと出発の準備をする。
しかしこの一時間は、人生で最も叫んでいたと思う。疲れたし喉が痛い。
横にいる相棒とのんびりしたいぜ。
「アイリス、お疲れ」
「カケル、お疲れ様。ヒール」
しゃがれた声に気づいたアイリスが、ヒールをかけてくれる。優しさが染み渡るでぇ。
「この壁って、壊した方がいいと思うか?」
森との境界に作られた防壁をみて、アイリスに相談する。
「魔力が抜けきれば強度が下がって自壊する。街道には影響無し。放置で平気」
「良かった。正直めちゃくちゃ面倒くさかった」
「面倒な事をやらないと、一流の冒険者になれない」
はい、すみません。
「今度から栗の渋皮は、カケルが剥く」
「凄く面倒な作業だよ。栄養もあるから食べよう?」
タンニンが豊富らしいぞ。
「桃の皮もカケルが頑張る」
「美味しいけど手がベトベトになるのが嫌だよな」
モモ唯一の欠点だと思う。
「これでカケルも一皮剥ける」
「上手いこと言うな」
もはやこのペースの会話、実家のような安心感がある。戦闘で殺伐とした気持ちが和むわー。
その後は散発的な魔物の襲撃はあれどキャラバンは順調に進み、次の野営地へ辿り着いた。




