21日目3 抜擢
野営地に着いた俺たちは、割り当てられた場所でテントを張った。冒険者は森に沿って配置されている。
二人旅なら一つのテントを使い回すところだが、今回は二張り組み立てた。テントは人の視線を遮るように配置している。
「トイレはアースウォールで三方向で囲って、ちょっと間を開けた場所にもう一つ壁を作る。そこに簡易トイレを置いて完成」
公園にある公衆トイレの入り口みたいだな。
「次はお湯を炊く」
着火剤にイグニッションで火をつけ、石で囲われた薪に燃え移らせる。そして鍋にクリエイトウォーターで水を入れ、火にかけた。
「虫除けも炊いておく」
火の中に固められた虫除け剤を放り込む。
魔物避けはキャラバンの人たちがガンガンに炊いているので大丈夫そうだ。
「後は周りから見え難いように低いアースウォールを張って、出来上がり」
すごい、地面に座るとキャンプ地が視界から見えなくなって、とても落ち着く。
「めっちゃ快適空間じゃん」
「ふふん、もっと過ごし易く出来る。けどこれ以上本格的にすると人目につきやすい」
「へー、それは気になるな」
「護衛依頼じゃない時に披露する」
「楽しみにしてるよ」
結構マジで楽しみだ。秘密基地作りみたいでワクワクする。
「じゃあご飯にする」
「あいよ」
マジックバッグから弁当を取り出そうとすると、アイリスに止められた。
「そっちは忙しい時用、簡単なのを作る」
そう言ってアイリスは自分のマジックバッグから網とパンを取り出し、遠火で温め始める。
さらに鍋と野菜をいくつか取り出すと、手に持ちながら器用に切って鍋に落としていく。
「今日は魔物の肉を回収しなかった。だから干し肉。残念」
無念といった表情で干し肉を入れていく。明日食べられる魔物が現れたらこっそり確保しておこう。
「しばらく煮たら、マオン商会製のコンソメスープの元を入れて完成」
コンソメ特有の香りが広がる。
「ブラックペッパーはお好みでかける。あとチーズを焼いてパンに載せるのもおすすめ」
コショウ、カケル。
「めちゃくちゃ美味そう! 食べようぜ!」
そういうと木のお椀によそい、渡してくれた。
「いただきます」
「いただきまーす」
スープから一口いただく。うん、美味しい! 野菜のスープは毎朝飲んでいて食傷気味だったというのに、不思議と骨身に染みわたる。
パンは熱々で外はカリッと中はふんわり、とろけたチーズが旨味とコクを加えている。
地球で食べていた食パンより好きかもしれない。
「うまー」
「ん、悪くない」
凄い美味しいのに。流石アイリスさん、向上心の化身だ。
楽しく話しながらの食事を終え、夜が深まり食休みと洗い物を済ませた頃、ルーカスさんから冒険者に招集がかかった。
「お前達を呼んだのは他でもない、昼間にゴブリンジェネラルの襲撃を受けた件だ。その対応だな」
冒険者達が揃うと、ルーカスさんが説明を始める。
「奴らが街道まで出てきていると言うことは、群れがそれなりの規模に膨れ上がっているということだ」
本来はとても弱い存在のゴブリンが、何かの拍子にキングまで進化をすると、自身の魔力と魔石を使ってクイーンを産みだす。そして森の深部に巣を構えて、ジェネラルやウォーリアーを出産していく。
それが長い間発見されず、巣の規模が大きくなると餌が足りなくなり、大規模な移動をするようになる。
「先ほど雇い主である商人達の話し合いが行われた。一日の距離にあるブラウンへ戻るか、二日かかるアルスヴァルトに進むかだ」
若い冒険者達が騒つく。それが静まるのを待って、ルーカスさんは結論を述べた。
「結果としてアルスヴァルトへ進むことになった。七割の商人が進むべきだと主張したからだ」
安全だけを考えるなら、戻るべきだろう。
「キャラバンのリーダーであるシュリーマンさんは戻るよう意見していたが、このキャラバンは多数決がルールだ。故に、我々は備える必要がある」
ルーカンさんの言葉に、若い冒険者達は息を呑む。
「この長い隊列で、前方に配置されている俺が後方の状況を理解して指示を出すのは難しい。実際今日も、配置を放棄するパーティーがあった。故に現場指揮を一つ置くことにする。【イーリアス】、出来るな?」
……? なんて?
「カケル、返事」
アイリスに囁かれ、我に帰る。
「え、えぇ。しかし何故我々が?」
ほんとになんで? 初の護衛任務だぞ?
「あの規模の襲撃を、無傷で抑えられるパーティーが他に無いからだ。強さとはそれだけで説得力がある。商人達に聴取をした結果、適切だと判断した」
ほー、なるほどな? まあ確かに超絶強いアイリスが居れば、周りも指示を受け入れやすいかもな。力こそ、パワーというやつだ。
「なるほど、了解しました」
「よし、後ろから数えて七パーティーは、直接指示が無い限り【イーリアス】の指示に従え。明日も同じ配置で動く。異常があった場合、即刻報告するように」
それから、斥候の派遣やブラウンへの救援要請など、各々に役割を割り振って、解散となった。
俺は野営地に戻った直後、大変なことになったとアワアワしながらアイリスに相談する。
「これどうしよう? 別に何もやって無いのに、二十五人近くの命を預かることになったんだが?」
重すぎる。どうしてこうなった。
「カケルなら問題ない。わたしも居る」
ヤバい、カッコ良すぎる。ヘラクレスオオカブトレベル。
「――意外と余裕そう。変なところで大物」
冷静になると、決まった以上はやれることをやるしかない。そもそもアイリスが居てどうにもならない状況なら、誰が指示しようが一緒だろう。
「よし、そうと決まれば担当することになった奴らと話してくるわ」
腹が決まったら、やるべき事をやるしかない。
「うん? 何しにいくの?」
「とりあえず、話してもらえる範囲で持ってるスキルとレベル、ステータスを聞いてくる」
正しく戦力を把握しなければ、正しい采配なんて出来ない。敵を知り己を知ればってやつだな。
「――そう、わたしも行く?」
「んー、アイリスはアルバンのところに行って、商人達の事を聞いてきてくれ」
そもそもアルスヴァルトに行くことを選んだ理由や、物事の判断基準、商人がパニックを起こした時に取りうる行動など、とにかく情報が欲しい。想定外の事態は発生しないに限る。
「わかった。行ってくる」
「頼む、あらかた聞き終わったら明日に備えて眠ってくれよ。アイリスが文句なしで最高戦力だ」
「ん、カケルも無理しない」
「勿論、じゃあ行こう!」
それぞれ別れ、深夜になるまで情報収集をした。結果として中々良い収穫があったぜ。
今日持ち場を離れた奴らも反省していて助かった。
一通りの聞き取りが終わると、テントに戻って横になる。
頭の中で危機な状況に陥るパターンをシミュレートしていると空が白みはじめ、夜が明けた。




