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幕間 20日目 旅立ちに想う

 アイリスの両親から旅の承諾を得た次の日。

 俺達は忙しく動き回っていた。


「とりあえず知り合いへの挨拶と、必需品の買い物は終わったけど、他にやることあるか?」


「アルスヴァルトかサントニオル港までの護衛依頼を受ける」


 あーそれか。ランクの昇格には必須だし、町を移動するなら受け得だ。


「じゃあギルドへ行くか。さっきカインさん達に挨拶したばかりだけど」


「多分向こうも分かってるから、気にしない」


 それもそうか、ベテランギルド員さんなんだ。


「よし、じゃあ行こう!」

「行く」


 こうして俺たちはギルドへ向かった。

 

「あ、カインさん、依頼を探しに来ました。二度手間ですみません」


 ギルドに入り、受付のカインさんへ声をかける。


「良いんですよ、護衛依頼ですよね?」


 いつだってカインさんはこちらの意図を汲んでくれる。


「そうです。アルスヴァルトかサントニオル港行きの護衛依頼、ありますか?」


「どちらも明日の早朝出発のモノがありますよ。大きな隊商(キャラバン)の護衛任務です」


「おお、やっぱりアルスヴァルト行きの方が良いかな? てか明日でいいのか?」


「うん、明日でいい。アルスヴァルト行きを受ける」


 唐突感のある出発だが、それもまた冒険者っぽくて良いか。


「では明日の朝五時に南門の前へ、この割符を持って行ってください。ギルド職員が待機しています。そこで隊商の方々と顔合わせになります」


 一つの隊商(キャラバン)に複数の護衛が付くので、他のパーティーや商人達とは良い関係を築く必要がある。

 特にこのルートは新進気鋭の若いパーティーが多く、トラブルを起こさないように注意をしなければならない。


「ありがとうございます。ではまた夜に酒場で」

「はい、楽しみにしてますよ」


 この後壮行会? みたいなモノが行われる予定だ。お世話になった人たちには全員声をかけた。来れない人が居るのは残念だが、俺も楽しみである。


 その後は荷物の整理に、アイリスの家へ移動した。

 

「お邪魔します」

「いらっしゃい」


 玄関で二人やり取りをして、リビングへ案内される。


「部屋と倉庫から必要な荷物を持って来るから、お茶飲んで待ってて」


「あいよ」


 人の家で勝手にウロウロする訳にもいかず、出してくれたお茶を飲みながらお菓子をつまむ。


「うまー」

「お前は何をやっているんだ?」


 ――この声は。


「アポロさん。明日旅立つ事になったので、アイリスと魔法袋マジックバッグの整理をするんですけど、今はアイリスが持ってくる荷物待ちです」


「明日!? もう数日は居るんじゃないのか?」


「丁度大きな隊商が、明日出発するんですよ。それの護衛をアイリスが即決しました」


 だから睨まないで。


「――はぁ、まあ仕方あるまい」


 そうそう、仕方ない仕方ない。


 何故か正面の席に座ったアポロさんが、周りをキョロキョロ見渡した後に、俺の目を見てこう告げた。


「本人の希望だ、旅に出るのは容認しよう。だが忠告しておくが、娘に手を出さんように」


「ぶっ」


 古典的だが自分が言われると思っていなかった台詞に、お茶を吹いてしまった。アポロさんへ向けて。


「……貴様、わざとか?」


「ゴホッゴホッ、違いますよ。驚いて気管にお茶が入ったんですよ!」


「何を驚く事がある? 娘を持つ父親なら皆言う台詞だ」


 そうなの? 俺が娘を持ったことがないから分からないだけ?


「とにかく、アイリスは天使のような子だ。あの子が最高のパフォーマンスを発揮できるように、お……前は――」


 お気づきだろう。高らかに語っていたアポロさんの後ろで、アイリスさんが仁王立ちをしている事に。

 頬をぷくっと膨らませて睨みつけている。怖いような、可愛いような? 不思議な感じだ。


「お父さん?」


「当方には謝罪の準備がある。その振り上げた拳を引っ込めてぐおっ!」


 ゲンコツされる大人、初めて見たわ。力はあまり入って無かったけど。


「い、痛いじゃないかアイリス。父さんはアイリスの事を思ってだな」


「パーティーのことは自分たちで決める、お父さんはそもそも――」


 アイリスのお説教が始まったが、直後に玄関からドアノッカーを叩く音がして、動きを止めた。


「ごめんくださいー」


 お客さんが訪ねて来たようだ。渋々といった様子で玄関へ向かうアイリス。


「だれ?」


 家の中から声をかけると、若い女性の声で返答があった。


「この間森林ダンジョンで助けていただいた、【フロースセア】のライアですー」

「ピヨピヨ」


 あの三人娘のおっとりした子か、そういえばお礼に行くと言ってたっけ。


「今開ける」


 ガチャっと扉が開く音がした後、お邪魔しますの挨拶と共にライア、プロシネ、タリア、ぴーちゃんを引き連れたアイリスがリビングに戻って来た。


「あ、カケルさんも居たんすか。同棲っすか?」


 体育会系ヤンキー風なプロシネが、俺に気づいて声をかける。


「ちげーよ。明日から南方のダンジョンを巡るから、準備に寄ったんだ」


「あら、そうなんですね。挨拶が間に合って良かったわ」


 三人の中で最もしっかりしているタリアが安堵の返事をする。


「お茶を出すから、そこに座って。お父さんはあっち行ってて」


 アイリスが三人のお茶を準備しながら、アポロさんを追い出している。不憫だ。


「お礼に伺わせていただきましたー」

「ピヨ!」


「気にしないでいいのに」


「立場上ー、受けた恩は返さないとー、怒られちゃいますからー」


 ダンジョンで会った時よりさらにフワフワしてる気がする。こっちが素なのか?


「立場上?」


 引っかかったので聞いてみると、意外な返答があった。


「自分ら、一応貴族の令嬢なんすよ」


 え!? 三人でダンジョンに居たのに? あり得なくない?


「とは言っても騎士系の家ですし、それほど裕福ではありません。私は四女でプロシネは六女ですから、自分で身を立てる事が認められています。立場は皆さんとそれ程違いませんよ」


 ほえー、貴族の家系も世知辛いんだな。


「ただ、ライアは正真正銘のお嬢様っすよ? ほらほら、名乗ってしまえ」


「そうですね。慄いて貰いなさいな」


「もー、仕方ないですねー」


 いや、名乗られても貴族家の名前なんて分からないんだけどね。しかし君たち仲良いね。


「では僭越ながら名乗らせて頂きますー」


 これは、印籠を出されたときのリアクションが求められているのだろうか。ははぁーってやる準備しておくか。


「私はライア=キンディアゾーヌ=ブラウンと申します。以後お見知り置きを」

「ピヨピヨピピヨ」


 ふーん、家名はブラウン家ね。ん? ブラウン?


「――領主様のお子さん?」


 俺が唖然とする中、アイリスが確認を取る。


「いえー、孫に当たりますー」


 直系って事……? もしかしなくても凄い偉い人じゃな?


「えーっと、タリア。俺達を驚かせるために、僭称させてるとかじゃないよな?」


 恐れ多くて本人に聞けないよね。


「違いますよ。そんな事しようものなら打首ですもの」


 本物でした。凄いね。まるで異世界ファンタジーだね。


「ブラウン家は伯爵家、なんで冒険者なんてやってる?」


 そうなんですよ。南の穀倉地帯とブラウンの町、複数ダンジョンまで抱えている貴族家なんですよ。それが三人で森林ダンジョンに行って、あまつさえ死にかけてるってどういうこと?


「我が家も貴族家らしく多産でしてー。掃いて捨てるほど子供が居ますからー、十男十女以降は騎士を目指すことが認められているんですー」


 なんていうか、かなり豪快な采配じゃないか? 伯爵家の子供なんて政略結婚を考えれば、何人いても嫁ぎ先はありそうだけど。


「この国では騎士になれば準貴族として扱われますから、派閥の強化になります。家系から優秀な騎士が生まれれば王家の覚もめでたく、いざという時の戦力にもなります。独り立ちすれば出費も減り、悪い事が無いんです」


 タリアが説明を引き継いでくれた。なるほどな。だから同年代の貴族であるプロシネとタリアの三人で冒険者やってるのか。いや――。


「なんで騎士を目指すのに冒険者なんだ?」


 納得しそうになったけど、意味わからないだろ。


「単純に強くなった方が功績を残しやすいですから、実際に、元冒険者の騎士や貴族はそれなりに居いるのですよ?」


 ほう、取立ててもらう為にもアピールは必要ってことか。


「そんな事より今はお礼ですねー」

「受け取ってもらわないと困るっす」

「というワケで、これをどうぞお受け取りください」


 三人を代表してタリアから二冊の魔法書が渡される。片方は刀剣術基礎、もう一方は風魔法ワールウィンドと書かれていた。


「金はあまり無いのでー、実家にあったものから見繕ってきましたー」

「ピヨピヨ」


「うん、欲しかったやつ。すごく嬉しい」


「俺も刀剣関係のスキル書、欲しかったから助かるよ」


 何故か全然売ってないんだよ、刀剣周りのスキル。


「ワールウィンドはライアが、刀剣基礎は自分たちからっす」


「刀剣術はあまり人気が無く安価なモノで恐縮なのですが、出回る数が少ないので探すのに時間がかかり、お礼が遅くなってしまいました」


 すみません、と謝るタリア。正直忘れてたくらいだったから、気にする必要ないぜ!


「良い。わたし達に必要なものだった。ありがとう」

「ああ、まじで嬉しいよ。ありがとうな」


 三人がホッとした様子で息を吐く。その後はお茶を飲みつつ少し雑談した後、用事があるからと帰って行った。

 夜の壮行会にも誘ったが、流石に許可が出ないだろうということで、また何処かで会いましょうと言ってお別れをした。


 荷物を魔法袋マジックバッグや背嚢に仕舞い、本来の目的を果たしたところで、三人並んでギルドの酒場へ向かう。

 

 テリーさんやカインさん、アポロさん、エレクトラさんにシアさん、アベル君パーティー、アイリスの幼馴染などを呼んで行った壮行会は、とても賑やかで楽しいものだった。


 エレクトラさんは終始アイリスにベッタリだったし、酒に酔ったアポロさんが、号泣しながらアイリスを抱き締めているのを、皆で苦笑いして眺めたりもしたよ。


 そして……。


「宴もたけなわではございますが、ご挨拶をさせていただきます!」


 明日は早朝に起きなければならず、早く休む必要がある。だから俺は、旅立ちの挨拶をすることにした。


「この町に来てから二十日間ほどの短い間でしたが、大変お世話になりました! この恩は絶対に忘れません! 時々この町に戻ってくるので、懲りずに仲良くしてやってください! 今までありがとう! これからもヨロシク!」


 言い切ったあと、アイリスの方を見る。するとアイリスも立ち上がり、ポツポツと話し始めた。


「今までありがとう。みんなのお陰で、ここまで来れた。明日からは暫く会えないけど、かならず逢いに来るから、みんなも元気で居て」


 アイリスの挨拶で拍手が起こる。うーむ、しんみりしちゃうぜ。


 この日はこれで解散することになった。


「二人とも無理するなよ」

「体に気をつけてね?」

「いつ戻ってきても良いんだからね?」


 それぞれが別れの挨拶をして、家路に着く。


「それじゃあ、明日は四時にうちの玄関で」


 アイリスもそう言うと、親子揃って帰って行った。


 俺は大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。強い寂寥感を感じてるのは、僅か二十日間で、ここブラウンの町が大好きになっていたんだろうね。


 おれはもう一度深呼吸すると、慣れ親しんだ宿の二階、角部屋に向かう。いつも疲れた俺を迎えてくれたこの部屋ともお別れだ。


「今までさんきゅー」


 口に出して、ベッドに横たわる。少しだけ枕に涙が滲んだのは、内緒の話だ。


 そんな夜を経て、俺の異世界転生物語は第二章へと進んだ。

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