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幕間 13日目1 事後処理

 プラントドラゴンとの激闘を終えた翌日。俺とアイリスは、買取カウンターの前で呆気に取られていた。


「ではこちらの品まとめて、200万ラウになります。ありがとうございましたー」


 ――二百万? 一人百万? たった1日で?


「びっくり」


 俺もだ。同じBランクでも、素材の回収が無かったサイクロプスとは雲泥の差だ。特にプラントドラゴンの中心部にある真樹が、杖の材料など多方面で使われるらしく、高額査定だった。


「どうする? 酒場で豪遊でもするか?」


 ギルドの酒場はリーズナブルだ。どうせどれだけ飲み食いしても、大した額にはならない。


「それはする。けど他にもやる事がある」


 やること? なんだろう。ケーキ食べ放題とかか?


「調査の結果を聞いて、戦闘詳報(アクションレポート)を提出する」


 「……あー、それな?」


 分かってましたけどね。別に浮かれてたわけじゃないですけど? アイリス君、なんだねその目は。


「――テリーが第二会議室で待ってる。そこで戦闘内容の報告も纏める」


「はい」


 チラチラと疑惑の眼差しを向けてくるアイリス。俺は決して目を合わせず、会議室へ向かうのであった。



「失礼しまーす」


 スライド式の扉が、シャーッと音を立てて開く。部屋の中ではテリーさんとカインさんが、広げた書類と睨めっこしていた。


「そこ、字が間違っています。もう直ぐBランクなんですから、書類はしっかり書けるようになってくださいよ?」


「わーってるよ。ったく、本来は俺の仕事じゃねえっつーのに。フレデリックの野郎、逃げやがって」


 テリーさんが盛大に愚痴っている。仲間に押し付けられた仕事らしい。ドンマイ。


 俺たちが到着した事に気づいたカインさんが、席を薦めてくれた。


「お二人とも、どうぞこちらへ。座ってください」


 俺とアイリスが揃って座ると、テリーさんが書類から顔を上げる。


「来たな、昨日はご苦労だった。帰還届けは全て受理されていた。良くやったな」


 とりあえず犠牲者は出てないようで、一安心だ。アイリスも隣でホッと息をついている。


「それは良かったです。結局アレ、何だったんですか? タリアが、場違いな怪物アウトオブプレイスモンスターと言ってましたけど」


 冒険者をするうえで、沢山ダンジョンを潜るつもりの俺としては、聞いておきたい。


「あれは、ダンジョンが与える試練と言われている」


 試練って、厳しすぎんか? クリア適正二十五レベルと言われるダンジョンで、六十レベル前後が適正の魔物が出るなんて。


「ただ今回のは、少し様子が変でな。そもそも場違いな怪物が出現するのは、高レベルの者が低レベルの若者を育成している時に限られていた」


 うーん、元々は養殖対策か? パワーレベリング防止用に、適正レベルを大きく上回る人間と、大きく下回る人間が同時に居るとポップするとか?


「大量に魔物が発生したり、巨大化するなんて話も聞いた事が無い」


「ギルドでも調べてはいますが、今のところヒットはありません」


 大量発生や巨大化した魔物はイレギュラーっぽいし、原因は不明だ。ダンジョンの法則が変わったのかな?


「現状は巨大化した魔物を全滅させて、今もCランク冒険者が巡回している。しばらくは様子見だ」


「結局、良く分からないって感じですかね?」


「今のところはな。数日前に三層で、大きな魔力らしきものを感知したと、報告があったらしい」


 らしきもの? 魔力と間違えるようなモノがあるのだろうか。


「知っている属性の魔力では無かったらしく、呪術や精霊の類かもと疑っていた」


 呪術は国によって管理、研究されているようだが、実用に耐え得るモノでは無いと聞いている。

 精霊は御伽話のような存在で、存在も怪しいと本で読んだ。


 結局良くわからないし、直接話が聞きたい。


「その報告をした冒険者、既に宿を引き払っていてな。所在不明で、現在は他所のギルドへ照会中だ」


 うーん、無事に連絡が取れれば良いけど。


「教えられるような情報はこれくらいだ。すまんな」


「仕方ない。ダンジョンの封鎖は無し?」


「三層に関しては、四層への順路以外、立ち入り禁止だ。他は問題が見られないし、森林ダンジョンはこの町の貴重な収入源だ。今のところは様子見だな」


 妥当なところか? 実際、完全封鎖をされると困る若手冒険者は多いだろうからな。


「分かりました。また何か情報が入ったら聞かせてください」


「あぁ、任せておけ」


「我々ギルドでも情報収集をしておりますので、気がついたこと等が御座いましたら、ご連絡ください」


「了解です」


 ダンジョンの異変に関しては、とりあえずは終わりかな? 後は戦闘の報告書だ。

 何故提出をしないとダメなのか、良く分からないんだよな。パーティーの評価に関わるのは、何となく分かるけど。


 折角カインさんが居るんだし、聞いちゃうか。


「すみません。これから戦闘詳報(アクションレポート)を書くんですけど、これって何で必要なんですかね?」


 俺の質問に、カインさんはニコニコと答えてくれた。


「それはですね。今回の魔物が再び出現した時に、被害を出さない為の資料として使わせて頂きます。勿論、【イーリアス】の評価にも関わりますよ」


「居合わせた冒険者にも聴取するから、戦果の過大報告はやめておけよ?」


 ニヤニヤしながらそんな事を言ってくるテリーさん。

「しませんよ。あんな化け物相手に、余裕を持って勝てるなんて勘違いされたら、大迷惑です」


 見なさい、アイリスさんもコクコクと頷いています。


「それが分かってりゃ良い。過大評価なんぞ誰の為にもならんからな。しかし若いうちは戦果を飾ってでもチヤホヤされたがるもんだが、枯れてんのかねー」


 なんとでも言いなさい。俺は無茶な依頼で困っちゃう系冒険者になる気は無いのだ。


「じゃあ戦闘詳報(アクションレポート)をぱぱっと纏めます」


 俺は頭を切り替えて、レポート用紙と向き合う。

 

 思考を読んだ連携なんかは、必要ならアイリスが報告するだろうから、自分が担った役割だけ簡潔に纏めよう。


 その後、魔道具のペンでカリカリと文字を書く音は、昼頃まで続いた。


 カインさんにアクションレポートを提出した後、俺たちはテリーさんと酒場で昼食をとっていた。


「俺もレポートに目を通させて貰ったが、カケルお前、闇属性の魔法覚えたのか? 良く手に入ったな」


「運良く宝箱から出たんですよ。ブラインドだけでもかなり便利なんで、助かってます」


「上位の魔物には少ないが、中には視覚ばかりに頼る魔物も居るからな。人の場合はライトで払われちまうだろうが、魔物なら火と光属性持ち以外は、それなりに有効だろ」


 テリーさんお墨付きだ。売らないでよかったぜ!


「それとアイリスの体質、受け入れられたようで何よりだ」


 うんうんと上機嫌に頷きながら、三杯目のエールをグイッと飲み干すテリーさん。昼間っから何してんだこの人。


「昼間から飲み過ぎ」


 俺もそう思う。アイリスよ、もっと言ってやれ!


「ダメ人間の所業」


 そうかな? そうかも!


「このままだと、人として一段下に見ることになる」


 そこまでは思ってない!!


「いや言いすぎだろ。昨日は突然の仕事で朝方までダンジョンだったし、ギルドに戻ってからはずっと書類仕事だったんだ。許されて然るべきだと思うぞ」


 へぇー、それはご苦労様だ。俺はドンドン飲んで良いと、最初から思っていた。


「なら仕方ない。お詫びにここは【イーリアス】の奢り」


「連帯責任!? まぁ良いけど!」


 これで、失礼なことを考えていた罪悪感に苛まれることは無くなるだろう。


「はぁ。それでお前たち、明日からはまた森林ダンジョン攻略か?」


「うん。三層までの魔物は、ほぼ全て討伐済み。罠が出てくる七層まではすぐに行ける」


 四から六層は、今まで倒した魔物が種に関係なく混在するようになる。逆に言えばそれだけなので、多少感覚は変わってくるだろうが、それほど問題はない。


 虫のいるフロアなら宝箱が美味しいかもと思ったが、三層から先は採取アイテムも豊富になる関係で、徘徊してるパーティーが多いようだ。残念。


「そうか、だが気をつけろよ。命さえあれば再起はできる」


 この世界、部位欠損をしようとエリクサーさえ手に入るなら、取り戻す事ができる。とはいえ数千万ラウする品なので、軽々に使える物でも無いのだが。


「大丈夫ですよ。たまたまヤバい事件が短い期間に固まっただけで、そう何度も命の危機なんて訪れませんよ。それに、俺は慎重で臆病な人間なんです」


 慎重に、やりたいことして、生きて行く。心の俳句。


「短期間にBランクの魔物二体と戦うような事、そうそう起きない。大丈夫」


「だと言いがねえ」


 不吉な事を言うテリーさん。これ以上フラグを乱立させないため、話を変えた。


「そう言えばさっき、もうすぐBランクになるって話をしてましたけど、ランクが上がるんですか?」


「あぁ。来月近隣の町を回って、ギルドマスター達と面談をするんだ。そこで問題がなければ昇格だ。Cランクになってから五年かかったが、ようやく漕ぎ着けたって感じだな」


 上位9%の冒険者になるのか、凄まじいな。


「おめでとう御座います!」

「おめでとう」


「よせよせ、昇格したからで十分だ」


「けどカインさんとの会話を聞いた限り、問題なく上がれそうなんですよね?」


「まぁな。とはいえ油断しないに越したことはない」


 聞くところによると、ギルドの講習を引き受けたり、緊急依頼を受けたりしているのも、昇格のための評価点稼ぎだったようだ。


「テリーならへいき」


「元Aランク冒険者の娘が言うなら、少しは安心かもな」


 冷静になるとエレクトラさん、冒険者の中で1%の上澄みだったんだよなー。かっこいいわね。


「うん。テリーと同じでお母さんもかなり大雑把。素養に問題は無い」


 そうなんだ。お弁当すごい美味しいから、細やかな性格だと思ってたわ。


「お母さんは三年前、南はこっちよと言ってわたしを先導した結果、東の商業国についた事がある」


「大雑把とはなんか違くない?」


 重めの方向音痴だろ。人間どっかしら弱点があるもんだな。


「たまに肌着の前後を間違えてる」

「大雑把だからじゃ無いだろ」


 あるよね、そういうことも。


「エプロンしたまま、仕事へ行ったりもした」


「ドジっ子だよ! 大雑把とかじゃない、おっちょこちょいだよ!」


 てか家を出る段階で注意してやれよ。


 うーん、娘ラブな事以外は、カッコいいお母さんだと思っていたけど、人は見かけによらないね。


「――昇進の自信ついてきたわ。助かったぞ、アイリス」


 良いのかそれで。いや、本人が自信を持てたなら良いか。


 俺は思考を放棄して、目の前の食事に集中するのだった。

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