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1日目2 やってきたブラウンの町

 町の門を通過し中に入ると、出入り口は広場のようになっていた。

 目の前にヨーロッパ風の街並みが広がり、否応無くテンションがあがる。


 俺が入って来たのは南門だったようで、北には真っ直ぐ広い石畳のメインストリートが、東西にも北側ほどではないが、広めの道が延びている。


 北の街路は圧巻で、馬車四台が余裕を持って並べるくらいの道幅があり、左右には色とりどりの商店が軒を連ねている。


「おおー、おしゃれな街だ!」


 気分は初めて海外旅行に来た観光客である。


「ドワーフにエルフ、獣人にリザードマンも居るぞ!」

 

 多種多様な種族と人種が行き交っていた。

 馬や恐竜のような動物が荷物を引いて町を練り歩き、小さな鳥が手紙を咥えて空を飛んでいる。


 こだまする人々の明るい喧騒は、この町が優れた統治、運用をされいる証だろう。とても前向きなエルギーが溢れているように感じられた。


 異世界あるあるの性悪貴族トラブル、この町では起きないかもしれない!


「さて、異世界で初の町でやる事と言えば、冒険者ギルドに行く事だな!」


 とはいえ、冒険者ギルドの場所もわからない。

 そもそもあるのか? あるよな? 神さまは冒険者になってレベルを上げろと言っていたし、衛兵さんも冒険者になる為に来たと言った俺を、普通に受け入れていた。


「まずは定番の屋台露店で串焼きでも買って、ついでに情報収集だ!」


 思い立ったが吉日。あまり繁盛していない、人の良さそうなおばちゃんがやっている店へ突撃した。


「お姉さん、串焼き二つお願い!」


 異世界処世術である。俺は詳しいんだ。


「おや、今から焼くから結構時間かかっちまうよ?」


 狙い通り! その時間で話を聞いちゃうぜ!


「いくらでも待ちます! いくらですか?」


 まず食の値段から貨幣価値を知るところからだな。


「ニ本で400ラウだよ。」「銀貨で良いかな?」「ラウ銀貨ね。じゃあお釣りの600ラウだ。」


 硬貨に数字が刻印されている通貨で助かったぜ。


 このまま自然な流れでお金に関する情報を聞いてみよう!


「実はこの国のお金の事、良く分からないんですけど、詳しく教えてくれません?」


 そんな事を聞いてくる人間、居ないんだろうな。訝しそうにしてらっしゃる。全然自然な流れ無かったらしい。

 それでも切実に困っているのが伝わったのか、貨幣の価値について詳しく教えてくれた。

 流石異世界いい人そうおばちゃんだ。器がでかい。


 おばちゃんの話によると、ここクラウド王国発行の貨幣は質が良く、他国との交換レートも高いようだ。変動相場制っぽいな。


 存在する硬貨は、10ラウ銅貨、50ラウ赤銅貨、100ラウ白銅貨、500ラウ銀貨、1000ラウ銀貨、2000ラウ銀貨、5000ラウ緑金貨、10000ラウ金貨、50000ラウ大金貨とあるみたいだ。


 現代日本との違いは一円と五円がなく50000円がある感じか。それと一番上は白金貨があって、なんと200万ラウするんだって!国や大商人の取引で使われるらしい。あやかりたいわね。


 1ラウは製造コストに見合わなくなって廃止されたそうな。それでも補助通貨として使われてはいるようだが。


 串焼きの値段が二本で400ラウだったという事は、食べ物の物価も日本に近いのだろう。

 態々そういう世界に転生させてくれたのかな?めっちゃ良い人だ! 神さまか。やはりお供物しないとな。


 お金の話も聞け、ギルドの所在地も尋ねて、大満足で店を後にする事にした。


「おばちゃんありがとうね!」


「おばちゃんねぇ」

 

 間違えました。


「お姉さん、ありがとう!」


 そう言うと苦笑いしながらも手を振ってくれた。人の温かさにふれ、ほっこりした気持ちで冒険者ギルドに向かう。

 ちなみに串焼きの味は、塩こそ薄めだったがお肉の味が強く、この世界で初めての食事は満足いくものだった事を伝えておきたい。

 

 屋台を離れて北のメインストリートを真っ直ぐに進むと、青葉城にある伊達政宗公騎馬像のようなブロンズ像が建つ公園が見えてくる。

 その公園の手前にある大きな交差点を左折してひたすら歩き、辿り着いた西門の広場近傍に、ソレはあった。


「冒険者ギルドだ!」


 赤銅色の煉瓦と木を組み合わせて出来たその建物は、現代日本人のオタクが想像する冒険者ギルドと、それほど乖離は無かった。

 強いて言うなら、隣にバカでかい倉庫があるのが、気になるくらいか。


「プランを確認しよう」


 俺はこの町に着くまで、中々に無計画だったという自覚があった。


 しかしここは冒険者ギルド。揉め事を起こせば最悪命が危ないかもしれないし、それでなくともトラブルを起こす新人は歓迎されないだろう。


「まずは誰とも目を合わせず、真っ直ぐに受け付けカウンターへ向かう」


 その時にびくびくしてはいけない。自信ありげに歩むのだ。目を付けられないために。


「何かあったらすぐに職員さんに助けを求める」


 仮に職員さんがうら若き女性だったとしても、俺は躊躇わない。その職種に就いている以上は、男女平等なのだ!


 登録料等がある場合も想定し、受け答えや質問の準備もした。宿とステータスの事は絶対に聞く!


「よし、行くぞ!」


 俺は緊張しながらも、力強く冒険者ギルドの扉を開いた。


 意外にも受付まではスムーズに到着出来た。昼間なのが良かったのだろう。併設の酒場に客は疎で、若い冒険者とギルドの職員さんっぽい人が食事をしているだけだ。


「あの、すみません」

「はい、ご用件をお伺いします」


 俺が声をかけたのは当然美人な職員さん。ではなく、眼鏡をかけた真面目そうなおじさんである。

 白髪混じりの髪をきっちり七三分けで纏める、清潔感のある仕事ができそうな男だ。


 美人職員さんはトラブルの元なのだと知っているので避けた。俺は詳しいんだ。


「冒険者登録をしたいのですが、何か条件があったりしますか?」


「初登録の場合ですと、手数料が2000ラウかかります。また真実の石に手を乗せて幾つかの質問に答えていただく事になります」


 ふむ。おおよそ二千円の支払い。それと犯罪歴や思想を調べる感じか。お金は少し痛いが、稼がなければジリ貧だ。ここで拒否する理由にはなら無いだろう。


「えっと、それなら登録をしたいです。宜しくお願いします」


「承知致しました」


 登録を頼むと仕事出来るおじさんは、受付テーブルの下から大理石風の板を取り出した。さっき南門で使ったアレである。


「ではこちらに手をおいてください」


 俺が石板に手を置くと、おじさんがこちらの目を見て問いかける。


「それでは質問をさせて頂きます。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」


 そういえば自己紹介もしてなかったか。


「古昌カケルと言います。名乗らず、すみません」


「お気になさらず。私の名前はピエールです」


 おじさんが真実の石に手を乗せ名前を告げた。すると石板が赤く光り始めたではないか!


「これが虚偽の回答をした時に石板が見せる反応で、魔法による偽装は不可能だと言われています」


 おお、そういえば嘘をついたときの反応を見るのは初めてだ。ていうかピエールさんでは無いのか。


「では続けましょう。古昌カケルさま、過去において自身の意思で犯罪に加担しましたか?」

「いいえ」


「冒険者になった後、罪を犯さないよう心がけると誓えますか?」

「はい」


「犯罪を目撃した場合、然るべき機関に通報する事を誓えますか?」

「はい」


「冒険者になった後、権利を利用して不当な利益を上げようと考えてはいませんか?」

「考えていません」


「結構です」


 こんな簡単に嘘がわかるの、本当にすごいな。


「ではこちらの書類にご記入をお願いします」


 ふむ、完璧に字も読めるし、日本語のように書けそうだ。


「わかりました。全項目を埋めないと登録出来ませんか?」


 出身地などの記入欄がある。日本とは書きづらい。


「いえ、最低限お名前さえご記入いただければ登録は可能です。しかし出身地や種族、使用可能な魔法、レベルなどによってご案内出来る仕事が増える場合があります」


 なるほど。確かに身元がハッキリとしていれば、豪商や貴族との仕事など、割り当てやすそうだ。

 俺は書きようがないので、幾つかの記入欄を空欄にしつつ提出した。


 やはり文字を書くのは問題なかった。ありがとう謎空間、フォーエバーファンタジー!


「ギルドカードの発行を致しますので、血を一滴いただきます」


 異世界ものでよく見るやつ!プチっとやった。針が痛いぜ。


「それでは、ギルドカード完成まで暫くお待ちください。その間に納税などを含めた規則ついての説明をさせていただきます」


 この一連の説明は、バカな俺でも驚くほど分かりやすかった。きっと冒険者相手に何度も説明しているのだろう。


「ギルドで講習もあるので、気軽に参加してくださいね。他に質問がございましたら、お伺いしますよ?」


 凄い助かる。神か何か?


「よろしくお願いします」


 俺は仕事人スーパージーニアスおじさん相手に質問をしまくった。嫌な顔ひとつせず答えてくれたぜ。

 そして聞きたいことが一段落した後、紹介されたギルド併設の宿に向かうのだった。


 ギルドに併設されている、主に新人冒険者が使用する二階建ての宿。ここは冒険者を目指す孤児や無鉄砲な若者の受け皿となっている。


 俺に当てがわれたのは二階の角部屋。ベッドと小さな机に、ハンガーラックと窓しかない、シンプルな内装。

 ギルド登録から二年間は一泊1000ラウで泊まれて食事が朝晩つく事を考えれば、なんの不満も無いどころか大感謝である。


 その部屋の中で俺は、人生を変えるであろう事柄に向き合っていた。


「ステータス、オープン!」


 そう、ステータスの確認である。

 そもそもスタート地点の森で、同じ文言を唱えても反応が無かったのは、町に設置されている魔道具の効果範囲外だったのが原因だ。


 効果範囲内であれば、ステータス画面を開こうと考えながらオープンと言うだけでも問題ない。言葉の装飾は気分の問題だ。


 遥か昔、この世界においてとても弱い存在であった人類種。

 日々を生きる事にも苦労するその姿に同情した知恵と慈愛の神さまが、幾柱かの神々と協力して、経験をステータスに変える力と、割り振りするための技術を与えたらしい。


 ジーニアスさんが説明してくれたので、もう絶対にそう。確信すらあるね。


 それはそれとして、俺の目の前には謎の石板が浮かんでいて、そこには俺のステータスが表示されていた。


 Lv1 HP14/15 MP7/14

 str4 vit5 int7 dex3 agi5 luk1 pt 0


「めっちゃ弱そう!」


 いや大丈夫? ゴブリンとか和製スライムにタイマンで負けるレベルじゃない? 足の小指ぶつけて死んだりしないよな?

 俺は一抹の不安を覚えながらも、ステータス画面に集中する。

 下の方にはスキル欄があるようだ。


「なんか持ってるかな?」


 スクロールをすると、所持スキルが目に入った。


 言語理解 鑑定カス


 カス!?!?


 流石に言い過ぎだろう。悪意がすごい。誰かの意思が反映されているとしか思えないが、俺の潜在意識ではない事を祈るばかりである。しかし……。


 これどうしよう。怖い。自分の無能さが。この世界でやっていけるのか、途端に不安になるレベルだ。


 だが、神は言った。莫大な魔力は与えられないが、自分で割り振れと。

 つまりレベルさえ上げて、このステータスだとINTあたりか?あれに割り振ればMPも増えて、魔法使いとしてやっていけるに違いない!


 頑張れ俺! 駄目そうなら翻訳でご飯食べて行こうぜ俺!


 よし、明日は冒険者ギルドに行って資料室で色々調べつつ、冒険者講習を受けれるか確認しよう。


 そして近いうちにレベル上げに勤しむのだ!折角異世界に来たからには、地球じゃ体験出来ないことに挑みたい。


「とりあえずは魔法とレベル、美味しい食事に名所観光、動物とかとも触れ合いたいね。後はまあ、いつか良い人もできれば良いなぁ」


 中学の卒業間近、好きだった同級生に告白して見事玉砕した身としては、そっちは未だ消極的だ。


 良し、ざっくりとした目的も決まった事だし、ご飯を食べて寝よう!


 俺は食堂は行き、宿のおじさんが作ったパンとシチューを平らげると、ベッドで横になる。


 4400ラウ程使って軽くなった財布を眺め、二年の付き合いになるスマホの電源が入らない事を再度確認した後は、かなり疲れていたらしく、深い眠りの世界に誘われていった。

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