12日目1 第三層の異常
「くっさ!」
「それ、匂いで仲間を呼んでる。手早く倒すか、一時撤退」
俺たちは今、森林ダンジョン三階層に居る。
この階層に居る魔物は植物種だけで、素材となる薬草やキノコ類が多く存在している事から、大人気の狩場だ。
そこで俺は大いに苦戦していた。
「こいつら擬態が上手すぎるだろ!」
一通り資料室で調べ、写生を見て来たのにも拘らず、実際の森では区別がつかない。今もフォルスタイタンという植物系の魔物に、仲間を呼ぶフェロモンを吐かれたところだ。
「ええい、ウィンドカッター!」
細切れになるフォルスタイタン。しかし既に新手の魔物が殺到してきている。
「手分けして倒す」
「了解!」
蔓をムチの様にして襲って来る魔物や、溶解液を吹きかけようとしてくる魔物。更に仲間を呼ぼうとするやつまで、そこかしこから集まって来た。
魔物を殲滅するまで、戦闘は十分以上続いた。
「ふぅ」
「結構な量だった」
一息つく俺とアイリス。最終的に二人で四十体くらいは倒したんじゃ無いか?
「経験値と魔石はうまいけど、この物量、少数パーティーだと苦戦しそうだよな」
普通に押し潰されそう。
「さっきのはすごく多かった。毎年一組か二組、この層で行方不明になる」
それは……怖いな。入ダン届を出したとき、やたらと心配そうだったのはソレでか。
その後は手分けして魔石を回収していると、比較的近い所から戦闘音が聞こえて来た。
「もうすぐだ! こっちへ走れ!」
誰かの叫び声がする。魔物を牽制しながら、階段へ向け逃走しているようだ。
「アイリス、どっかのパーティーが魔物から逃げてるみたいなんだが」
「うん、四人組、一人背負われてる。怪我人かも」
「助けに入るか?」
俺たちにはまだ余裕がある。ここで見捨てて死人でも出たら、目覚めが悪い。
「うん、行く」
そう言って走り出すアイリス。俺も荷物を背負い直し、それに続く。
一分ほど走ると、魔物の群れに囲まれた四人の若者が目に入った。魔法と武器で牽制してはいるが、既に三人はふらふらで、一人はぐったりと倒れている。
「助太刀はいるか!?」
俺は慌てて声をかけた。
「救援か!? すまんが頼む!」
「了解! アイリス!」
「――ウィンドブレス」
魔法が唱えられた直後、彼らを囲っていた魔物達が一斉に、上からの風圧によって潰された。
「何体か生きてる」
その言葉を聞いて、刀を抜いて飛び出した。生きているとはいえ瀕死の魔物ばかりだ。問題は起こらなかった。
走り回って魔物を滅多刺しにすること数分、辺りから魔物の気配が完全に無くなった。
「大丈夫だったか?」
「あぁ、確か同じ宿に泊まっている人だよな? 助かったよ」
声をかけた相手は、赤髪のアベルくんだ。
俺は一方的に知っているが、馴れ馴れしくしたら気持ち悪いだろうから、素知らぬ顔で話し続ける。
「困ったときはお互い様だ。それより、そこでぐったりした子は大丈夫なのか?」
倒れてるのは、多分ヒーラーの黒髪おさげセイラちゃんだ。
「毒と麻痺にかかっていてな。毒消しと麻痺治しポーション、持ってないか?」
聞くところによると、それなりの数を持って来てはいたのだが、続く連戦で使い切ってしまったらしい。
「魔法で治す。キュア、リカバー、ヒール」
言うや否や、回復魔法をかけるアイリス。瞬く間に顔色も良くなり、穏やかな呼吸に変わっていく。
「本当に助かったわ。ありがとう」
礼を言うのは茶髪の少女、カレン。
「まさかここまで数が多いとは……事前に調べた以上だった」
そういうのは黒髪短髪の彼だ。すまん、君だけ名前を忘れている。
「うん、今日はいつもより魔物が多い」
アイリスが同意する。何か凄い不安になって来たんだが? 五百年間スタンピード、起きてないんですよね? 安心と信頼、実績の森林ダンジョンですよね?
「このダンジョンで、何かが起きているのか?」
うおおお一級フラグ建築士かよ! やめなさい。
「ダンジョンの魔物分布が変わることは、すごく珍しいけど、ある」
「だがここまで増えるのは……」
つまりこれは……異常事態じゃな?
「他にもこの階層で、困ってる人たちが居るかもしれない」
確かに。誰にとっても想定外の事態だろう。
「わたし達が回る。あなた達はギルドに報告して」
「――わかった。俺たちじゃ力不足だ、頼む」
そう言うと、目を覚ましたセイラちゃんに事情を説明し、彼らを護衛しながら二階層への階段に向かう。
その間にも魔物の襲撃があり、やっぱりオカシイと、アイリスが呟いていた。
「出来るだけ早く、高ランク冒険者を派遣して貰えるように話をしておく。新しく冒険者が入ダンしないようにもな。お前たちも、無茶するなよ」
そう言って去って行くアベル君。かっこよ。
残された俺たちはポーションを飲んで一息入れた後、三階層で人気のスポットを回ることになった。
――それから四時間後。
「ファイヤーアロー!」
植物の魔物に対し、火の矢を叩き込む。
今いる場所は開けている上に泉もあるので、火魔法を使って魔物を焼却しているのだ。これから毎日魔物焼こうぜ?
これまでに助けたパーティーは三組。ここまでくると、初めてこの階層へ来た俺でも異常だと理解できた。
「ファイヤーストーム」
魔物の群れに炎の嵐が襲いかかる。流石アイリスさん、数十匹を一撃だ。
「とりあえず倒したか、君たち大丈夫か?」
声をかけたのは少し年下の女子三人組と、一羽の小鳥だ。皆一様に、ペタンと地面に座り込んでいる。
「助かりましたー、ありがとうごさいますー」
「ま、マジで死ぬかと思った」
「今日だけでもう百匹くらい戦ってるわよ、どうなってるの!?」
「ほらーお礼言わないとだめですよー」
「てか最後の魔法凄すぎねぇ?」
「高ランク冒険者かしらね?」
女三人寄れば姦しいとはこのことだろう、会話が止まらん。
「落ち着く、怪我してる人はいない?」
アイリスさんが宥めにかかる。
「擦り傷くらいなので、大丈夫ですー」
「わたしもっす」
「私も問題ありません」
「そっちの小鳥は?」
「ぴーちゃんも無事ですー」
「ピヨ」
怪我人はいないようだ。ただMP切れを起こしていたので、マジックバックからMPポーションを取り出し、全員に飲んでもらった。
「これで平気、他にこの辺りで人を見た?」
俺達は階層を四分割にして捜索を行っている。北東に当たるここが最後だ。
「さっき、奥の草原に向かってるパーティーを見ましたー」
「四人組だったっす」
「それ程強そうでは無かったわね」
もう一組居るみたいだ。それ程強そうじゃ無いってことは、様子を見に行かないとダメだろう。
「わたし達は様子を見に行く。ここで待機するか、ついてくるか選んで」
彼女たちだけで帰らせる選択肢は無い。帰還途中に襲われた場合、気付けない可能性が高いからだ。
「どうします?」
「ついてった方がいいんじゃね?」
「そうね。あのエルフの女性、とても強そうだもの」
相談は終わったらしい。
「ついて行かせてもらいますねー。ライアですー。あとこっちはぴーちゃんですー」
「ピヨピヨ」
「プロシネです。よろしくっす」
「タリアと申します。よろしくお願いしますわ」
個性強いな! おっとりした子がライア、体育会系ヤンキーっぽいのがプロシネ、ツッコミに回りそうなのがタリアか。
後、ピヨピヨ言ってる小鳥さんが可愛過ぎる。
「荷物の準備は良い? なら早速出発」
こうして一行は数を五人に増やし、保護対象の向かった草原へ足を進めた。




