11日目2 衝撃の事実
「中に入るぞ。渡り廊下から俺の研究室に行く」
自宅と併設されてるんですね、研究室。
家の中に入っていくアポロさん。俺も覚悟を決めて扉を潜る。
「お邪魔しまーす」
キョロキョロしちゃうよね。初めて入る人の家って。
「我が家は土足厳禁だ。スリッパに履き変えろ」
お、良いね。宿にいる時はベッドの上を除いて靴を脱がないから、なんか気持ち悪いんだよな。
出されたスリッパに履き変えながら、一足買おうかなと考えていると、
「おかえり。カケルも来た?」
少し寝癖のついた、普段よりラフな格好のアイリスさんが扉を開けて登場した。
ルームウェアであろう、水色のモコモコした服を上下身につけている。履いているスリッパは小狐のワンポイントが可愛らしく、フワフワ質感だ。
「おはよう。アポロさんに本を見せてもらう事になってね。ちょっとお邪魔するよ」
女の子の部屋着、リアルで初めて見た。出来るだけキモくならないように挨拶したけど、いけたか?
「――おはよう。わたしも後で行く。離れの研究室?」
「うむ。そうだが、今日は別に来ないでも良いぞ。例の本を見せるだけだ」
今日はね? いつもは来て欲しいのね?
「着替えたら行く。ゆっくり読んでて」
「おう、また後でな」
そういうと部屋に引っ込んでいくアイリス。アポロさんは少し苦い顔だ。
「ふん、こっちだ」
先を進むアポロさん。流石に追い出されないようで一安心だ。
二つ扉をくぐり、中庭に出る。渡り廊下を進んで研究室の前に到着すると、アポロさんは鍵を開けながら、注意を促す。
「中のモノは魔道具で保護しているが、くれぐれも丁重に扱え」
「勿論です」
返事をしてから中に入ると、研究室の壁一面には本棚が置かれ、本がびっしりと詰まっていた。古代の石板と思われるものや、謎の魔道具も沢山置いてある。
床にもいくつか本や書類が積み上がっていて、少しゴチャゴチャした印象があるが、想像する考古学者の研究室っぽくて、気分が盛り上がる。
「これが、無属性魔法に関する話が乗っている古代の本だ。適当に座って読め」
早速アポロさんが、当該の本を持ってきてくれた。俺は近くの椅子を引き寄せると、座って表紙を見る。
『 タカシの華麗なる人生 • 上 』
「タカシじゃねーか!!」
はぁ、なんだよ華麗なる人生って……。けど情報を得るためだ。仕方ない、読もう。
えーっと、何々? 俺の名前はタカシ。世界一の魔法使いである。
「自叙伝じゃねーか!! しかも自称世界一の魔法使いって……。はたから見ると俺も痛いのでは?」
気づきを得た。人前では世界最強になるなど、絶対に言わないようにするぜ。心で思うだけだ。
「本当に読めるのだな」
「え?」
魂選別空間の効果で、なんでも読めちゃうんだけど……。ってこれ日本語やん!言語理解で慣れすぎて、文字の形に意識がいかなかったわ。
「それは古代文字の一つでな。相当に深い言語の知識が無いと読めないのだが、お前バカだよな?」
言い過ぎだろ。普通に泣くぞ。そこそこの歳をした男が泣くのだ、怖いぞ?
「いえ、天才なので」
誤魔化すための一手、いけるか?
「は?」
無理でした。知ってた。
「まぁなんというか、故郷に同じ言葉を話す人がいたんですよ」
一億二千万人くらい居ました。
「それはどの辺りだ? 国の名前は?」
日本ですね。多分ですけど、次元の彼方っす。
「ええと……その……」
「どうした? 話せないのか?」
万事休すだ。もう全部話しちゃおうかなと自棄を起こしそうになった時、救世主が現れた。
「無理やり聞くの、良くない」
アイリスはもう天使なんじゃない? いつでも俺のピンチに駆けつけてくれるぜ。
「しかしだな。この様な阿呆が読める書物では無いぞ」
俺が馬鹿である事に、厚い信頼を感じる。
「カケルはそんなに馬鹿じゃない」
そんなに?
「ちょっとだけ」
うおおおおおおお毎日勉強するわ! これから毎日! 見返してやるわ!
「その顔を見ろ! 無理があるだろ」
「馬鹿の顔してるのかな!? さっきから言い過ぎじゃないかな!?」
「言い過ぎ、謝るべき」
そうだよなぁ! 流石アイリス。もうエンジェルと呼んだって良い。
「謝るのは別に良いが。結局この本を読める理由は聞き出すぞ? 国立考古学研究所のスパイかもしれんからな」
異議あり! スパイなんて出来るほど賢く見えるのか? 矛盾しているぞ!
「カケルはあんまり嘘をつかない。わたしが保証する」
おお、流石エンジェル。あまりってところは気になるけど、今までどんな嘘ついてたっけ。
「わたしの能力は、お父さんもよく知ってるはず」
能力!? 嘘を見破る魔法でも持ってるのかな? 今度からはウソはやめよう。
「――その話、まだしてないんだろう? 本当に信用しているのか?」
「今から、話す」
今明かされる衝撃の真実……? 茶化す雰囲気でも無くなって来ているが、君たちは俺のことをバカ扱いした直後だからね。
振り返ったエンジェルが俺の目を見つめてくる。
「エンジェルはやめる」
「すまん」
って俺声に出してたのか? いよいよヤバい奴かもしれない。気をつけよう。
「カケルは声に出して無いし、そんなヤバくない」
……これ、もしかして、頭で考えてることバレてます?
「そう。初めて会った時から、思考を読んでる」
まじかよおおおおおおおお俺どっかで凄い事考えてない!? アイリスと会ってから十日くらいだけど、若さ持て余して無い!? 恥ずかしい! 穴があったら入りたい!
「カケルは基本的に前向きで、ひどい事も考えてなかった。お父さんに蠍を食べさそうとしたくらい。それより……」
アイリスが、真っ直ぐ頭を下げた。
「ごめんなさい。わたしは誠実じゃなかった。思考をよんで、ズルをした」
アイリスが謝っている。正直めちゃくちゃ恥ずかしくはあるし、最初に一言欲しかったのも事実だ。
だが彼女なりの理由があるのかもしれない。
何を思うにも、まず情報が足りてないな。
「今から、魔法を使って思考を読めない様にする」
アイリスは紙に描かれた魔法陣を取り出し、それを自身の額に当てた。
「アクティベイション」
そう唱えると魔法陣が光り出して、粒子がアイリスに吸い込まれた。
「これで、誰の思考も流れてこない」
つまり、今は何を考えても問題無いということか。うおおおおおうんこ!
「お前、くだない事を考えているな?」
アポロさんが言いがかりをつけてきた。まぁ、事実なんですけど。
「これから、全部説明する」
「アイリス!」
「カケルは仲間、聞いておく権利がある」
「しかし、俺に蠍を食べさせようとした男だぞ」
話そうとするアイリスと、止めるアポロさん。
蠍はアイリスの案だから、根に持つのやめて。
うーん、アイリスが真面目に話そうとしてくれているんだ。パーティーメンバーとして、友達として、聞いておきたい。
「わかった。話を聞くよ」
「うん、ありがとう。長くなるからリビングに行く。お茶も淹れる」
そうして読書もそこそこに、アイリスの話を聞くためリビングに移動する事となった。




