7日目3 一層攻略とランクアップ
アイリスの後ろを歩くこと数分、俺たちは目的地である湖に到着した。
「おー、小さいって聞いてたけど、想像よりでかい」
湖というモノを舐めていた。一周まわれば一キロ以上はあるんじゃないか?
「一層にいる魔物の水源のひとつ。だからここで狩りをする人も多い」
湖の畔には、二十組近いパーティーが見える。森から魔物を釣って狩りをしていたり、火を焚いて食事の準備をしていたり……テントを張ってバーベキューをしてる人達もいる。
「キャンプかな?」
優雅すぎる。お前らの手に握られたカップ、お酒じゃないだろうな!
「あそこ空いてる、場所取りして休憩」
人の少ない場所にシートを広げ腰を下ろし、一息ついた。
「お弁当だして」
「はいよ」
俺は周りに見られないように、背嚢から出すふりをして、アイテムバックからお弁当を二つ取り出す。
「あったかい。最高」
「せやな」
実は昨日の内にアイテムバックをアイリスに渡しておき、エレクトラさんに作って貰ったお弁当を収納してあったのだ。
「この茄子の煮浸し、めっちゃうまいな」
「うん、こっちのカラアゲもおすすめ」
「ほう……」
あ、うまい。サクッと楽しい食感。滴る肉汁がジューシーで、口の中に旨味が広がる。醤油ベースの味にニンニクや生姜の風味も感じる。お米が進むぜ。
そうそう、異世界モノで定番のお米や醤油探しだが、必要無かった。過去に日本人と思わしき人が各国で熱心に伝えたらしく、ここクラウド王国でもそれなりに普及している。流石にメインは麦製品だけどね。
「ちょーうまいな」
「うん。これから毎日、ほかほか弁当」
普通にうれしい。エレクトラさんの作るお弁当、日本的なレパートリーで凄いホッとする。
ワイワイと話しながら食事を進め、
「ごちそうさまでした!」
「……ごちそうさま」
大満足な食事を終え、狩りに戻る。
「私が釣ってくるから、この場で待機」
「かたじけない」
問題ない、と返事を残してアイリスが森の中に消えて行った。
一人になり周りを見渡してみると、全体的な年齢層の低さが目についた。二十歳を超えていそうなのはバーベキューをやっているパーティーのみで、他は十六歳前後だろう。
「どれだけの人間が十年後も冒険者をやってるのかな……」
冒険者のランク分布は、F10%E20%D35%C25%B9%A以上が1%程度で推移している。Dランクまでは規定の条件をクリアすれば上がれるが、Cランク以降は試験が必要になる。上位ランクの冒険者になれるのは、ほんの一握りなのだ。
「皆元気にやれてると良いな」
少し感傷的な気分で思考に耽っていると、森からアイリスが、魔物を引き連れ飛び出して来た。
「連れて来た、森に背を向けて魔法を撃つ」
「りょうかい!」
感覚がぐっと現実に引き戻され、身体に熱が入る。
アイリスが連れて来たのは、今日初戦で戦ったグリーンベアーだ。あの時は魔力を込め過ぎていた。
森側に走りながら、今回は適切な量になるよう神経を尖らせる。
「いくぞ! ファイヤーアロー!」
配置についた俺は、通常の三倍程度の魔力を込めて魔法を放つ。その狙いは正確にグリーンベアーの頭を捉えていた。
「ヴォオオオ」
咆吼をあげて倒れるグリーンベアー。やったか!?
フラグを立ててみたものの、倒れたまま動かない。
「うん、いい魔力量。狙いも完璧」
やったぜ。しかし弱点属性って凄いな。Eランクに分類されるグリーンベアーが、初級魔法で一撃とは。
ファイヤーアローは消費魔力が低く、MP2で使える魔法で、三倍込めてもMP6だ。非常に燃費が良い。
「ゴブリンは属性が無いから相性を気にしないで良かった。このダンジョンからは意識する」
「了解。戦う場所さえ選べばかなり有効そうだ」
その殆どが森、それ故に火魔法は使いづらいが、うまく工夫してやっていこう。
「一回層にいる魔物の種類は後二種類。ブラッディキャットとフォレストラット」
資料室の本にも載ってたやつだな。
「この二匹は隠れながら奇襲をかけてくる。カケルが前を歩いて警戒の練習」
という事らしい。俺たちは荷物を背負い直し、湖から離れていく。
「警戒のコツってあるか?」
「んー。自分ならどんな所で奇襲するか、考える」
俺ならか。木の影に隠れるなんてのは安直過ぎるし、後ろから忍び寄ろうにも、落ち葉を踏む音は誤魔化せないだろう。
森は薄暗く、木の葉や枝の揺れる音はいつでする。ということは……。
「上っ!?」
何かが飛びかかってくる気配に気づき、咄嗟に身を屈める。次の瞬間、キャン! と矢を放つ音がし、上から襲いかかるブラッディキャットを射抜いた。
「び、びっくりしたぁ」
肝が冷えたぜ。しかし飛びかかってくる大山猫サイズの魔物を一発とは、すごい。
「上からと気づいたのは良かった。ただ考えてる時、警戒が疎かになってる。要注意」
うーむ、考え込むのが悪い癖だ。集中しよう。
気合いを入れ直してからの狩りは、順調だった。フォレストラットも早々に見つけて倒したぞ。木に穴をあけて、奇襲のため待機をしてるところを、逆に奇襲してやったぜ。
他の魔物に対しても、魔法を外すことはあれど、安定して狩れた。込める魔力量を最少にして、刀で止めを刺したりもした。
長いこと歩いてると採集対象もそれなりに見つけ、MPポーション向けのキノコだと思って採取しよとしたら、毒キノコだと注意を受けたりもしたな。
途中休憩を挟みながらも狩り続けること五時間ちょっと、狩りの終わりをアイリス先生が宣言した。
「今日はここまで、一層はもう大丈夫。明日は二層」
「ういー」
ふぅ、相変わらず超疲れるぜ。ここ二年は運動なんて学校の授業以外、して無かったからな。
筋肉痛はヒールで治せるとはいえ、超回復で筋肉が大きくなるのを阻害してしまうから、出来る限り使いたく無い。
「戻る、あっち」
正直今どこら辺にいるのか、かなり怪しい。一応、気をつけて周りをみてたんだけど……要訓練だ。今はついて行こう。
ロッジで帰還報告をし、無事に乗合馬車の席も確保して、十九時にはギルドに帰る事が出来た。
今は薬草とグリーンベアーの胆嚢、MPポーションになる活力茸というシイタケみたいなアイテムを、常設依頼として納品する手続きをしている。
今日はカインさんが居なかったので、ふくよかなおじさん受け付けの列に並んだ。
「アイテムはこちらの木簡と共に、買取カウンターにお持ちください。納品が終わり次第、クエスト完了になります。本日中にランクアップされる場合はお手数ですが、もう一度こちらの受付までお越しください」
ということらしい。
「行こうか」
「うん」
若めのお兄さんが担当する買取カウンターで、今日確保したアイテムと魔石を出すこと、三分。
「こちらの買取で23400ラウになります。こっちが依頼完了の証明になる木簡です。先ほどの受付で担当者に渡すと、今日中にランクアップが可能になります」
やっぱ収集アイテムあると収入が全然違うな。お金の余裕は心の余裕だ。
ありがとうござましたー。と互いにペコペコ挨拶した後、
「これ、お金半分。今からランクアップしに行くけど、先に帰るか?」
と確認を取ると、
「パーティーメンバー、当然見ていく」
という事らしい、嬉しい事言うね!
先程のふくよかおじさんのところへ戻り、木簡とギルドカードを提出すること、およそ二分。
「ギルドカードの更新手続きが終了しました。ランクアップ、おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「カケル、おめでとう」
「ありがとう、アイリスのおかげだ!」
今日俺は、異世界で一歩前進した。アイリスを筆頭に、多くの人々に助けられて。
人の本質は言葉ではなく行動に出るという。だからこそ俺は、これからたくさんのモノを返して行く。
「今日はお祝い。三十分くらいだけど、酒場で乾杯」
時計の針は十九時二十分を差し示している。アイリスの門限まで後四十分だ。
「よし!じゃあ急いで席の確保だ!」
「そうする」
この日、この短い時間にワイワイとはしゃいだ事は、一生忘れ無い。
そう思えるくらい、胸がいっぱいになる時間だった。




