6日目 勉強会
異世界生活六日目。現在資料室でアイリスと並び、勉強中である。
人によっては胸高鳴るシチュエーションなのかもしれない。だが俺たちは、至極真面目に勉強している。
本を取ろうとして手と手が重なるような、嬉し恥ずかしのハプニングなど起きる筈もなく。無言で。
なので勉強の成果をお伝えしようと思う。勉強していたのはE級森林ダンジョンについて。
まず、E級なんてF級ダンジョンと大して変わら無いだろうと思っている貴方、俺もそう思っていた。しかし調べたところ、思ったより難易度が上がりそうだ。
四人パーティーを基準にした時、F級ゴブリンダンジョンのクリア適正レベルは十五だった。しかしE級森林ダンジョンは二十五レベルに設定されている。
それだけ魔物も強くなるという事だ。
階層の数もゴブダンが五層だったのに対して、森林ダンジョンは十層もある。広大な森林型フィールドらしいぞ。
七層以降は、状態異常を振り撒くトラップ植物も出現するようで、苦戦は必至だ。
魔物は動物系、昆虫系、植物系が出てくる。こちらも状態異常に注意しないといけない。
とはいえ悪い事だけでは無く、このダンジョンにはHPポーションの材料になる複数の薬草や、MPポーションの材料になるキノコ類、毒消しや麻痺治しの材料も自生? しているらしい。
狩り尽くす勢いで採取しても絶滅はしないらしいが、しばらく出現数が減るようだ。乱獲ダメ、絶対。
最奥のボスは複数のトレントが出現し、撃破のボーナスはDex+3
適正レベルのパーティーが攻略する場合、野営の練習も兼ねて泊まりがけで攻略するのが推奨されているが、俺らはどうするのかね。後でアイリスと相談だ。
その他にも出現する魔物の特徴や弱点、美味しい素材、休憩に向いてるポイントなど、ダンジョンを丸裸にする勢いで調べ、午前中を過ごした。
昼になり勉強を終えると、食事をしに酒場へ向かう。
「んー! 疲れた!」
アイリスと共に酒場のテーブルにつき、体を伸ばす。背骨がポキポキいうとるでぇ。
「うん、けど有意義だった」
確かに。何も調べずに挑んでいたら、ゴブリンダンジョンとのギャップに苦しんでいたはず。一ランク違うだけなのになぁ。
俺はメニューにオススメと書かれたクリームパスタとコーヒーを注文し、アイリスと会話する。
「アイリスは確か八層まで攻略済みなんだよな? どんな感じなんだ?」
先人に学びたい。
「森が深くて方向感覚が狂いやすい。細かい現在地の確認が必要」
聞くところによると、八層まで日帰りで攻略していたみたいだ。十九時の門限を守るためにそんな攻略の仕方をしていたらしい。
と、ここで注文が届く。
「お待たせしました。季節のきのこクリームパスタとコーヒー、エビグラタンとオレンジジュースになります」
日本のファミレスみたいなメニューだ。絶対こっちの食事に、地球人の手が入ってるね。
「あ、どうも」
食事を受け取り、アイリスとの会話に戻る。
「俺たちはどうする? やっぱ日帰りで頑張るか?」
多少移動の手間はかかるが、十五の娘を持つ親の気持ちを考えれば、妥当かもしれない。
「一泊出来るか交渉する。けどお父さんの許可が取れないと思う」
うん、俺もそう思う。別にダンジョン攻略RTAをしたいわけでも無いし、問題無いね。
「ごめん」
「気にするな。ゆっくりやれば良いさ。むしろアイリスのお陰でゴブダン攻略とか超はやかったしな」
トータルで言えばめっちゃプラスだ。一泊しないということは、夜には公衆浴場に行けるという事でもある。わるくないぜ。
アイリスがしょんぼりしてるので、話題を変える。
「森林ダンジョンは、四人攻略の適正レベルが25らしいけど、一人で攻略してたんだろう? アイリスは何レベルなんだ?」
なんと無く聞いてこなかったやつ。私、気になります!
「うん? 52レベル」
「たっか!」
まだ俺の倍以上あるじゃん。冒険者初めて一ヶ月の十五歳で? どういうことなの。
「ここ数年、お母さんに色々なところへ連れてってもらった。しぬかと思った」
英才教育を施されていたのか。アイリスの鬼軍曹っぷりはエレクトラさん直伝かもしれない。
「蠍を食べさせられたときは、少しきらいになった」
「すごい事させられてるね!?」
一応カニとかエビに似た味らしいけど、見た目がやっぱきついよ。
「今度カケルにも食べてもらう」
「嫌だ! 憎しみと悲しみの連鎖を断ち切って!!」
食べなきゃ死ぬ状況になるまで、断固拒否だ。
「お父さんにも、食べさせる」
「それは良い案だ。すぐやろう」
アイリスの素晴らしい決断に拍手を送りたい。俺の安眠を妨げた恨みだ。じっくり味わいたまえ。
「と、話が逸れたな」
アイリスのレベルの話が蠍を食べる話になるとは、予想外だった。
「アイリスがそのレベルなら、二人でも余裕かな?」
「大丈夫。人が増えると安全だけど、経験値と収入は減る」
昨日のダンジョンアタック、一人2700ラウしか稼げ無かったからな。宿代二日で2000ラウ、風呂代二日で600ラウ、今食べてる飯代を合わせると、完全に赤字だ。
冒険者は危険と隣り合わせ。何かあった時に備えて、貯蓄が欲しい。
「明日は一層で採集と狩りをする。今は魔法の練習」
だそうだ。残っていたコーヒーを飲み干し、訓練所に向かう。
風魔法の使い方や注意点を教わった後、アイリスとは別れ、街中で完結する依頼をこなした。
FランクからEランクへの昇格条件は、十個の依頼達成と十五レベル、Fランクダンジョンを一つクリアする事の三つである。
依頼をこなせば昇格出来ると思えば、重い荷運びや外壁修理の手伝いみたいなキツイ依頼でも、モチベーションを保って望める。
今日は依頼を四つ達成した。残り三つ依頼をクリアすれば昇格出来るところまで漕ぎつけたぜ。
森林ダンジョンに行けば薬草採集クエストなんかも達成出来るだろうから、明日にはEランク冒険者かもしれない。
宿に戻った俺は少しワクワクしながら、翌日に備えて体を休めた。




