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1日目1 こんにちは異世界

 目を開くとそこは、鬱蒼とした森の中だった。じめっとしていて若干蒸し暑い。


 慣れ親しんだ日本の森とは一目で違うとわかる草木花。海外の森を見た時に覚える違和感、ソレ以上のモノを肌で感じて、ここが地球では無い場所だと実感する。


「やって来たぜ、異世界」


 態々声に出したのは、薄暗い森の中に一人で居る事に気付き、不安に襲われた自分を奮い立たせるためかもしれない。


「神さまは近くに町があると言っていたけど」


 どっちに行けば良いんだ? スタート地点から見えないとは聞いていなかった。


 鋭敏な嗅覚があれば、人々が生活を営む匂いから町を見つけられたのかもしれないが、拒否したのは自分だ。後悔はしていないぞ!


「とりあえず町を探そう」


 歩き始めた俺は、神さまとの会話を思い出していた。


 言語理解は人々と出会うまで機能しないとして、魔法は使えるのだろうか?


「ファイア!」


 ――特に何も起こらない。今度は魔法を強くイメージして唱えてみる。


「アイスニードル!」「雷よ来れ!」「ニフ◯ム!」「ヨ◯フレイム!」


 当然不発だ。魔法の発動条件を神さまに確認するべきだった。


「ていうかステータス見てないじゃない」


 異世界ものでは、ステータスのスキル画面から取得する事で、魔法を使用出来るようになるものも多い。


「ステータスオープン!」


 ――違うか。


「メニューよ開け!」


 駄目そう。


「ウィンドウ表示!」


 特に反応は無い。


 暫く思いつく限りウンウンと念じていたが、これといって成果は無かった。


「後は鑑定とマジックバックか」


 自分の体を見下ろしてみる。ブレザーの外ポケットが少し膨らんでいる事に気付いて探ると、某猫型ロボットのポケットをベージュに染めて、小汚くしたような袋が出てきた。


「多分これだよな、鑑定!」


 どうせならと、鑑定を使ってみる。すると体から何かが抜け出て行く感覚が有り、目の前にホログラムの様な形で情報が浮かんだ。


 魔法袋マジックバッグ。容量 四十五リットル

 

「ゴミ袋かな?」


 いやまぁ全然ありがたい。何故に四十五リットルなのかは疑問だが、これさえあれば旅が楽になる事は確かだ。収納物の時間も停止すると言っていたしな。


「あとは道中鑑定しながら町や道を探そう」


 もしかしたら使えば使うほど熟練度が上がるタイプの世界かもしれないからな!


 そう思い近くにある野草に鑑定をかけてみる。


「鑑定」


 草


 ん?え、俺煽られてる?


「鑑定」


 木 まごう事なき木


 まじかよ……。


「鑑定!」


 枯葉 枯れちゃった葉


「もう一度鑑定!」


 土 草生える


「馬鹿にしてんのか!!」


 そういえば説明の時に、神さまが持つ知識限定って言ってたっけ。


 つまりなんだ、この星の植生に関する知識とか一切無いのかな?


「しょうもねえ……」


 俺は凹みながらも一縷の望みにかけて、初めて見るモノに手当たり次第鑑定をかけながら、町を探し歩く事にした。


 十五分ほど道なき森の中を進むと、石畳の街道に出た。


「やった!」


 石畳の街道は古代ローマの時代から続く歴史ある道だと授業で習った。排水性のために下にジャリが引いてあったり、排水溝があったりするあれだ。


「うおおおおお! 道!」


 いかん、文明を感じてテンションが上がってしまった。街道があるという事は、管理する人が居るという事だ。


 森の中を彷徨っていたのは三十分にも満たない。たったそれだけの時間で心のリトル古昌カケルが寂しさを覚えていたのだろう。


「お、あっちかな?」


 街道の続く先を見ると、徒歩で二十分くらいの距離に、ぐるっと外壁に囲われた沢山の屋根が見えた。


 辺りには穀倉地帯が広がり、町の近くには川も通っていて、船が繋がれている。


「じゃあ行くか!」


 俺は足取り軽く、神さまが言っていたであろう町に向けて歩みを進めた。

 

 町の門前に到着すると、そこには二十人ほどの人が列をなしていた。

 様子を伺うと、統一された革鎧を身に纏った衛兵が積荷のチェックを行い、来訪理由を尋ねるなどの検問をしているようだった。


 門番さんかな? 鑑定結果は人である。ぶっ飛ばすぞ。


「ようこそ、ブラウンの町へ」


 検査を通過した商人が、歓迎の言葉を受け中に入って行った。


 おお、言葉めっちゃ解るやん! 凄いぜ謎空間機能!


 この検問、簡単な受け答えで町に入れているあたり、それほど厳しくは無さそうだ。


 だがしかし、町に入るのにお金を払っているではないか!! なんという事でしょう。着の身着のまま来た俺は、この世界の貨幣など持ち合わせていない。


 やばい。これ町に入れないどころか、最悪捕まるのでは?

 町の周りが開けていて、遠くから情報収集を出来なかった事が悔やまれる。鋭敏な聴覚さえあれば……いや後悔などしてませんよ!


 今更列を離れて行こうものなら、怪しさ倍増だろう。それでなくともブレザーの制服を着てる影響か、チラチラ見られているというのに。


 くっそ、なんか持ってないか! そう思ってブレザーの内ポケットを探ってみると、毎朝優しく起こしてくれるスマホと、財布が出てきた。


 興奮して手荷物のチェックすら怠っていたのである。スマホの電源が何故か入らないのを確認しつつ、


「所持金を両替しててください。神さま……!」


 祈るように財布を開く。願いは神に届き、財布に入っていた一万二千円は、見事に謎の硬貨へ変わっていたのである!

 元々自分のお金ではあるのだが、それでも感謝だ。


「ありがとう神さま!」


 初めて有能だと思ったかもしれん。いや失礼すぎる。教会とかあるなら今度お布施しに行こう。稼げるようになったらだけど。


「次の者!」


 来たぞ俺の番。


「はい!」


 緊張しながら前に出る。


「ふむ、一人かね?若いのに仕立ての良い服を着ているが、貴族のご子息でも無さそうだし、商家のお子さんかな?」


 護衛もなく徒歩で並ぶ俺に、厳つい衛兵のおじさんが自身の所感を述べ、質問してくる。


 テンパった俺は無難に返答しようとして、曖昧な言葉を吐いてしまった。


「そうとも言えますし、そうでないとも言えます」

「は?」


 父親は物の売買で生計を立てている。はっきり言えば八百屋である。つまり商人と言っても良いのでは無いだろうか?

しかしこの玉虫色の回答、目の前の衛兵の方には大変不評そうだ。


「いえ、野菜を売って生計を立てていました」


 圧を感じた、怖いぜ。


「つまりこのあたりの農村の者か?」


「ええと、この辺りに住んでいた事はありません。かなり遠くにある所から、冒険者になる為に来ました」


 嘘は吐いていない。というかこの手の異世界で安易に嘘をつくのはまずい。嘘発見器系の魔法や魔道具などがあれば、あれよあれよと牢獄行きになったりするのだ!


「かなり遠く……それはどの辺りだ?この国か?」


 当然の様に詰めてくる。しかし俺はこういう時にすべき返答をオタク知識で学び、アレンジした回答をもっている!今こそ見せる時!


「この国では無いと思います。正確な方向も分かりませんが、我々は大村と呼んでいました。結構な田舎ですよ」


 大村市出身、古昌カケルです。日本という括りでは結構田舎の方なはず。


「ふむ。遠くから来た割に荷物も少ないし、仕立ての良い服を着ている。靴も擦れておらず、汚れも僅かだが、何か隠していないか?」


 どうしようコレ、捕まるんじゃないかな?

 いや、今こそ不屈の闘志を見せる時だ。一度落ちると地獄の底まで落ちるのが異世界転生なのだ。俺は詳しいんだ。


 焦りに焦った俺は、こうなったらとゴリ押してみる事にした。


「人間、誰にだって少しの隠し事はありますよ!というかそれ程悪人に見えます!? カケル君は良い人だと思うけど……と言われた事もあるんですよ!?」


「え?あぁ。そうだよな」


 気まずそうにするのやめなよ。


「ちょっと待っていなさい」


 軽く引き気味の衛兵さんは近くの詰所と思しき建物に入ると、大理石のような石板を持ってきた。


「そしたら、この石板の上に手を置いて、この町に来た目的をもう一度言ってくれ。犯罪歴の有無と、この町で悪事を働かない宣誓もだ」


 俺は少し緊張しながら手を置き、本当のことだけ口にした。


「私は遠くから冒険者になるためにこの町に来ました。犯罪歴は有りませんし、これからも罪を犯す気はありません!」


「良し、嘘はないようだな。外部からの入域料は1000ラウだ」


 初めからその石板出してよ! 少し心に傷を負いながらも財布から1000と刻印された銀貨を一枚取り出して衛兵さんに渡す。


「ようこそ、クラウド王国ブラウンの町へ。まあなんだ、頑張れよ」


 なんて風に励まされながら、異世界初めての町、ブラウンへと入るのだった。

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