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5日目3 初のボス戦

 休憩も終わり、いよいよ移動を開始する。俺が先頭を歩き、アイリスが後ろに就く形だ。

 俺は注意深くあたりを見渡し、索敵しながら進む。


 索敵や探知スキルは100万ラウ以上する。低ランク冒険者には高価なスキルなんだよね。


 ダンジョンの魔法書でしか入手出来ないので、低ランク冒険者は自力で行うのが普通で、習得しようものなら大人気の人材になるだろう。


「そこは左」


 目的地があるようで、アイリスのナビに従いながら歩いていく。しばらく進むと、魔物が壁から産まれる現場に遭遇した。数は四体。


「アイリス!」

「うん、ファイヤーアロー」


 たった一度の詠唱で、ゴブリンアーチャーとゴブリンメイジを倒している。やはり強い!


 俺は残された二体の相手だ。最初は仲間が倒された事に驚き、戸惑っているようだったが、直ぐに落ち着きを取り戻してホブゴブリンは石斧を、ゴブリンシーフは石のナイフを構えて襲いかかってくる。


「先手必勝、ファイヤーボール!」


 魔法をゴブリンシーフに向かって放つ。倒せないにしても、相手の足並みを乱さないといけない。俺の体は一つしか無いのだ。幸い火球ファイヤーボールゴブリンシーフに命中し、倒れて痛みに喘いでいる。


「今のうちに、お前を倒す!」


 俺はホブゴブリンに向けて走り出した。下段に構えた刀を上段に構え直し、ホブゴブリンに振り下ろす。


 キンッ


 甲高い音を鳴らし、斬撃は斧で受け止められてしまった。しかしそんな事は想定済みだ。


「ファイヤーアロー!」


 近距離で火の矢を放つ。回避不能な距離で、膝に向かって放たれた魔法は、ホブゴブリンを跪かせた。


 下がった首に刀を振り下ろす。断たれた首から返り血が飛んでくるが、無視して走った。

起きあがったばかりのゴブリンシーフの元へ駆け寄り、喉を一突きする。引き抜いて距離を取ったところで、戦闘終了だ。


「疲れた……」


 短い戦闘だったが、やはり初見の敵は精神的に負荷がある。


 ゴブリン達が沈黙したのを確認し、アイリスがゆっくりと近づいて来た。


「がんばった」


 おお、褒められたぞ! しかしアイリス先生は飴と鞭の達人、ここで油断してはいけない。


「わたしが倒したみたいにアーチャーとメイジを処理出来るなら、再現性のある戦闘」


 たしかに、戦い方見られてない限りは、同じ方法で倒せるかもしれないね。


「最初のファイヤーボールも、もう少し魔力を込めれば倒せてた」


 魔法だけで倒せりゃもっと楽だったもんな。ホブゴブリンとの戦闘を急ぐ理由も無くなるし。


「概ね満足、次は三匹」


 始まった! 鬼教官アイリスによるスパルタ指導が! こうして俺はゴブリン狩りに精を出す事になった。

 四匹を安定して狩れるようになったころには、お腹も魔力もギリギリまで減っていた。


 アイリスが所有する魔道時計で、十五時過ぎである事を確認すると、五層のボス部屋前で、食事と休憩をとる事にした。


 ボスにも挑むぞ! 五層は上から見るとコケシみたいな形をしていて、ちょうど頭の部分がボス部屋になっている。


「ボス部屋って結構並んでるんだなー」


 エレクトラさんが作ったサンドウィッチを頂きながら、前方の列に目を向けた。


 同じダンジョンのボス部屋には、一週間に一度しか挑めない。それでも七組ほどのパーティーが列を作り、それぞれの方法で時間を潰している。

 階段とボス部屋の前は例外的に魔物が生まれず、ボス部屋から外に出て来る事も無いので、安全に過ごせるのだ。


「うん。人気のあるダンジョンは、こんな感じ」


 人が多いと互いに助け合える。命の危険が少ない反面、無駄な時間が発生してしまうのは、トレードオフなんだろうね。


 アイリス先生に様々な質問をして時間の有効活用をしていると、一組のパーティーがボス部屋から出てきた。


「ふぅ、無事終わったな。そろそろ俺たちも森林ダンジョンに行くか?」


「そうね。レベルも十分上がったし、いいと思うわ」


 お、あれは同じ宿に泊まっている、快活な赤毛のリーダーアベル君のパーティーじゃないか!


「森林ダンジョンなら採集物もあって収入も増える。こっちはボスも倒したし、いいんじゃないか」


 流石冷静な判断をしそうな……何君だっけ? 黒髪くん。忘れてしまって申し訳ない。


「ここは今日で狩り納めね。帰って乾杯しましょうか」

 あっちは多分ヒーラーな……セイラちゃん! 思い出せたぜ。


 皆んなお疲れ様だ。俺も近いうちに森林ダンジョンに行くよ。俺のことは知らないだろうけど。ふふふ。


 そんなことを一人考えていると、アイリスにじっと見られていることに気づいて、居心地が悪くなり、視線を逸らした。


 そこから一時間後、とうとう俺たちがボス戦に挑む順番がやって来た。

 今まで挑んだパーティーは全組討伐に成功している。青年二人組も突破していたから、人数を言い訳にも出来ない。ちょっと緊張だ。


「じゃあ行く」


 この一時間の間で、作戦立ては済んでいる。後は実行あるのみだ。そしてその作戦とは……。


 部屋に入ると扉が閉まる。閉まりきった直後、部屋の中央にゴブリン十匹、ゴブリンアーチャー四匹、メイジ二匹、シーフ二匹、ホブゴブリン三匹、そしてボスのゴブリンリーダーが一匹出現した。総勢二十二匹の大所帯だ。


 俺は事前に決めた作戦を遂行する。


「ファイヤーアロー! ファイヤーアロー! ファイヤーアロー!!」


 俺は魔法を連射した。相手からも魔法や弓矢が飛んでくるが、アイリスが魔法を使いレジストする。そう、このゴリ押しが作戦なのだ。


 流石に二十二匹に囲まれたら、俺の能力では厳しい。故にマジックポーションを飲みながら魔法連射。


 かつてない程しょうもない作戦だが、飽和攻撃こそ最もシンプルにダメージを与える手段なのだ。すまんなゴブリン。


「ファイヤーボール! ウォーターボール! ファイヤーアロー!」


 数十発も撃ち込んでいると、ゴブリン達が目に見えて減って来た。ボス部屋の敵は倒すと消える。なのでトドメを刺した後に戦闘の邪魔になることがない。多分次の挑戦者に対する神様の配慮なんだろう。


 そこからさらに連射していると、立っている魔物が一匹だけになっていた。


「ゴブリンリーダー、魔法防御力がちょっとだけ高い。接近戦推奨」


 なるほど、このダンジョンの終わりは一騎打ちらしい。俺が刀を構えると、ゴブリンリーダーも短剣を構える。


 走り出したのは俺だ。あれだけ魔法を撃ったのだ。多少魔法防御力が高いとはいえ無傷なわけがない。回復される前に、一気に倒す。


「フッ」


 ゴブリンリーダーより、俺のほうが武器も腕も長い。相手のレンジ外から、袈裟斬りに刀を振るう。


 カキンッ


硬い手応えに手が痺れた。剣を下から斬り上げて、迎え撃ったらしい。


「やるじゃないか」


 言いながらも一文字に刀を払うが、こちらは大きくバックステップして避けられる。追って突きを放っても剣で上手く逸らされた。その後も幾らか斬撃を浴びせたが、上手くいなされる。


 単純な攻撃じゃ埒があかない。俺は魔法使いだ。刀だけで勝とうなんて、初めから思っていないさ!


「ファイヤーボール!」


 火の玉が三メートル先に居るゴブリンリーダーに飛んでいくが、近距離にもかかわらず、避けてみせた。


「ファイヤーボール!」


 続け様に同じ魔法を放つと、ゴブリンリーダーは大きくサイドステップをして魔法を躱わす。


「ファイヤーボール!」


 次の一撃は跳躍して回避を試みた。


「――ファイヤーウォール!」


 その放物線を描くゴブリンリーダーの着地地点に、フォイヤーウォールを設置する。


「ゴアアアア」


 焼かれる痛みで叫び声を上げるゴブリンリーダーに、刀を構えて斬りかかる。


「はああああ!」


 ザクッ!


 肉を断ち切る手応えの後、ゴブリンリーダーが光の粒子となって消えていった。部屋の中央に宝箱が出現する。


「ふぅ……」


 結構頑張ったんじゃないか? 俺の攻撃はまだ選択肢が多くない。避けられないように攻撃をするには、工夫がいる。今回はうまくやったと思う。


「いい組み立てだった」


 今日はめっちゃ褒められる日だ。鼻高々である。


「余韻もわかる。けどはやく部屋を出ないと迷惑」


 そうだった。俺たちの後にも人は並んでいるんだ。


「急いで宝箱を開けちゃおう。何が入ってるかなー」


 初のボスドロップ。期待で胸いっぱいだ。宝箱の前に移動して、アイリスに確認する。


「開けていいか?」

「良い」


 うし、オープン!

 蓋を開くと、そこには二本のMPポーションに、複数の小さな魔石と、一冊の本が入っていた。魔石はゴブリン達のモノだろう。それよりも……。


「魔法書!?」


 期待に胸が躍る。手にとって表紙を見ると、風属性の、初級基礎魔法書だった。五千ラウ相当か、悪くはないのか?


「Fランクダンジョンでは当たりの方。カケルが読むと良い」


 へえー、当たりなのか。アイリスは習得済みだし、有り難く読ませて頂こう。宝箱の中身をマジックバッグに仕舞うと部屋を出る。


 外に出ると新しく並んでいたパーティーが、ギョッとした顔でアイリスを見ていたが、何だったんだろうな。

 アイリスは気にした風も無く、脇を通って上の階層に向かうので、俺もついていく。


 そのまま無事脱出をして、俺の初ダンジョンは無事クリアで終われた。キツいところもあったが、充実した一日だった!

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