5日目2 初めてのダンジョン
建物の奥にある扉を抜けると、そこには洞窟が広がっていた。
「ここがゴブリンダンジョン。洞窟型で五階層。罠は無い。下の方が広くなる」
ということらしい。まだ入ったところだが、岩の壁がほのかに光っていて、中がよく見える。
入り口は広く、何組かの若い冒険者が、休憩しながら談笑していた。
洞窟の道幅は五メートル程ある。武器は振り回しやすく逃げやすい。F級《ランク》ダンジョンらしく、初心者にも優しそうだ。
「結構広いんだな。五層しかないっていうから、小さいもんだとおもってたわ」
ゲームでは一番初めのダンジョンって大概狭いからね。
「繁殖力が強い魔物のダンジョンは、広い傾向にあるらしい。お父さんとお母さんが言ってた」
はえー、流石学者さんと元Aランク冒険者。知識が豊富だ。
「出発する。他所の獲物には、助けを求められるまで手を出しちゃだめ」
横殴り禁止ってやつか。昔のネトゲには良くあるマナーだったみたいだぞ。
「了解、じゃあ出発!」
そんなこんなで歩く事五分。沢山の人とすれ違ったが、フリーのゴブリンとは出会わない。
こんなんでレベル上げになるのだろうかと不安になっていると、突然アイリスが足を止めた。
「あそこ、ゴブリンが出てくる」
アイリスが指し示したのは、少し膨らんだ壁。なんだろうと思って見ていると、その壁からニュルっとゴブリンが産まれてきた。
「こんな風に産まれてくるのか!」
ゴブリンが起き上がり、こちらを見据える。
俺は刀を構えて、ゴブリンを警戒だ。
「魔法禁止。カタナで倒す」
マジで? まぁレベルも上がってるんだ、いけなくもないだろう。
じりじりと距離を詰めて、出方を伺っていると、ゴブリンが両手を振り上げて襲いかかってきた。
「ギャウ!」
振り下ろす腕を、落ち着いて躱して首に一太刀。
たったそれだけで決着がついた。
「うん、わるくない」
アイリス先生のお褒めの言葉? も出た。サイクロプスとの戦闘が、俺に自信を与えてくれているのだろう。一昨日戦った時より、ゴブリンの動きがゆっくりに見えた。
「カケルはステータスがあがってる。前よりスローに見えたはず」
自信うんぬんじゃなくて、本当に遅く見えていたようだ。恥ずかしい。
「一層は基本的に今のゴブリンしか出ない。魔石だけとって、二層に行く」
ダンジョンの魔物は、倒してから一時間も放置すると、ダンジョンに吸収される。
故に必要な素材は早急に解体し、確保する必要がある。ダンジョンに接触していなければ、吸収されないからだ。
逆に今回のゴブリンのように、魔石以外いらない魔物は、死体の処理が必要無いので、非常に楽だ。
「二層の敵はゴブリンアーチャー」
ふむ。弓を向けられた事なんて無いから、ちょっと怖いな?
「ゴブリンの弓矢なら避けれるし弾ける。当たっても刺さるのは稀。階段はあっち」
矢を避けたり刀で弾いたりするのって、格好良いよね。ちょっとワクワクしてきた。
そこから歩くこと十分、二層へ到着した。
ここでも入り口付近は、若い冒険者達が休憩している。
流石に火を焚いたりはしてないようだが、お弁当を広げて楽しそうに食事中だ。ピクニックかな?
「水を飲んだら奥に行く」
俺達も一息入れる。入ダンからまだ二十分もたっていないが、こまめな休憩が大事なんだろう。水筒を取り出して宿の井戸で入れた水を飲む。クリエイトウォーターはMPの温存のため、使わない。
「ふぅ、よし。いつでもいけるぞ!」
「うん。弓矢での奇襲だけ注意して、出発」
奥へ奥へと向かう。現れたゴブリンアーチャーもなんのその。一匹ならカタナで、二匹なら魔法も使って倒していく。
ちゃんと矢を見てから躱せたぜ! 矢に対処出来てしまえば、攻撃頻度の低いよわよわ魔物だ。
この階層も三十分程で合格が貰えたので、三階層に向かった。
「三層にはゴブリンメイジが出る。突然火の玉が飛んできてもびっくりしない」
事前に聞いてなかったら、結構ビビっちゃったかもしれない。火の矢とか火の玉が飛んできたのでウォーターウォールが大活躍だった。
相手の魔法にタイミングを合わせてウォーターウォールを張って、魔法が消えたら懐に飛び込んで斬る。
慣れてくると、魔法で防がなくても躱せるようになったぞ! ファイヤーアローが腕に当たって軽い火傷をしたけど、軽傷で済んだのが逆に自信になり、大胆な行動をとれるようになった。
「もっと慎重に動く。ゴブリンメイジだから火傷で済んだ。怪我はミスの元で、回復するのに魔力やポーションも消費する」
シッカリ叱られたぜ。大いに反省し、しばらくゴブリンメイジ相手の訓練をこなした。
そして一時間後、アイリス先生のお許しがでたので、四階層へ進んだ。
「四階層はホブゴブリン、ゴブリンシーフ、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジが徒党を組んで出たりする。注意が必要」
いよいよゴブリンの強みである集団戦をしかけてくるらしい。
ホブゴブリンはゴブリンの上位種で、サイズも一回り大きくなるし、ゴブリンシーフも石の短剣を持っている。
立ち回りの優先順位をちゃんと考えないと、大怪我しそうだ。
「四層に入ったところに、キャンプがある。そこでしっかり休憩」
有難い。どうやら四層は初心者層のメイン狩場になっているようで、兵と冒険者で大きめのキャンプを築いているようだ。
四層に到着し、キャンプの隅っこを間借りしながら、水を飲んで干し肉を齧る。
異世界作品では不評な事が多い干し肉だが、今食べてるやつは、アイリスおすすめの雑貨屋で買ったモノで、凄く不味いという程では無い。いつも食いたいかと言われると、遠慮するが。
「美味しく無い」
その干し肉、アイリス先生には普通に不評だった。義務感で口に運んでいるみたいだ。苦い薬を我慢して飲む感覚なんだろう。体に良いから摂取する、そんな感じだ。
「なぁ、この階層って魔物が群れるんだよな? 対処は俺一人でするのか?」
さっきからずっと考えていたのだが、やはり集団に一人で挑むのは厳しい。特にホブゴブリンとゴブリンシーフは初見の敵、想定外のことも多いだろう。
「初めのうちは、アーチャーとメイジはわたしが倒す」
ありがたい、ちょっと安心した。
「注意すべき点はあるか?」
「ホブゴブリンは大きさの割には力がある。シーフは普通のより素早い」
まあ、そんなイメージはあるな? あまりヒントを与えずに、対処能力を身に付けさせたいのかも知れない。頑張ろう。
頭の中で色々な状況をシミュレートしながら干し肉を黙々と食べ、休憩は過ぎていった。