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5日目1 ご挨拶

 久々のお風呂でさっぱりし、眠りについた翌日。

 諸々の準備を終えて、集合場所の冒険者ギルド前で待機していると、何故か両親と共にやってくるアイリスの姿が目に入った。


 エレクトラさんは和かに、アイリスはいつも通りで、アイリス父はしかめっ面である。


「おはよう、カケル君」

「おはよう、カケル」

「…………」


 一人挨拶も出来ないやつがおるな。娘につく悪い虫だと思われてるのなら、無理も無いか?


 まぁ良い、ここは社交スイッチオンだ。


「おはようございます。エレクトラさん、アイリス、えーっと……」


 そういえば、名前を聞いて無い?


「――アポロだ」


 どうやらアイリス父は、アポロさんというらしい。


「お、おはようございます。アポロさん」


 気まずくはあるぞ。こんな時に明るく場を和ませるコミュ力が欲しい。


「あなた、ちゃんと挨拶」

「ぐ、アイリスの父、アポロだ。よろしく頼む」


 尻に轢かれているのが一目でわかるやりとりだ。男一人の家庭はさぞ肩身が狭いだろう。


「えぇ、よろしくお願いします。それで今日は、ご家族揃ってどうされました?」


 一家勢揃いは予想外だ。緊張してるぜ。


「アイリスがパーティーを組んだと聞いて、一応挨拶しておこうと思って。かなり変わったところのある子だけど、根は優しい子だから、よろしくね?」


「はずかしい」


 ご挨拶に来てくれたのか。アイリスは照れている。お年頃だもんな、わかるよ。


「勿論です! アイリスにはとても良くして貰っていて、感謝してますから」


「沸騰しそう」


 仄かに顔が赤い。俺も社交モードじゃ無かったら赤面していただろう。


 和やかに会話をしていると、アポロさんが突然、俺に向かってこう言い放った。


「おいお前、娘を傷つけようものなら、末代まで呪うぞ。研究の全てを生かしてな」


 恐ろしいな!? 研究者だとは聞いていたけど、魔法とか呪い関連の研究者なのか? 内容にちょっと興味あるけど、そんな話出来る雰囲気じゃない。


 突然の事態に固まっていると、アイリスがアポロさんをちょんちょんと突いて、小声で話しかける。


「お父さん? しつれい」

「う、うむ。だが……」


「だがなんてこの世に存在しない言葉」


 過言だろ。こそこそ話してるつもりかも知れないが、聞こえてますよ。

 アイリスの指導が終わると、アポロさんは俺に指を突きつけ、大きな声で忠告する。


「娘は私の人生そのものだ! 宝物のように扱うように!」


 すごい、往来の真ん中で言い切る勇気。道行く人々の奇異の目に晒されているが、気にならないんだろうか? 奥さんと娘さんは少し距離置きましたよ。


「え、えぇ。勿論です」


 俺もこの場を離れたいが、ここでちゃんと答え無かったら一生終わらない気がするから、頑張っている。


 十秒たっぷりと目を合わせたあと、


「ふん、まぁ良い。では失礼する」


 そういってアポロさんは去って行く。一安心した後、俺は距離をとって視線を逸らしていた二人に、ジトーっとした視線を向けた。


「そ、それじゃあ私は仕事があるから。アイリス、カケルくん、気をつけて行ってらっしゃい」


 ささっとギルドに逃げ込むエレクトラさん、判断がはやい。


 そしてアイリスはというと、


「――さあ、いざダンジョン!」


 握り拳を掲げ、いつに無く高いテンションで誤魔化しに来ている。焦って自分の足に蹴躓くあたり、見捨てた罪悪感はあるのだろうから、今回は許してやろう。


 黙って横に並ぶと、隣からホッと息を吐くのが聞こえた。

 それから西門を抜けて乗合馬車で一時間、俺たちはゴブリンダンジョンに到着したのだった。


「ここが、ダンジョン?」


 俺が開口一番、声に出したのは疑問だった。それもそのはず、どう見ても砦に囲われている。結構本格的な防壁があり、その上では兵士の格好をした人々が、内外を監視していた。


「そう、ゴブリンダンジョンがスタンピードを起こすと、外にゴブリンが定着して駆除が大変。だから封じ込めのために砦で囲ってる」


 なるほど、合理的かもな。


「建物に入って手続きする。今日は兵士の訓練日じゃないから、空いてるはず」


 どうやら新兵の訓練などで、ダンジョンが便利に使われているようだ。そうやって聞くと本当に神の恩寵的な側面があるのだなと感じるね。


「了解、行こう」


 門扉を抜けて砦の中に入ると、冒険者ギルドのような施設になっていた。

 飲食スペースもあり、食事もとれるみたいだ。流石にお酒の販売は無いようだが、それなりに人も居て、ご飯を食べてつつ話に花を咲かせている。


「ギルドみたいだな」

「そう、領とギルドの合同管理」


 へぇー。うまい事やってるんだなー。利益が競合する組織なんて、二つ揃えば仲悪そうだけど、偏見なのかもな。


「あそこで入ダン届を出して、奥の扉からダンジョンに入る」


 あそこ、と受け付けカウンターの一番隅っこを指差しながら教えてくれるアイリス。早速突撃だ!


「すみません。ダンジョンに入りたいんですけど、この書類で大丈夫ですか?」


 受け付けのお姉さんに声をかけながら、入ダン届けを見せる。


「はいはい、大丈夫ですよー。冒険者カードをチェックさせていただいても?」


 話しやすそうな人で助かった。俺は背嚢から、アイリスはバッグから冒険者カードを取り出して渡す。


「はい、おっけーです。帰還予定時刻を六時間過ぎると、捜索隊が派遣されます。数十万ラウ程、経費の請求が行く事になるのでお気をつけください。頑張ってくださいねー」


 なるほど、絶対に時間通り帰ってくる事にしよう。破産してしまう。


 受付を離れ、扉の前に立つ。


「じゃあ行く」


 こうして、朝からちょっとした騒動はあったものの、人生で初めてのダンジョンに入る事が出来た。

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