4日目4 イーリアス
「かんぱーい!」
雑貨屋でパーティーを組む事が決まったその日の昼過ぎ、俺とアイリスはギルドの酒場で、パーティー結成祝いをしていた。
「かんぱい」
パーティー登録は終わった。そこで、パーティー登録とは何ぞやというところから、説明しようと思う。俺もさっき説明して貰ったぜ。
今回行ったパーティー登録とは、主に報酬と責任、仕事を受ける際の評価、パーティーメンバーが亡くなった時の財産、これらの共有が主な目的で行われる。
一蓮托生の仲間になるって事だな。
パーティーメンバーが死亡すると、不審死じゃないかのチェックまで行われるらしいぞ。
残念ながらパーティーを組んだからといって、HPバーが見えるようになったり、通信が出来るようになったりなどの便利機能は無い。ちょっとだけ期待してたから、しょんぼりだ。
もう少し大きい枠組みとしてクランがあるみたいだが、そっちは緩やかな相互援助組織であることが一般的である。何事にも例外はあるようだが。
「しかしパーティー名、これで良かったのか?」
今回俺がつけたパーティー名は、【イーリアス】
ホメロスによって作られた叙事詩の事である。何故そんな名前にしたか?
アイリスの名前から連想したのも有るが、実はパーティー名については紆余曲折あったのだ。
それは十分ほど前の事。
「書類の記入も終わったし、後はパーティー名を決めれば晴れて登録完了だ。なんかアイデアあるか?」
俺はネーミングセンスなど持ち合わせていない。ただこういった時カッコウ良すぎる名前にすると、歳を重ねたときに後悔するのは知っている。
‡†知っているぞ†‡
アイリスが頭を悩ませながら、提案をしてくれる。
「んー、タカシーズ?」
「なんで!?」
ダサい。うちのパーティーにタカシ居ないし。由来聞かれたら毎回説明だぞ、いやだろ。
「じゃあ、アイリス&カケルでアイ&カケ」
「舞台に立たせようとしてる?」
隙あらばタカシをねじ込み、漫才をやらせようとする。油断してはいけない。
「二人合わせて、アリケル」
絶望的センス。このままでは無難な名前から遠く離れていってしまう。俺がアイデアを出さねば。
「こう、もっと普通なのが良いんじゃ無いか? 花の名前からとってみるとか」
「そんなのつまらない」
おーっと!自分のご両親に刺さってるからやめなさい。良いじゃない、可愛くて。
「そしたらそうだな。ここブラウンの名前を一部につけるとか? ブラウンソードみたいな」
「センスがない」
言いすぎだろ! 住人全員を敵に回わすつもりか?
「好きなモノの名前からとってみるとか、なんちゃらパフェみたいな」
「アリケルパフェ」
絶対にいやだ。どうしよう! へんな名前はごめんだ!
「んーじゃあ、俺が昔調べた――」
それから俺は必死に戦い、叙事詩の名前からとるなんていう、ちょっと厨二チックなところに落ち着いたんだ。
「大変だったなぁ」
時は現在に戻り、乾杯直後。パーティー名がこれで良かったのか、聞いたところだ。
「良い。カケルにしては、センスが良い」
カケルにしては!? まぁ実際俺のセンスでは無いのだが、悔しいので黙っておく事にする。ぐぬぬ。
「そ、そうか。じゃあ話題を変えて、イーリアスの活動方針について話をしよう」
人生には短期目標と長期目標が必要だと、偉い人が言っていた。目的をハッキリとさせないと、成果が曖昧なものになるとも。地球時代ならいざ知らず、この異世界でアイリスと組む以上は、しっかりせねば!
「レベル上げる。魔法覚える。お金稼ぐ」
やっぱりそうなるよな。何をするにも強さとお金は必要だ。町の外は魔物や盗賊など、危険なモノで溢れてる。
この世界、魔道具の影響で犯罪者は罪を償う場合を除いて、町に入れない。という事は、町の外にはかなり覚悟の極まった盗賊が居たりするはずだ。
ステータスも振れてないかもしれないが、抜け道というのは何処にでもあるもんだ。
「具体的にはどうする?」
また森で狩かな?
「ダンジョンに行く。F級ゴブリンダンジョンとE級森林ダンジョンはわたし達でも入れる」
なるほど、アイリスはEランク。俺はまだFランクだが、パーティーを組んだ事で入ダン条件を満たしているのだろう。
「先にゴブリン、終わったら森林」
ランクの低い方からという事か、妥当な気がする。
「ゴブリンダンジョンは五層までしか無い。すぐ終わる。カケルは今何レベル?」
「昨日17になったところだな」
ゴブリンダンジョンはボスでもゴブリンリーダーまでしか出ないらしいから、いけると思われる。
「……思ったより高い。二日もあれば森林ダンジョン行けるかも」
おお、サイクロプスさまさまだな! もう簡単に勝てようになるまで、現れるんじゃ無いぞ。
「じゃあ、明日からゴブリンダンジョンに潜るって事で良いな?」
もう十四時を回っている。ダンジョンの近くに作られた町とはいえ、それなりに距離はある。今日行ってアイリスの門限前に帰ことを考えると、攻略はできないだろう。
特別な事がない限り門限は十九時らしいぞ。
「良い。入ダン届け書いて、準備する」
この町の近郊にあるダンジョンは、日本の登山計画書のように、予定を記した入ダン届けという物を提出する義務がある。
過疎地にあるダンジョンとかだと必要無かったりするらしいが、それはつまり誰も助けに来てくれないという事だ。怖い。
「とりあえずの予定は立ったな! じゃあ解散か?」
俺は公衆浴場に行くんだ。
「まだ十四時、簡単な依頼をやると良い」
流石アイリスさん、働き者だぜ。
こうして予定を決めた後、草むしりや失せ物探しなどの依頼をこなし、やっとの思いで公衆浴場にたどり着いた時には十九時を回っていた。
一日中動き回って疲れた後の風呂が最高に気持ちよかったのは、いうまでも無いだろう。