4日目2 笑顔はプライスレス
「私が来た」
タカシの影響を感じる台詞で登場したのは、やっぱりアイリス。名言集とかネットミームでも纏めてんのかな?
「はいはい。じゃ早速行こうか。そういえばお父さんは大丈夫だったのか?」
頭の方が特に心配です。
「お母さんとお説教した。今は仕事に戻ってる」
おお、なんというか、父親の悲哀を感じる。自業自得だけどちょっと可哀想。
「お父さんは研究者。頭は良いのに、たまにすごいおバカ」
愛情が暴走すると奇行に走る感じか。悪い人では無いんだろう。殺すなんて言ってたけど、手は出してこなかったし。
「まあ、色々な人が居るよな。うん」
別にフォローにもなって無い、適当な言葉で話を纏める。
「うん、居る」
アイリスも適当だな?
アイリス父のその後を聞き、宿屋の入り口を抜けてギルドの受け付けに行く。
本来は買取用カウンターに行くのだが、近くの森にサイクロプスが出た事の報告もしなければならない。
「カインさん、少しお話しがあるんですが、今大丈夫ですか?」
当然話しかけるのはカインさん。安心感が違うね。
「どうかされました?」
「実は昨日、南西の森の浅いところでサイクロプスと出会いまして」
とりあえずの報告。
「サイクロプスですか、それは珍しいですね。証拠になるモノをお持ちですか? 足跡などあった場合、そちらに案内していただく事になります。少ないですが報酬も出ますよ」
そうカインさんが言うと、アイリスが横からズイッと野球ボールサイズの魔石を突き出す。
「コレ」
「これは……報告ありがとうございます。魔石の鑑定をして確定させた後、広く注意喚起をする事になります。しかし……」
歯切れが悪い。何か困ってそうだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、最近多いのですよ。魔物が本来の分布から外れた場所で発見される事が」
これは……異世界あるある、スタンピードとかか?
「スタンピード?」
アイリスがストレートに聞く。直球ガールだ!
「いえ、スタンピードであれば兆候として、弱い魔物の森を出る数が増えますから、違うとは思うのですが……。とにかくお二人も、森に入る場合は気を付けてください」
「はい。そうします」
それはもう気を付ける。一度死にかけてるのだ。三日で一死亡、一死にかけだ。年間二百四十三回ペース。やばいぜ。
「それでは鑑定をして参りますので、少々お待ちください」
そう言ってカインさんは奥に引っ込んでいく。
「こうゆうのって、何分くらいかかるものなんだ?」
本と見比べながら、鑑定したりするんだろうか。
「五分もかからない、専門の鑑定魔法使いが居る」
「鑑定!!」
俺も持ってる。稀に戯れで使うレベルに使用頻度は落ちたが、一応。カスらしいけど。
「鑑定スキルって、どう習得するんだ?」
「ギルドが管理している、いくつかのダンジョンのボスからドロップする」
ほえーすごい既得権益。カスから更新したかったけど、無理そうかな。
「年にいくつか出物になるけど、国や貴族、大商家が買う」
あぁ、無理そう。
「それら以外で習得してる人は、Bランク以上のダンジョンで、宝箱から出したりしてる」
それだ!大分先になるだろうけど、それも目標の一つにしよう。
「いつか手に入れる!」
「がんばる」
うむ、頑張るぞ!
鑑定について教えてもらいながら待っていると、奥の部屋からカインさんが戻ってきた。
「サイクロプスの魔石で間違いありませんでした。ありがとうございます。買い取りの場合70万ラウ程になりますが、どう致しますか?」
70万ラウ!? そ、そんなに? 高すぎない? Bランクの魔物って、まだ上にAとかSもいるんだよな? Bランクダンジョンに行こうモノなら、億万長者では?
「普通より高い」
あ、やっぱそうなのね。
「はい。かなりの魔力濃度らしいので、この値段です」
そういうのもあるのか。
「売る」
この世界に来て三日目、俺は三十五万を稼いだ。年間四千万超のペース! 夢が広がるな!
「ではあちらの精算カウンターにお願いします」
「ついでに他の魔石も売る」
そういえば俺が二十匹ちょっと、俺が狩れない魔物をアイリスが数匹倒していた。
思わぬ収入に顔を綻ばせながら、懐に36万ラウを仕舞い込み、ギルドを後にした。
「これからどうするんだ?」
ギルドを出たところでアイリスに話しかける。俺はとりあえず武器屋と雑貨屋だが。
「一緒に武器屋へいく」
ついて来てくれるのか。初めて商品買うから、ありがたいぜ。
武器屋は何処だったかなと思案していると、アイリスが案内を買って出てくれた。
「こっち」
大通りから外れた道へ入り、そこからさらに小道に入る。こんな場所に武器屋なんてあるのかな? と思いながらついて行くと、少しずつ金属を叩く音が聞こえて始めた。
さらに数分歩いていると、小道を抜けて広い通りにぶつかる。
「おおー」
その通りには鍛冶屋、武器屋、防具屋、魔法具屋に金物屋、さらに沢山の飲食店が軒を連ねれ、職人や冒険者、商人らが練り歩いている。ドワーフも多くいて、居酒屋では酒盛りが行われていた。
「活気あるな!」
「うん、凄くある。武器屋はこっち」
そう言って更に進むアイリスを追いかけると、個人経営であろう、味のある外観の店についた。
「ここ」
躊躇いもなく入って行くアイリスに、俺も続く。
「レギン、タルタ、居る?」
アイリスがカウンターから奥に声をかける。
すると奥から髭もじゃで、ずんぐりむっくりなドワーフ然とした男が出てきた。
「なんじゃ?おお、アイリスか、久しぶりじゃな」
「うん、久しぶり。今日はお客さん連れて来た」
どうやら顔馴染みらしい。
「珍しいな。坊主、鍛冶屋のレギンじゃ。本当は店番にもう一人居るんじゃが、今日は生憎留守でな。ワシがみよう」
「新人冒険者の古昌カケルです。よろしくお願いします」
鍛冶屋のドワーフ、それだけで、もう凄そう! テンションあがるね。
「カケルの武器が壊れたから、新しいの買いに来た」
うむ、たった二日で壊してしまったのだ。そうだ、壊れた剣の扱いはどうすれば良いのか、先に聞いておこう。
「そういえば、使え無くなった剣を持ってるんですけど、この剣のお陰で生き残れたので、良い感じに供養出来ないかなと思いまして」
そう言って袋から折れ曲がったショートソードを取り出す。
「ふむ、使い手を守れたなら剣も本望じゃろ。鋳潰して、別の形で人の役にたつようにしてやれば良い。当てがないならこちらで引き取るぞ?」
なるほど、そういう考えもあるか。他に鍛治職人の知り合いなどいないし、お願いしよう。
「すみません、よろしくお願いします」
「うむ」
そう言ってレギンさんは曲がりくねったショートソードを引き取ってくれた。
「新しい装備も、ショートソードの予定なのか?」
奥の部屋に剣を置いて来たレギンさんが、確認の声をかけてくる。
これに関しては値段をみて決めようと思っていたので、未定だ。
「いえ、現物を見てと思っていたので、特に決めては無いです」
さっきから店に並んでる武器を見ていると、ワクワクがとまらない。剣が多いようだが、槍や斧、メイスにフレイル、使い方の分からない謎の武器まで沢山ある!
「そうか、まぁじっくり選ぶがよい」
やっぱりショートソードかロングソードあたりが無難かな? 俺みたいな素人が持つなら槍の方が良いらしいが、森やダンジョンで使う事を考えると、取り回しが悪い気がする。
色々な武器を見てうんうん悩んでいると、アイリスが口を開く。
「カケル向けの武器がある」
そんなのあるの?
「こっち」
アイリスの先導について店内の奥へ進む。
「コレ」
店の最奥にある棚からアイリスが手にとったのは、まごう事なき日本刀。メチャクチャ馴染み深い、異世界作品のお約束武器である。
いやもう皆刀剣を持ってるイメージあるし、辞めとかないか? ヌンチャクとか持つよ、ヌンチャク。
「タカシの本に乗ってた。カタナ」
タカシ、良い加減厨二病は卒業しなさい? カッコイイのは分かるけど。中三の修学旅行、俺は木刀を我慢して八橋をお土産に選んだぞ?
「タカシは黒髪のモヤシだったらしい」
急に共感を覚えたぞ、言いすぎてごめんなタカシ。
「生涯独身だったと言われている」
同情を隠しきれないし、この情報は多分必要無い。
「出会う女の子全員をイヤらしい目で見てたって」
タカシ、同郷なのが恥ずかしいよ。
「だからカケルに相応しい」
「どういう事かな!? イヤらしい目で誰も見てないし、結婚だっていつかは出来るはずだ!!」
モヤシは否定しようが無いが、これからは頑張って鍛えようと思わされる会話だった。第二のタカシにはならない、ノーモアタカシ。
「わたしのダガーの名前を、このカタナに譲っても良い」
ん?ダガーの名前って確か……?
「タカシじゃねーか! いらないよ!?」
そんな名前を襲名したくない!
何故そこまでタカシを推してくるのかは分からないが、俺に刀を使って欲しい様子。
「カタナ、使わない?」
別に日本刀が嫌いなわけじゃ無い。むしろカッコいいから好きな方だ。
歴代の使い手が、多すぎる上にカッコ良すぎるから、ちょっと個性を出そうとしただけ。心なしか悲しそうに尋ねて来るアイリスを見ると、そんな理由で断るのがバカらしくなってきた。
使ってやろうじゃないか、日本刀! 剣聖、上泉信綱に憧れてチャンバラごっこをした子供時代。あの時胸にいだいた憧憬に、一歩近づいてやる!
「分かった。それ買うよ」
ふふ、腹を決めちまえばなんて事はない。そもそもステータスは魔法使い特化なんだ。片手で武器を扱わなきゃいけない事があるかもしれない。攻防一体の武器である刀は、悪く無いだろう。
「いいの?」
「うん、いいよ」
「三十万する」
「マジで!?」
いやしかし、日本刀の値段としては、高級品には届かないくらいか? 確か昔の日本じゃ高いのは数百万円から数千万円したというし……。
そう考えてるところに、レギンが現れた。
「そのカタナにするのか?モノは良いんだが、いかんせん使う人間が少なくてな。小さな刃こぼれ程度なら鞘に仕舞えば治る、自動修復魔法も付与されている。三十万でもかなり安い、逸品じゃよ」
「買った!」
さらば俺の30万ラウ。短い間だったが、良い重みだったぞ。またいつか会おうな。
こうして俺は新しい武器を手に入れた。
所持金の大部分は無くなったが、武器の質は申し分無く、刀を腰にさして歩く俺の隣で、心なしか嬉しそうに歩くアイリスも見れたのだ。
お値段以上の買い物だったと言っていいだろう。